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『自分の「声」で書く技術ー自己検閲をはずし、響く言葉を仲間と見つける』 英治出版

監訳者より本書を紹介していきます。


【書籍情報】

タイトル:
『自分の「声」で書く技術ー自己検閲をはずし、響く言葉を仲間と見つける』
英治出版より、2024年2月18日刊行 
販売情報 https://eijipress.co.jp/products/2331
取次情報 https://eijipress.co.jp/pages/forshop/

【本書概要】

書く喜びを、取り戻そう。
書く理由を、再び自分のものにするために。

"フリーライティング"で、去来する言葉を漏らさず可視化し、
荒削りな生の素材を”グローイング”で育み、”クッキング”によって組み合わせ/反応させ/摩擦させてみる。
"ティーチャーレスクラス"に互いの試作品を持ち寄り、信頼に基づいたフィードバックを贈り合うことで、自分の言葉のリアルな響き=「声」の輪郭が明らかになっていきます。
フリーライティングとティーチャーレスクラスを往還するプロセスを通して、あなたが言葉を届けたい相手、そして言葉を書く理由自体が姿をあらわしていくのです。(上記各フェーズ間の関係性についての図示

書くことは、聞くことと不可分です。
フィードバックの授受や、"ビリービングゲーム"と"ダウティングゲーム"の使い分けを通して自他の相互行為を重ねる時間が、久しく触れてこなかった大切な感覚を思い出させてくれます。
それは、書くこと/読むこと、聞くこと/話すことが根でつながっていることの本質的な意味を体感する時間となるでしょう。

あなたがこれから歩む、”自分の「声」で書く技術”を身につける過程に、無駄だと切り捨てられるべき瞬間はまばたきほどもありません。
それどころか、まさにあなただけの言葉を見つけていくプロセスこそが、あなたがあるべき方向を見出すための、確かな後押しとなってくれるのです。

【監訳者からの言葉】

本書は、なによりも「実践するあなた」に向けて書かれました。
言葉を書くことで、あなたの人生が紡がれていく〈導きの書〉となれば幸いです。

どうぞジャンルを横断して--教育や創作から、ピアグループやコミュニティービルディングに関心のある方まで--お手にとって頂ければと思います。
実際に本書のメソッドを体験された各分野の専門家へのインタビューを、
英治出版online にて準備中です。

日本語話者の知恵を持ち寄って、本書を現代のシビアな情報環境に対応できるようアップデートしていけたなら、未来の世代への心強いバトンとなるはずです。

英語圏のライティング教育に大きな影響を与えた本書は、従来のトップダウン型の書き方教育に新たな選択肢=オルタナティブを具体的に提示します。
それは、書く行為の創発性を重視し、対等な立場にある読み手からの贈与的フィードバックを取捨選択する過程で、書き手は書く目的と方向性を何度でも獲得し直すことができる、というものです。
「言葉」の持つ、そもそも独占は叶わず、授受によって価値の決定されるという性質と正面から向き合った本書のメソッドは、現代の日本語話者のストレスフルな情報環境にとって、ひとつの光明となりうるものではないでしょうか。本書からの「書くことの喜びを取り戻そう。伝わる言葉を諦めずに」というメッセージは、あの「光あれ」の言葉とも響きあうように感じています。

私は、原著『Writing without teachers -Twenty fifth Anniversary (second & new) edition』(Peter Elbow著 /Oxford University press刊行)の本邦初訳の企画からはじまり、「全体監修」の役割を担っています。
本書の訳文の監修、「まえがき」と「解説」(本書の活用法や私の実践例)、さらに本書のテーマ”ライティングの民主化”を実践し、深く考えていくための「ブックリスト」(文学/人類学/対話/芸術の14冊)を執筆しました。

本書のミッションである「書くこと=(自己)表現の民主化」ー書く行為を少数のプロフェッショナルによる独占から万人に開くこと、そして書く行為を、孤独で内的な営みから読み手との間で発見が創発される協働へと拡張することーが実現した世界を、イメージできるきっかけとなりますように。

お時間の少ない向きには、ぜひ「解説」パートから目を通していただければと思います。そこには"自由に言葉を書くこと、そしてその言葉が現実に化学反応をもたらすことの喜び"がジャンルを越えて伝わりますように、との思いで携わった10年の実践がつまっています。巻末「関連ブックリスト」を含め、ご自身のアンテナに引っかかるものがあれば幸いです。

