長村君、生まれてくるの遅かったかもね。
長村君、小学校の時好きだったあの男の子は、今も空飛ぶ車の夢を見てるのかな。
ひとりずつ将来の夢を発表するとき、わたしは、なんとなく、先生や親からの「こどもらしい夢」をくみ取って、心にもないことを言っていたし、当時の私は、それが本心でないこと自体わかってなかったかもしれない。でも、だからこそ、あの時の長村君はなぜか輝いてみえた。
「空飛ぶ車を作りたい」
長村君がこう言ったとき、クラスのみんなで笑った。先生も笑っていた。
長村君は、少し戸惑った表情を浮かべていた。彼の目には、うるおいの残像が残っているだけだった。
今日、新聞で、空飛ぶ車の記事を見た。あのときみんなで笑っていた、半分バカにしていた彼の夢は、もう、だれか知らない大人に実現されてしまっていた。あのころの夢は、今の現実。もう少し、生まれるのが早ければ。もう少し、早く成長できれば。
今思うと、あの笑いには、そんなの無理に決まっているという嘲笑と、同級生として、いつもどんくさい長村君がかっこよく見えることへの焦りを打ち消す笑いが混じってたように思う。
長村君は、いまはどうしてるのかな。
夢は誰かの手によって叶えられても、あの目の輝きだけは失わないでいてほしいな。
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