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心の健康のバロメーター

大人と違って自分で自分の症状を的確に訴えることのできない子どもたち。
子どもの健康を測るバロメーターってなんでしょう?

それはずばり「食う寝る遊ぶ」です。

小児科医になった時、患者さんが「元気になった」「悪くなった」の見極めをするには、
「『食う寝る遊ぶ』ができているか」を見るようにと上級医から教わりました。

本当にその通りで、小児科病棟に入院中の子どもたちをみていると、

治療が進んで元気になるにつれ、

食事量が増え、夜ぐっすり眠って、昼間しっかり遊ぶ、

ということができるようになっていきます。
入院した時は一番悪い状態ですから、この子がこんなに動き回って、

こんなにいい顔をするんだ!と毎回驚かされたものです。
逆に「食う寝る遊ぶ」ができなくなると、何かしら病状が悪化しているサイン。

回診時に

「昨日はよく食べていたんですが、今日はご飯の量が少ないです。
それになんだかゴロゴロして遊ぼうとしません」

なんてお母さんから言われ、診察をしてみると肺炎の聴診所見が悪化しているとか、

血液検査で炎症反応が上昇している、なんていうこともよく経験しました。

心の病気も同じです。

うつ病や不安障害といった心の問題で苦しんでいる子は、

「食う寝る遊ぶ」が十分にできていない事が多いです。

ただ、心の病気の多くは、時間をかけて徐々に調子が悪くなっていく慢性の経過をたどるため、

「どこからが『悪くなった』のかわかりませんでした」

と言われる事がよくあります。

上気道炎や喘息でかかりつけ医に診てもらっている経過中、

「悪くなったら連れてきてください」と言われたものの、

ずっと咳をしているのを見ていると、

どこからが「悪くなった」のかがわからなくなる、なんていう経験、ありませんか?
心の病気も上気道炎や喘息といった内科疾患も、『悪くなった』の見極めは一緒。
「食う寝る遊ぶ」が十分にできているかです。

心の病気を抱える子には、自分の気持ちを表現できない事がよくあります。
この子たちは「気持ちが落ち込んだ」「楽しいことを考えられない」などの表現ができない代わりに、

食欲が落ちる、

寝つきが悪くなる、

夜中に覚醒する、

イライラする事が多くて友達とうまく遊べない、

といったことが症状としてみられてきます。

反抗期にある思春期の子で、親には一切相談をしない子も、

「食う寝る遊ぶ」に注目していると、これらに変化が生じてきたことで、

その子の心にケアが必要だと親が気づくこともできます。

病気になったから「食う寝る遊ぶ」ができなくなった、ではなく、

逆に、「食う寝る遊ぶ」ができていない事で情緒の問題を抱えることも、

低年齢の子ほどよくあります。

夕方以降の癇癪が激しくて兄弟喧嘩が絶えない子や、

朝不機嫌で登校できない子の中には、

夜間、十分睡眠を確保する事で朝ご飯をしっかり食べられるようになり、

情緒が安定して楽しく遊べ、登校できるようになる、

というケースもよく見かけます。

生まれつき食が細い子、発達特性があって食事の偏りがある子、

十分な睡眠を確保しづらい子、

発達特性や生まれ持った気質のためにうまく周囲と関われず、遊びにくい子など、

元々「食う寝る遊ぶ」がちょっとした事で崩れやすい子もいます。
この場合もやはり、

「食う寝る遊ぶ」すらうまくいきにくいという生きづらさを抱えている事自体が、

周囲からのサポートが必要なサインではないかと思います。

ちなみに、大人にとっても「食う寝る遊ぶ」は大切です。
私は「食う寝る遊ぶ」をしっかり自分で管理できるようになる、

ということが自立するということではないかと思っています。
でも20歳になったら、社会人になったら、

突然「食う寝る遊ぶ」を管理できるようになる、というものではありません。
子どもの頃からの生活環境が「食う寝る遊ぶ」を整えていくのです。
その年齢に応じた自立した行動も必要になってきます。
最近では、ゲームの低年齢化で、子どもの遊び方が変わってきていて、

子どもたちの遊ぶ力にも差がついてきているように感じています。
子どもを取り巻く社会の変化から、子どもの「食う寝る遊ぶ」が変わってきている分、

私たち大人は、より一層子どもの心に目を向けないといけないのではと思っています。

今一度、お子さんの「食う寝る遊ぶ」を見直して、心の健康について考えてみませんか?



※写真は福岡市動物園のかわうそです。縄をくわえてクルクル回る姿が可愛いです。遊び上手ですよね。COVID-19感染拡大のため、会いに行けないのが残念・・・

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