夏目漱石「こころ」下・先生と遺書四十三「愛の目的物に燃える熾烈(しれつ)な感情」(あとがき付き)
「その頃は」、「覚醒とか新しい生活とかいう文字のまだない」「古い」「時分」だった。「しかしKが古い自分をさらりと投げ出して、一意に新しい方角へ走り出さなかったのは、現代人の考えが彼に欠けていたからではない」。Kも、現代人が持つべき新しい考えを持っていた。覚醒、目指すべき新しい方角。それらへの意識や思考を、Kも有していた。
しかしKには、「投げ出す事のできないほど尊(たっと)い過去があった」。「彼はそのために今日(こんにち)まで生きて来たといってもいいくらいなの」だ。「道」を目