今後も本書の内容を実践するワークショップやご相談などありましたら、ぜひお気軽にお声がけください。
みなさまのお力を持ち寄って、本書を次代への協働的なバトンとして育んでいける機会との出会いをこころから楽しみにしています。

Aki Iwaya /岩谷聡徳
https://akiiwaya-vscollective.studio.site/
https://www.instagram.com/vsvscollective/
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【メディア掲載】

「#本チャンネル」本屋B&B・バリューブックスの内沼晋太郎さんYoutube & podcast 2/22 公開
「NewsPicks | 経済を、もっとおもしろく。」ブログ/公開予定日
「英治出版online」にて まえがきを公開中(有識者インタビューも公開予定) 
レビュー by あすこま先生(軽井沢風越学園「作家の時間」授業ご担当)
レビュー by登久希子さん(芸術人類学者・「小山さんノート」書き起こしメンバー。ティーチャーレス・クラスにご注目頂きました)
レビューby ニシブマリエさん(問い続ける時代の企業ブログ「リブセンス」編集長・ライター)”「書けない」を書く/「書けない」の根っこには「書きたい」という願いがある"ー書くことの二面性に言及頂いています
レビュー by 倉下忠憲さん(情報術に関する著作家)のポッドキャストにて Tak.さんと共に 90分語って頂いてます。フリーライティングについてなど
考察 by 倉下忠憲さん :書くことにまつわる構造的な落とし穴が原理的に考察され、「正解」や「現代の情報環境」「脱規範」や「規範の再生成」に言及されています。
レビュー by 川野太郎さん(英語圏文学の翻訳者):「いま書けなくてもいい」「その時々に自分の背中を押してくれるような言葉が、繰り返し、あちこちに、さまざまなフレーズで散りばめられている」「これは役立つ道具のつまった道具箱で、ある状況にあって特定の言葉を必要としている人が、役立つと感じる部分を取り出せばいいのだ」

【関連イベントの開催予定】

探究学習講座@コムレジ 3/2 by(株)ミエタ
出版記念トーク@英治出版 Base :3/7 pm7-
Street River・Beer&Bookトーク@渋谷ストリーム(w Aokid): 3/26 20時〜
フリーライティング×珈琲テイスティング@オトナリ珈琲 :4/7(日)9時半、5/5(日)10時
ライティングWS@たてよこ書店 : 4/13(土)午前10時〜
トーク胡桃堂喫茶店 (w 影山知明さん : 4/21(日)午前9時〜
自分の「声」で書くライティング講座 PARA神保町(オンライン) 5/16より毎週木曜20時〜全8回
人が集まることの脱構築」講座@うそのたばこ店@ 4/10より隔週水曜20時〜21時半(オンライン参加可)
トーク@みんなの一箱図書館さかいめ 御殿場 開催日
トーク&ワークショップ@真鶴 開催日
オフィスワーカーの”その人性”を取り戻すWS「劇作家松井周の標本室」@YAU(有楽町アートアーバニズム) 6/22

自分の「声」で書くライティング講座 @オンライン・連続8回
(※お問い合わせにこたえるかたちで、6月以降開始で開講を調整中です。
日程が決定次第、このnoteやXから若干名を募集させて頂きます) 

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【本書を深く理解するためのブックスリスト】

以下「レコメンドブックリスト14冊」の概要を、Xにて掲載中

テーマ①:「言葉が書けない」を理解する
 『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論
千葉雅也、山内朋樹、読書猿、瀬下翔太著/星海社/2021年
 『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観
ダニエル・L・エヴェレット著、屋代通子訳/みすず書房/2012年

テーマ② :「物語ることがもたらす意味」を理解する
 『新装版 ポール・オースターが朗読する ナショナル・ストーリー・プロジェクト
ポール・オースター編・朗読、柴田元幸他訳/アルク/2019年
 『傷ついた物語の語り手 身体・病い・倫理
アーサー・W・フランク著、鈴木智之訳/ゆみる出版/2002年

テーマ③:「自己検閲」をはずす―フリーライティング実践のヒント
 『裸のランチ
ウィリアム・バロウズ著、鮎川信夫訳/河出書房/2003年
 『夜露死苦現代詩
都築響一著/筑摩書房/2010年
 『パルプ
チャールズ・ブコウスキー著、柴田元幸訳/筑摩書房/2016年

