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「父親のことで1番思い出に残ってることは何か。」この問いに、人目を気にせず答えられるなら、それは殺されかけたこと。次点で、力いっぱい蹴られたこと。 一応私と父親の名誉のために書いておくけど、虐待を受けてたなんてことはない。 正直、小さいころのことをほとんど覚えていないから、もしかしたら楽しい思い出もたくさんあったかもしれない。父親の影響で野球を始めたので、多少なりとも尊敬だとか、一緒に野球をして楽しんだなんて経験はあったんだと思う。 でも、小さいころの私にとっては、父親
11月も終盤になってくると、新潟の山側の地域では雪が降り始める。しんしんと降り続くそれは、夜の静けさと相まって、冬の寒さを否応にも押し付けてくる。息を深く吸う度に、痛いほどに冷たい空気が肺を満たす。氷点下の外気に晒されてすっかり冷えきった手に息を吐きかけて、両手をこすり合わせる。 オレンジ色の街灯を道しるべに、降り積もった雪をサクサクと鳴らしながら、帰り道を歩く。吐く息の白さとは裏腹に、街灯以外の明かりを失った夜道はただただ雪を降らせるばかりで、あらゆるものを雪の下へと隠
「透明人間になりたい。」透明マントを被ったり、透明になれる薬を飲んだり。ある朝起きたらいきなり超能力に目覚めていたり、はたまた突然現れた魔法使いに魔法をかけられたり。 どんな方法であれ透明人間になりたいと、叶えようのない夢を本気で願っていた。 「だって透明人間はすごいんだよ!透明人間になれば、学校をこっそり抜け出してもバレないし、内緒で新幹線や飛行機に乗って遠いとこにも行ける。どんなことをしても透明人間なら気づかれないんだよ!」なんて幼心に母親に話していたこともあった。
姉の家に来てもうすぐ1ヶ月になる。3つ上の姉の家は思ったよりも整理されていて、思ったよりは質素だった。玄関開けてすぐの小さな台所には、大きめのフライパンと小さめのスキレット、あとはお鍋がひとつ。ひと通りの調味料と、おそらく好みであろうスパイスがいくつか揃っている。台所を抜けた姉の部屋には、ハンガーラックと本棚の他に、以前はなかったコーヒー豆とドリッパー、ドリップポットが置かれているラックが増えていた。 服が掛けられているハンガーラックには、シャツとワンピースが数着。本棚には
今週の私は絶望的にやる気がなかった。それはもう、ひどかった。 大学院試験が8月末に迫っているのに、過去問を一問も解いていなければ、教科書を開いては閉じて、開いては閉じて。ボッフボフという音が鳴るだけで何も身にならない。せめて読むことだけでもしようと思って、ペンを片手にラインを引いてみるも、ただ教科書に線を増やして汚すだけの、無意味な作業しかしていない。 ネットで「やる気 出し方」とか検索かけようとしても、そもそもそのやる気すら出ないのだからしょうがない。「行動すればやる気
「一行文庫」 先日、あるTwitterの投稿で「一行文庫」というサイトの存在を知った。 リーディング・トラッカーという読書補助具に着想を得て作成されたというこのサイトは、画面上に文章を一行だけ表示させることで「読んでいる箇所に集中できて非常に読みやすく、文章の内容がスッと入ってくる感じがする。」効果を発生させるらしい。 実際、この一行文庫の開発者の投稿のリプライ欄には、情報がスルスル入ってくるとか、テンポよく読めるとかのリプライが多く、期待通りの効果がちゃんと発揮されて
熟れたトマトが一つ、手から滑って地面に落ちた。熟れすぎてしわくちゃだったそれは、地面に落ちた衝撃で、中の液体を周りへとぶちまけている。 もったいないな、片付けるのも面倒くさいな そう思いながらも、このまま放置するわけにもいかず、潰れたトマトを拾い上げて、飛び散った液体を拭き上げる。赤い液体と床の埃が相まって、少し赤黒くなってしまっている。朝からツイてないなと、深いため息をついたところで、上の階から彼女が下りてきた。 寝ぼけた声でおはようという彼女は、昨日も夜遅くに帰って
