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思い出せない店

何でも美味しい美味しいと食べるもんだから、味の特徴の違いは言葉に表せても良し悪しがわからないので、うまい店、なんてものが全然わからない。
おいしさも大事にしつつ、同じくらいに目新しさとかお店の雰囲気とか込みで外食を愛しているからだろう、楽しいお店を答えることはできてもおいしいお店となると途端にハードルが上がって答えにくい。ただ、なぜか美味しい店を教えてと聞かれまくる。ちょっと困る。


おいしい焼肉屋さんはどこかと聞かれると、新卒の時に偉い人に連れられた焼肉屋さんが真っ先に思い浮かぶ。ただ、連れられた店の名前が全然思い出せない。
場所も、後ろからてくてくとついてっただけなので、大体この辺!とざっくりにしかわからない。
でも確かに、舌が発展途上な私にも分かる美味しさではあった。あと、その偉い人は私と、もう1人一緒に連れてきたスタッフが早く辞めそうだから止めるために焼肉に連れてきたんじゃないかと思う。お互い、それから一年以内に退社した。


宮城に研修旅行に行ったときに連れられたお寿司も絶品だった。あまりにもみずみずしくて、お魚って海の生き物なんだなと実感した。人間も6割が水だというのに、己の手のカサカサ具合が恥ずかしくなった。
もちろん場所も名前も覚えていないし、先生が全部出してくれたので値段もわからないけれど、それなりの値段だと思う。食べる前に写真を撮ろうとしたら「撮っていいか確認した方がいいと思う」と指摘されたことは覚えている。
もう一度旅行に行ってあの寿司屋に行きたいと思うのだけど、仙台、ということしか覚えてない。ひっっろ。

この世で一番美味しいと思ったケーキは、最近までケーキの名前すら知らなかった。
母と一緒に母の国へ里帰りした時に、その国における六本木みたいな立ち位置の街に一緒に繰り出した。あきれるほど渋滞が続いた先にたどり着いたピカピカな街を見てときめいた。
母が若い時に目指していた日本は、本当はこんな場所だったんじゃないだろうか、と勝手に申し訳なくなった。大阪の郊外のなんもない田舎に引き止めてしまってごめんね、母。
とにかくこってり甘くて、バターをまるごとかじっているかのようなケーキ。覚えたてのブラックコーヒーと一緒に食べるとたまらなく美味しかったのを覚えている。その後の晩ごはんは何にも入らなかったけれど、それでいいと思った。おいしいケーキなら、おいしいケーキを締めに眠りたいもの。
インターネット大先生に、そのケーキは「サンス
リバル」と教えてもらった。
時間の流れの早そうなあの街で、あのスイーツショップはまだ生き残っているだろうか。


名前は与えられないけれど、思い出には残り続ける店々。
やはり味だけで覚えているというより、食べたあの日丸ごと、美味しかった思い出になっているんだろうな。

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