テーマ④:「他者と応答し合うということ」を理解する
 『プリズン・ブック・クラブ コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年
アン・ウォームズリー著、向井和美訳/紀伊國屋書店/2016年
  『ナラティヴと共同性  自助グループ・当事者研究・オープンダイアローグ
野口裕二著/青土社/2018年
 『<責任>の生成 中動態と当事者研究
國分功一郎、熊谷晋一郎著/新曜社/2020年

テーマ⑤ :フィードバックをどう扱うか―ティーチャーレス・クラス実践のヒント
 『カール・ロジャーズ 静かなる革命
カール・R・ロジャーズ、デイビッド・E・ラッセル著、畠瀬直子訳/誠心書房/2006年
 『オープンダイアローグ 私たちはこうしている
森川すいめい著/医学書院/2021年
 『トム・アンデルセン 会話哲学の軌跡 
リフレクティング・チームからリフレクティング・プロセスへ

トム・アンデルセン著、矢原隆行著・訳/金剛出版/2022年

総合編 :書くプロセスを習得するために必要なこと
Writing With Power -Techniques for Mastering the Writing Process, 2nd Edition
ピーター・エルボウ著/オックスフォード大学出版局/1998年

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①「言葉が書けない」を理解する
ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論
千葉雅也、山内朋樹、読書猿、瀬下翔太著/星海社/2021年

本書の実践者にお勧めすることも多い1冊。
率直にいって、「苦労」しているープロの書き手でもこんなに書くことに難儀している。「書けないこと」をハブとして互いに語り合うさまは、“ティーチャーレス・クラス“/水平な立場のピアグループの効能を想起させます。
締切という“有限化“の力も借り、彼らは書き上げることができたのか?我執からの解放は?読み物としてもエキサイティング。現代の情報環境に適応するヒントも。

ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観
ダニエル・L・エヴェレット著、屋代通子訳/みすず書房/2012年

言葉を書くことをゼロから考えてみる。
語るものとしての言葉を考えることで、書く/書かれるものとしての「言葉」を見つめ直すことができます。
過去形や未来形が使われず、1人称が私を越えた集団を意味するとき。時間や所有の概念は変容し、ポジティブ/ネガティブ、拘束/解放の境が揺れていきます。「自己検閲」の輪郭も揺れるそのとき、「言葉が書けない」とは、どんな事態を指し示せるでしょうか?

テーマ②「物語ることがもたらす意味」を理解する
新装版 ポール・オースターが朗読する ナショナル・ストーリー・プロジェクト
ポール・オースター編・朗読、柴田元幸他訳/アルク

作家はラジオで「あなたの実話」の投稿を呼びかけます。リスナーから集まった小さな物語を聞いた作家は、「アメリカが物語るのが聞こえた」と言います。固有の声が集まり、大きな物語を浮かび上がらせる。同時に、物語は「聞かれること」を通して物語となっていきます。声の大きさや巧みさでなく、肌理を通して聞かれることーそうして物語は、生きる人の生の土台を築いていくのです。語る⇄聞く·

傷ついた物語の語り手 身体・病い・倫理
アーサー・W・フランク著、鈴木智之訳/ゆみる出版

語ることが、語る者に与えるフィードバックの存在ー語る声はまず、語る者の中で響いていきます。自己の語る声が自己にフィードバックし、新たな声を呼び起こす。ティーチャーレスクラスでアウトプットが聞かれることで、フリーライティングは一方向の自分語りから離陸します。
フィードバックが再帰的なフィードバックループを構成するとき、あなたの声はあなたを超出し、聞き手との協働の色を纏いはじめます。その「声」の身体性は、ある種の/新たな“倫理“を呼び寄せるのかもしれません。あなたと病がフィードバックループの契機として声を用い、声に用いられる光景が目撃される。読み手とあなたが目撃する。·

テーマ③「自己検閲」をはずす―フリーライティング実践のヒント
裸のランチ
ウィリアム・バロウズ著、鮎川信夫訳/河出書房

ブレーキとアクセルは同時に踏み込むことができない。
文法的正しさ?社会的評価?追いすがる軌範意識を置きざりにするスピードがフリーライティングによって実現された作品。 文は意味の乗り物というだけではない。スピードが意味をなす。編集は後から行えばいい。裸のランチの場合は“カットアップ“だ。彼の盟友は21日間タイプライターを叩き続けた。それは路上の物語、スピード=止まらない流れとしての物語、ケルアックの『オン・ザ・ロード』

