見出し画像

セビリア馬祭り

大学卒業時にヨーロッパの国々を主に鉄道で約1か月かけて旅をした。時期は卒業前だから2月だった。観光オフシーズンと言う感じで、どこも寒かったと記憶しているが、唯一、スペインのグラナダ地方はバスで巡り、空が青かったのを覚えている。その時、どこであったか、馬祭りの写真を見て、こんなお祭りがあるんだと、初めて知り、当時馬には全く関わりがなかったけれど、美しい写真が頭に焼き付き、いつか見てみたいと心のどこかで思い続けていた。

そこへ馬仲間からスペイン馬の旅なるものに一緒に行かないかとお誘いを受け、そこに「セビリア馬祭り」が旅程に入っていたので、1も2もなく「行く!」と即答。その後、自分の馬友達にも声をかけて、先週まで、一緒にスペインを馬という切り口で旅する、コロナ後初の海外旅行に出かけた。

何回かにわけて、ここで楽しかった旅行のことを書こうと思うが、まずは私にとって最大の目的だったセビリア馬祭りを取り上げたい。

想像以上

私が大学生の時に見た写真はすてきな1台の馬車にフラメンコの衣装で着飾った女性数名が乗っている写真や小さな子供からおばあさんまでマーメードシェープのフリルがたくさんついた、色とりどり、しかもきれいな青空に映える鮮やかな色の衣装に身を包み、歩いているものだったと思う。プロが撮ったスナップショットという感じだった。余計なものは写っていないし、祭りの全体像がわかるような写真ではなかった。

実際に馬祭りに来て、度肝を抜かれた。想像をはるかに超える馬車と馬の台数・頭数。これは本当に馬祭りだ! 目に映るものが馬また馬また馬と言う感じ。大きな会場の一方通行になっている道を馬や馬車が練り歩くのだが、さながら竹下通りを埋め尽くす人のように、通りを埋め尽くす馬車と馬。圧巻! 上の写真あるいは下の写真で伝わるだろうか。

切れ目なく馬車が続く

書いていても興奮してくるが、まずは順を追って時系列で書こう。

セビリア馬祭りは午後2時くらいから始まる感じ(スペイン時間よね。日本の朝一スタートとかいう感じではないゆったりした時間感覚)。馬車や馬が練り歩けるのは午後6時くらいまでと聞いていたので、滞在先から車でセビリアの中心地まで送ってもらい、午前中にセビリアに到着した私たちは、まずは馬車に乗ってセビリアの観光スポットを巡った。馬祭りの日は観光客もいつも以上に多く、馬車に乗りたい人がたくさんいるから、ふっかける輩もいると聞き、念のため、観光案内所で料金の相場を聞いてから乗ったのだが、普段の約2倍というのがこの日の適正料金だった。

セビリア大聖堂も馬車の上から見学

私たちが乗った馬車もそうだが、タクシーのように予約もなく乗れる馬車は普段から営業している馬車で黄色の車輪。こうしてそこここに馬車乗り場があって、御者と人数(多ければ2台に分かれる等)と料金で合意してから乗り込む。

スペイン広場の正面には馬車がいっぱい待機していた。

観光客が歩いてたり、自転車に乗っていたりする中を淡々と走る馬。慣れている、かつ御者がきちんとコントロールしているからこそだが、馬車の長い歴史を感じた。昔ながらの石の道を蹄が鳴らす音はきっと昔も今も変わらないのではないかと思う。心地よい音だった。

私が乗った馬車
多少登る感じの道では勢いをつけて走ってくれた。そりゃ重いよね

この日はとても暑くて、最高気温は30℃くらいあったのではないかと思う。が、日本と違って乾燥しているので、木陰に入るとひんやりと気持ちが良い。

公園の中を走るのは涼しくて気持ちよかった

それでも暑い中を走る馬は喉も乾くから、そこここに馬が水が飲める場所があった。

馬の給水タイム。売店の横に馬用に水が置いてあった

これだけでも大満足だったのだが、これからが本番。チュロスをホットチョコレートにひたして食べて、一休みし、馬車を乗り換えて、いざ、馬祭りの会場へ。

渋滞

交通規制がかかっているはずで、会場へ向かう道は大渋滞だった。速度が違う馬車と車が信号が変わりそうな時に、渡れる渡れないの判断が違うし、とにかく大渋滞ですでにイライラして早く渋滞から抜けたい車のドライバーが、馬車が止まったら、車から文句を言う場面も。それでも決して馬はパニックしないし、つっこんできそうな車をうまくかわす御者もすごい。

会場まで正装(男性は長袖シャツにジャケット、ネクタイ、女性はフラメンコのあの衣装)で歩く人がたくさんいて、馬車の方が時間がかかった。おかげで、いろんな衣装を馬車の上から眺められて、それはそれで楽しかった。