今日、今年初めてのアイスコーヒーをつくった。コーヒージャグに半分くらいの量の氷を入れて、アイスコーヒー用の豆をドリップする。ドリッパーから一定間隔で落ちる琥珀色の水滴が、氷に当たっては、その熱で氷を溶かしていく。 毎年梅雨が近づくと、麦茶や緑茶よりもアイスコーヒーをつくるのが風習になっている我が家では、アイスコーヒーをつくるのはだいたい私の役割。特に誰が決めたというわけでもないけど、小さい頃から父親が淹れていたのを、食い入るように見ていたからか、父親がいなくなってからは代わ
代わり映えのない日々でも、明日もきっと頑張るだろう自分を褒めてあげてほしい。そんな話。 大学のオンライン授業が始まって約1ヶ月。 わざわざ学校に行かなくていい事に少し解放感を覚えつつ、その一方で、景色の変わらない部屋に籠り勉強することにそろそろ限界を感じてきた。 大学に行くことって楽しかったんだなぁ、なんて思いながら部屋で音楽を流し、時には配信アプリで好きな配信者がやってる配信を聴きながら、問題文と向き合う日々が続いてる。 朝9時ごろに目を覚まして、眠気覚まし兼朝食代わり
「でも多分、事実なんてない。出来事にはそれぞれの解釈があるだけだ。」 『流浪の月』(著:凪良ゆう)という小説にこのような一節が出てくる。 ある出来事があったとして、私たちはそれをニュースや新聞、SNSなんかで認識するだけで、果たしてそれが真実なのか否かを知ることはできない。私たちは、メディアから与えられる情報や、ネットに上がる情報など、断片的な出来事の記載をつなぎ合わせ、自分なりの解釈のもと、ある事実を創り出しているということが往々にして存在する。 『流浪の月』において
はじまり。 まだ夜の帳が幕を下ろしている、午前4時。病院勤めの母を送るため、布団からでたくない気持ちを抑えながら、目を覚まそうと、洗面台へと向かう。冷たい水は、起き抜けの頭を覚ますのには充分で、パシャパシャと顔に触れる水が心地いい。 午前4時30分、母を送るため駐車場へと向かう。外に出ると、辺りはまだ真っ暗で、静寂に包まれている。街灯の明かりを頼りに車へ向かい、エンジンをかける。握るハンドルの冷たさと、氷点下の寒さが身に染みる。運転をしながら、母とたわいもない会話を
スキマスイッチといえば、なにを思い浮かべるだろう。YouTubeで1億回再生を突破した名曲"奏"だろうか、それとも最近話題になり映画化もした「おっさんずラブ」の主題歌である"Revival"だろうか。アニメが好きな人には奏以外にも、"ユリーカ"とか"雫"、"ゴールデンタイムラバー"も馴染み深いかもしれないし、"ボクノート"や"全力少年"は言わずもがなだと思う。もしかしたら、常田さんのアフロを思い浮かべるかもしれない… ピアノの常田さんは「doppietta」というプライベー
『優美』
写真を撮るようになってから、なんとなくだが世界をみる目が変わった気がする。具体的にいうと、それまで気にも留めなかった花や空をみるようになり、外を歩く時もスマホをいじらないで景色に目を向けるようになった。それに、街や大学、近くの公園を歩いていて、きれいだなと思うことが増えた。 これは単に写真を撮るようになったからだろうか?確かに写真を撮ろうと、外に出かければ、何かいいものあるかなーと宝探しをするみたいな気持ちで、景色に目をむけることになる。この時間はすごい楽しい。平気で2,3
誰しも、思い出の場所というものはあると思う。例えば、卒業した学校だったり、恋人との初めてのデートの場所だったりするのだけど、その中には家族との思い出の場所というものも存在すると思う。今回は私の、家族との思い出の場所について書きたいと思う。家族との思い出の場所と一言でいっても、そこには数多くのものがあるのだが、私にとって一番思い出深い場所は、小さな水族館で、新潟県の寺泊にある水族館だと思う。正直に言うと、古くて小さく地元の水族館といった感じ。東京の「マクセル アクアパーク品川」
noteでやりたい事ってなんだろう。noteで記事を書いていたり読んでいたりするとそんなことを考える。noteを始めたきっかけはある人が書いたネットの記事がとても綺麗で、それに憧れて、自分も自分の言葉で自分の考えや世界を表現したいと思ったという、なんとも単純なもの。でも、なにかを始めるきっかけっていうのは、案外単純なもので、かっこいいとか、綺麗だとか、楽しそうみたいな濁りのない純度の高い憧れなんだと思う。 noteで記事を読んでいるときや本を読んでいると、よく素敵な表現を目