夜露死苦現代詩
都築響一著/筑摩書房/2010年

自己検閲は、他者評価を意識するところに働きます。
さあ表現して下さい、と用意されたのではない場所で生まれた表現をみていくことで、表現と自意識の関係が拡張されることでしょう。 「プロ」である、と他者から評価された者だけが表現を行う権利を有するのではない。表現は評価よりも先に生まれてくるのだ、という当たり前すぎて忘却(抑圧?)されてしまいがちなリアルを、「夜露死苦現代詩」は指し示します。
表現が生まれるための本質的な条件は、事後的・関係的な“評価“よりも生成的な必然性。めまいがするような実例と共に、限界芸術-非専門家が生み出し、非専門家が享受する芸術-の根源的生命力を思い知らせてくれます。

パルプ
チャールズ・ブコウスキー著、柴田元幸訳/筑摩書房/2016年

物語は一見きまぐれ。それでも読めてしまうのはなぜか?
物語はきまぐれではいけない?言葉は正確でなければならない?端正な美文でなければだめ?つじつまがあわないと読めない?
人は言葉を読みながら、言葉の流れ方を読んでいます。脱線には脱線の流れ、つまり必然性があるのです。そして人は、流れの必然性に説得されることで読み進めていきます。
この流れとしての運動は、書く行為を通じて、自己内や自分と世界の間の検閲や摩擦をすり抜けることで獲得されていきます。読む私は、流れの運動に乗せられて、読む前には想像もしなかった地点へと運ばれることでしょう。流れの発出点としての書くあなたは、言葉に乗った私を私の外へと連れ出します。書くことと読むことは、一度きりの旅の行きと帰りーあなたと私ーなのです。この運動の共犯関係が導く旅に「脱線」や「誤字」など存在しないのです。

④「他者と応答し合うということ」を理解する
プリズン・ブック・クラブーコリンズ・ベイ刑務所読書会の一年
アン・ウォームズリー著、向井和美訳/紀伊國屋書店/2016年

反対の岸に立つ他者と、正面からにらみ合う必要はありません。
何か、例えば読書を介して取り結ぶ関係はありうるでしょうか?
「私は、この一文を読んで、こう感じた」ーこうして、誰にも侵すことのできないあなただけの感覚が大きなテーブルのうえに置かれます。いくつも並べられていく複数の感覚は互いに響き合い、あるいは響かないという方法で関係を取り結ぶことになります。
ときには、距離があることによって受け入れられるということもあるでしょう。受容や学び、変化は起こすものではなく起こるものと考えてみます。他者を採点対象とするダウティング・ゲームのみに耽るのでなく、他者に入り込むビリービング・ゲームもプレイしてみること。私とあなたが、距離を伴いながらも、言葉を依り代として応答する。距離とあり方の交差する「場」の力学を感じ取ることで、あなたには何が起こるでしょうか。

ナラティヴと共同性 自助グループ・当事者研究・オープンダイアローグ
野口裕二著/青土社/2018年

「ナラティブ」とは、物語や語る行為を包含した概念です。
ナラティブと、複数の人間が集まることで生まれる「共同性」が結び付くことで「自助グループ」「当事者研究」「オープンダイアローグ」といった果実が生まれました。
一見、関係性を構築するふるまいは、何か(回復や治療)を達成する手段にみえます。ですがその実、関係性を構築することが目的なのですー「書けるようなるために集まる」から「集まるから書く」への転換、と言え替えられるでしょうか。
いや、そもそも「書けない」ことは治療すべき状態ではないのかも知れません。書けないことには相応の理由があるのだから。書くためには、読んでくれる人が必要だったのです。そして同時に、相手にも読んでくれるあなたが必要だった。ならば集まろうー「集まると書ける」から「集まると書いている」へ。このようにして書いていく主体は、あなたであり、あなたたちでもあるのです。

