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姉の家で1ヶ月過ごした話

姉の家に来てもうすぐ1ヶ月になる。3つ上の姉の家は思ったよりも整理されていて、思ったよりは質素だった。

玄関開けてすぐの小さな台所には、大きめのフライパンと小さめのスキレット、あとはお鍋がひとつ。ひと通りの調味料と、おそらく好みであろうスパイスがいくつか揃っている。台所を抜けた姉の部屋には、ハンガーラックと本棚の他に、以前はなかったコーヒー豆とドリッパー、ドリップポットが置かれているラックが増えていた。

服が掛けられているハンガーラックには、シャツとワンピースが数着。本棚には仕事に使うだろうレシピ本とマンガと、ひっそりと佇む3色のインク。月夜色、松露色、稲穂色という珍しい色が揃っている。本棚の上にはアクセサリーが並んでいる。緑系の色が多く、就職祝いにあげた翡翠色のピアスも一緒に飾られていた。

姉は2年前に家を出て、今の家に移り住んだ。家を出る前は少し抜けてる感じがして、弟ながらに心配だったけど、久しぶりにあった姉は随分としっかりして見えた。毎朝朝食をつくり、仕事をし、帰宅してからは夕食を作って、ベットでゴロゴロする。姉が仕事をしている間に、皿を洗い、洗濯をし、少しばかりの掃除と、豆苗の水を入れ替えるのが私の役割。朝の家事が終わった後は、自分の勉強をしたり、姉のマンガを読み漁ったりして1日を過ごす。せっかく都会に来たのに、遊びに行きづらいのは味気ないけれど、この静かな生活が最近は少し心地いい。

姉の家の近くには大きな神社が1つある。参道の両脇には木々が並び、奥には綺麗な流造の拝殿が鎮座する。その神社の参道を、神社とは反対方向に進んでいけば、小ぢんまりとしたベーグル屋さんから、焼きたてのパンの香ばしいかおりが漂ってくる。

ベーグル屋さんでブルーベリーとクリームチーズの入ったベーグルを買って、これまた神の近くにある珈琲屋さんでアイスコーヒーを買い、家で食べるのが最近のちょっとしたマイブーム。実家の近くには美味しいパン屋がないから、この期間限定イベントについつい財布の紐が緩くなってしまう。きっと明日もベーグル日和。

最近の姉はお菓子づくりにハマっているのか、よくお菓子を作っている。スコーンやクッキー、コーヒーゼリーにフルーツポンチ。昨日はジェイクよろしく、ベーコンパンケーキを作ってくれた。作り方は簡単。パンケーキにベーコン乗せる。ベーコンパンケーキの歌を歌いながらだとベターな感じ。ちなみに今日のお菓子は、チョコチップスの入ったスコーンとミルクティー。

姉の家に来て約1ヶ月。この1ヶ月の滞在期間は、随分穏やかに過ごせたと思う。

普段するような短期間の旅行は観光をメインにしているから、例えるならアメリカンなステーキ屋さん。毎日ボリュームのある観光スポットを巡るのは、分厚いステーキを食べるようで、楽しいけれど終わった後に少し胃もたれしてしまう。

一方で今回の旅行は地域に溶け込むような、例えるならお茶の美味しいお店に行った感じ。決して派手な味付けではないし、目新しいものもない。その代わりにゆっくりとした空間と控えめな音楽と、やわらかい味が染み渡る感じ。ワクワク感やドキドキは少ないけど、一息ついて、また頑張ろうって気がしてくるあの感じ。

今回の滞在中にひとつの大きな試験を受けた。今後の人生に関わるような大きな試験。合否はまだ分からないけど、感触的には敗色濃厚。もし不合格だったら......なんてことを考えてしまうけど、そうなったらそうなったでまた再スタートを切ろう。そう気持ちが切り替えられたのは、姉の存在が大きいと思う。改めて姉という存在を再確認させられた1ヶ月だった。

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