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全部が好きだと言えていたら

失恋しました。

最後まで私の好きになった人は本当に素敵だった。抱きしめられた時の思ったより強い力も、最後に手を繋いでもらったときの感触も、数日間コートに残っていた香りも、全部もう上手く思い出せないけれど、泣いてしまった私を泣きそうな顔で見つめる彼の目だけは絶対に忘れないと思う。
当日待ち合わせ場所で目が合った瞬間から「今日フラれるんだろうな」と確信したこと、実際最後まで何も言われなくてそれに甘んじて帰ろうとした私を引き止めた時の覚悟を決めたような顔、泣きすぎて声が出ない私を抱きしめた時に撫でられた後頭部、さすられた背中、抱きしめ返せずに震わせるしかできなかった私の腕、寒空の下彼が買ってくれたホットカフェオレは1時間弱かけて歩いて帰った私の手の中でしっかりと冷めてしまって未だ冷蔵庫の中にいる。夜道が心配だと言うなら送ってくれればよかった。泣かないでというなら彼女にしてくれればよかった。私の気持ちを呪いだと言ったあなたは、一緒に呪われてはくれなかった。深夜のいつもの道で光る半月は、雲で朧なのか私の涙で朧なのかわからなかった。
もう会えない?と聞いた時、曖昧に笑って頷いた。彼の笑顔は大好きなのに、その顔だけは嫌だった。本当に本当に最後の別れ際、無意識にまたねと言ったのはきっとささやかな抵抗だった。
やっと自宅が見えてきたとき、力が抜けて道端にへたりこんでしまった。これから、泣いても寂しくても見せたい景色があっても道にへたりこんでも、彼はそばにいないという事実がどうしようもなく寒さより痛かった。その後どうやって家にたどり着いてお風呂に入って布団まで行ったのか覚えていない。

あれから1週間ほど経つ。世界から色という色が、光という光が消えたようにも思えて、だれからの連絡も返せないまま、なんの音楽も聴けず、ただ無気力で呆然と何度も彼との思い出を辿りながら泣いた。当然、泣いても彼は来なかった。

今これを綴れているのは、1週間むき出しだったぐっちゃぐちゃの傷にようやくカサブタになりかけの膜が張ってきたからです。今日目を覚ました瞬間から、昨晩まであんなにどん底だった気持ちが薄まっているのを感じたからです。この痛みが消えても、私が彼を好きだったこと、彼が誠心誠意私と向き合ってくれたこと、そして未開封のままで賞味期限を待つカフェオレは消えないから、きっと強く生きていくしかないのだと思います。人は一人で生きていけるけど誰かを求めてしまう時がある、そんな時に少しだけ耐えるための強さが私には必要でした。

もうたぶん会えないし、話せないし、これからの彼の将来に私は存在できない。でも、彼の記憶にはきっと残れたから、そして私は彼をきっと忘れられないから、今はもうそれでいいんだと思う。私はもう見ることは出来ないけど、彼がずっと健康で笑顔で幸せでいてくれたらもうこれ以上ないんです。

正直、このnote書いてる時泣いちゃうかもなって思ったけど泣かなかった。心の穴がちょっとひりついてじくじくしたけど、それだけだった。時間が1番の薬って本当に、そう。
でもしばらくはカフェオレ買えないし飲めない。オススメされたドラマは見れない。上書きされてしまう気がするから、誰にも抱きしめられたくないし、手も繋ぎたくない。匂いが残ったあのコートはもう着たくない。一緒に行ったお店には行けない。あの道ももう通れない。
それでも、だんだんそういうことも気にしなくなっていくんだろう。

忘れてしまっても何かのきっかけでちょっとでも脳裏をよぎるくらいの存在にはなれたかな。本当は抱きしめられた時、今が人生で1番幸せな瞬間で、同時に終わりだとも思った。ここでしにたいって、思った。


つよく、つよくいきようね、わたし。

どこが好きなの?ってきいてきたあなたに、全部だよってこたえてたら信じてくれたのかなとか、後悔したってもう、あえない。


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