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歯と歯のソーシャルディスタンス

「会いたい人にこそ会えない」という状況が続いている。

その人が自分にとって大切であればあるほど、会いたければ会いたいほど、離れていた方が、相手を守ることになる。

遠方の友人にも、高齢の親にも、とにかく、物理的にに距離を取れ、と。

なんだそれは。

心の準備が整わないままに「新しい時代」とやらが始まってしまった。

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歯医者さんには、定期的に通っている。

舌の側面にクッキリと歯の形が残っているほどに歯の食いしばりが過ぎる私は、頭痛や肩凝り、歯の痛みなど、食いしばりが原因の不調が時々現れる。だから、虫歯がなくても、歯医者さんには定期的に診てもらうのだ。歯をクリーニングしてもらいながら、ナイトガードと呼ばれるマウスピースの点検をしてもらったりもする。

寝る前にマウスピースをはめる生活になって10年近くになるけれど、これまでに、治療によって歯の形が変わって作り直したことはあっても、壊れて交換したことはなかった。歯医者さんの推奨する「お口の健口(健康)は身体の健康」や「幸福は口福から」を目指して、それなりに、歯もマウスピースも、大事に扱ってきたのである。

毎晩、寝る前にマウスピースをはめて、朝起きたら外して洗う。
これはもはや、私のルーティンとなっている。

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しかし、先日、それは起こった。

寝ている間に、バキッという結構大きな音がして耳に響き、目が覚めたのだ。
その時は、それが夢なのか現実なのかよくわからないまま再び寝てしまったけれど、朝起きてマウスピースを外して洗う時、よくよく見てみたら、マウスピースの奥歯が当たるあたりにヒビが入っていた。

食いしばりから歯を守るためのマウスピースを、食いしばりが過ぎて割ってしまうとは!
歯医者さんによると、私の自前の奥歯にも、微妙なヒビ割れがあるそうだ。
自分の食いしばりで自らの歯にもヒビを入れるとは!
…我ながら、自分が怖い。


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どうして私は、そんなにも食いしばってしまうのか?

思い当たるフシなら、いくらでもある。

自分の健康、家族の健康、家計の心配、子どもの受験の心配、親の老いの心配、仕事の心配…。そして、今、世界中を悩ませている、あの厄介なウィルスよ!

こんな禍々しさの中で子が受験するのは、昨年で終わりだと思っていたら、何ヶ月経っても「禍」は一向に収束しない。このままでは、もう1人の子の受験にも丸かぶり。

大迷惑である。

これが夜中に歯を食いしばらないでいられようか。いや、いられない(反語)。

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「新しいマウスピースを作るので、型取りしますね〜。寝てる間は仕方ないですが、起きている時も、ママンさんは無意識に食いしばっていると思うので、上下の歯を離す、ということを、いつも意識してくださいね〜。」

歯科衛生士さんはいつも優しいけれど、内心、
「この人、どんだけ食いしばんのよ?どんだけ肩に(歯に?)力入れて生きてんのよ?」
と、思ってらっしゃるのではなかろうか?

型取りの冷たい素材が口に入った時、小さなヒビが入っているという自前の奥歯付近で、しみて痛かった。「やっぱりヒビがあるんだな〜」
と、しみた痛みが遠のくのを待ちながら、考えた。

ストレスや不安や、心配事から解き放たれない限りは、私の「食いしばりが過ぎる」状態はきっとまだまだ続く。
でも、ストレスや不安や心配事がまったく無くなる日なんてありえないのだから、そのたびにちょいちょいマウスピースを割っているようでは、面倒極まりない。

これはもう、「ストレスがかかっても食いしばらない私」を目指すしかないのではなかろうか。

歯を離す。
上の歯と下の歯を離しておく。
歯と歯のソーシャルディスタンスだ。

起きている間でも、仕事をする時、家事をこなす時、車を運転する時、
「あ、今、食いしばってた。」
と気づくことがある。
だから、せめて起きている間だけでも、上下の歯は離しておきたい。

上の歯と下の歯に、ソーシャルディスタンスを保ってもらいたい。
お互いを守るために。
噛み合わせの大切なパートナーだからこそ、普段は物理的に離れていないといけないのだ。

歯と歯のソーシャルディスタンス

目下、継続中。


書斎にて。   maman.

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