<責任>の生成 中動態と当事者研究
國分功一郎、熊谷晋一郎著/新曜社/2020年

あなたは自分の生を、自分でコントロールできていますか?
コントロールには、意志が必要とされますか?そもそも意志は、存在できるものでしょうか?できるとしたら、どんな仕方で?
中動態とは、能動と受動の二項対立に依らない世界の認識方法です。この中動態を補助線とした当事者であることによって、あなたは、自身が自身の行為の責任主体たりえるか否かの判断を引き受けることができます。
すべての人は、自身にとって当事者です。であるなら他者から/をコントロールされる/することより、隣り合う当事者同士であることを選択すればいいーここに、すべてを自身でコントロールするよりも、水平な他者の応答に学ぶという選択肢が浮上します。
フリーライティングの言葉によって分有された独断は、フィードバックの言葉によって緩やかに架橋されます。その橋を渡るか否かの決定は、あなたに任されているのです。

⑤フィードバックをどう扱うか―ティーチャーレス・クラス実践のヒント
カール・ロジャーズ 静かなる革命
カール・R・ロジャーズ、デイビッド・E・ラッセル著、畠瀬直子訳/誠心書房/2006年

積極的傾聴で知られる臨床心理学者、カール・ロジャーズ。
相手の話を相手の立場に立って理解しようとする共感的理解の思想は、本書が提示する「ビリービング・ゲーム」に受け継がれています。そして、評価を下すのではなく、無条件の肯定的関心に基づいて相手に対する姿勢は、(一般社会で流通しているアドバイスや評価含みの“フィードバック“とは異なった)本書の提示する「フィードバック」の本質と重なるものです。
「相手の言葉を聴く側が自身の気持ちを大切にすること」がフィードバックを下支えしていることを、ロジャーズの言葉から聴き取ることができるでしょう。相手の言葉を受け取ることを、いまいちど再考するために。

オープンダイアローグ 私たちはこうしている
森川すいめい著/医学書院/2021年

オープンダイアローグとは、対話を重視した精神ケアの手法です。
当事者のいないところでその人の話をしない。1対1では話さない。
治癒がゴールなのではなく、対話を続けるプロセスにこそ、まだ見ぬ宝が眠っているということ。
原則こそシンプルですが、実践することが現実を変えていくのです。
日本の現場でオープンダイアローグを実施するためのディテールを提示した「私たちはこうしている」という経験則のなかに、あなたがあなたの場を継続するためのヒントが浮かびあがっていくことになります。

トム・アンデルセン 会話哲学の軌跡ーリフレクティング・チームからリフレクティング・プロセスへ
トム・アンデルセン著、矢原隆行著・訳/金剛出版/2022年

リフレクティング・プロセスは、「他者が自分について率直に語る言葉」を受け取ることを目指します。その結果として生まれる内的対話が、自己を立体的に捉えることを促すのです。
率直な言葉を前にしても自身が脅かされないような場には条件があります。
条件とは、場が始まる前に、いかにその場を共に作れるかという「場の条件」を話し合うこと。そしてそれは言葉のみならず、あなたの態度という非言語要素も含まれて行われるのです。
リフレクティング・プロセスはティーチャーレス・クラスを考えることにも有用な考えですが、著者によれば、リフレクティングの実践は「平和活動の一環」であるという地点にまで思考の射程が広がっていきます。
参加する場の条件の決定に「あなたが参加する」ことの意味の重大さを、再考する契機となるでしょうか。

・総合編
⑥書くプロセスを習得するために必要なこと
Writing With Power -Techniques for Mastering the Writing Process, 2nd Edition
ピーター・エルボウ著/オックスフォード大学出版局/1998年

『自分の「声」で書く技術』の原著『Writing without teachers』の続編にあたる書籍です。
実際に書く現場で起こる様々なトラブルや悩みをピックアップし、その「活用方法」が提示されます。一般に「ネガティブ」と決めつけられてきた現象ー書き続けられない/脱線する/書くゴールがぶれる/自分のアウトプットがいいかどうか判断できないetcーを、執筆の全プロセスにわたって取り扱っていくのです。
あくまでも提示されるのは、“提案“です。それらバラエティーに富んだ提案を実際に試し、自身のライティングに受け容れるか否かを決定する役割は、書くあなたに任されています。本書とも通底した読者への共感的な態度は、「ライティングの民主化」を共に実践するあなたに差し出された招待状でもあるのです。


頂いたお気持ちは、今後の活動の原資に致します。