ようやく会場に到着

会場入口では馬車のナンバープレートと御者が帽子をかぶっているかのチェックがあって(御者の人が慌てて帽子をかぶっていた)、私たちの乗った馬車は会場内にも入れる馬車だったので(たぶんナンバープレートで登録されているタクシー馬車は街中のどこを走れるのか、会場まで入れるのか等、決められているのだと思う)、会場内へ馬車で入場。もうここからは別世界。馬車馬につけた鈴がシャンシャンなり、蹄の音が聞こえ、色があふれて、どこから見てよいのか、目が泳ぐってこういうことだなぁ。口も開いてたかも。想像していたよりもはるかに規模が大きかったんです。

どこに焦点をあてて写真をとったらいいのか、わからなかった。

馬車の種類も豊富

1頭で引く馬車もあれば、2頭、4頭、5頭で引く馬車もあった。馬車の大きさも様々だ。馬だけでなく、ロバと馬をかけたラバも大活躍(余談だが、ラバは英語ではMule。ミュールと発音するのだが、金融不正詐欺でミュールアカウントとか、マネーミュールとか、私は仕事でよく使う言葉なだけに、余計に親しみを感じた)。

一見、馬だけど、やっぱりラバは耳が大きい。こんな風に毛糸のボンボンみたいので飾り付けたり、鈴をつけたり、それぞれ。

タクシーは車輪が黄色と決まっているが、会場の馬車はほとんどが黄色ではない車輪。これは貸し切りの言わばハイヤーみたいな感じ。

4頭だてや5頭だての馬車も。

テント

馬祭りは特にパレードがあるわけでもないし、日本のイベントによくある抽選会だとか、そういったものはなく、こうしてテントがびっしり隙間なく設置されいて、この区画を見本市のように事前に購入するのだそうだ。企業とか一族で購入して、つまりプライベートの空間として使用する。中にはテーブルがあって、食事ができるし、音楽がかかっていて、踊り出す人がいたり、夜までたっぷりある時間を着飾って集まった仲間や親せきとおしゃべりに興じ、食べたり飲んだりする。かつてはここでお見合い的な、あの人はどうかしらとか、紹介だったり、一目ぼれの恋があったりしたのかな。有名なへレスの馬祭りは馬の品評会がその起源と聞いたけど、あそこに歩いているあの馬がほしい、とかもあるのかな。

馬車や馬が何重にも歩いていて、テントがなかなか見えない
やっと切れ目があってテントの様子がなんとか映っている写真

馬上で

馬祭りは馬車のイメージだけだったのだが、馬に騎乗している人がいっぱいいてびっくり(日本中の乗馬愛好家をあつめてもこんなにはいないのではないかと思ったほど)。皆、伝統的なボレロに帽子をかぶり、女性は横鞍で乗っている人が多かった。後ろにフラメンコの衣装の女性を乗せて二人乗りの馬もいた(後ろに乗る場合、たんにキルトのような布を鞍のうしろに括り付けているだけで、簡単そうにみえて、乗っているのは大変なんじゃないかと思ったりした)。暑いからと上着を脱ぐような無粋なことはしない。皆、誇りを持って乗っている感じだ。

夜になれば、馬を降りてテントで過ごすのだろうが、下の写真のように木陰で馬に乗ったまま、お酒を飲んだり、談笑していることが多く、馬に乗る人ならわかると思うが、こうして馬がじっとしていること自体、馬がきちんとコントロールできていなければできないことだし、ましてやこんなに間をつめて横一列に並んでじっとしていることの凄さ! ここでも馬の文化、歴史、そして騎乗のスキルの高さ、乗馬人口の厚みを感じた。

詰めて詰めて、ここに入れるわよ、みたいな感じでどんどん長くなる。詰め寄るために隣の人の鞍に手を置いている。こんなことを下手な人がしたら、馬が首を振ったり、バックして馬車にぶつかったり、もう大パニックになるはずだ
女性がまたがらずに長いスカートで乗れる横鞍
あまり下馬している人みなかったけど、拍車もつけているんだなぁ。
目的のテントの前にきて馬を止めているのか、テントから赤ちゃんを連れてきて、ちょっと乗せてもらって写真を撮っていた

とても暑い日でテントはほぼすべて貸し切りで入れないから、座るところもなく、一般の人が唯一入れるパブリックテントに入ったは良いが、混んでいて、とても座れなかった。立ちながら飲み物を飲み、ちょっとしたおつまみを食べた。

パブリックテントの中

ただただ目に映る光景に心奪われ、写真や動画を撮りながら、馬と一緒にある歴史の長さ、厚み、誇り、文化、そういったものに圧倒された馬祭りだった。夜はイルミネーションがきれいなのだろうが、日が暮れるのは9時近い。明るいうちに会場を後にした。

歴史を感じる会場の馬の給水場所。馬車が主な移動手段の頃からあったんだろうなぁ


この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?