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共感力を育てるには

前回の感情コントロールの問題に次いで、
「どうすれば、人に共感できるようになるんでしょうか?」
という相談を受けることがよくあります。

共感とは
「相手の気持ちに自分の気持ちをあわせること」
を言います。

共感できる人というのは、相手の気持ちに立つことができる人、
つまり「相手の事を自分の事としてとらえることができる人」
ということです。
この、相手の事を自分の事としてとらえる、というのを
「自己対象」
といいます。

自己対象には簡単に言うと、次のような3通りがあります。
① 褒めてほしいと思った時に褒めてくれる、自分を愛してくれる対象
② 自分がどのように生きていけばいいのかわからないときに
生き方の方向性を与えてくれる対象
自分の理想の人
③ 自分は他の人と同じだと思える対象
子どもは成長して、幼稚園、小学校、と社会が広がっていく過程で、
様々な人と出会い、自己対象を育てていきます。
そして自己対象に支えられて、自信をつけていくのです。

その最初の一歩は親子間で育まれます。
甘えたいと子どもが思ったときに、親がその気持ちを汲むと、
子どもの中で親が対象となり、自己対象が育ちます。
一方で、子どもの時に自分の中の自己対象としての親が育っていないと、
自己対象を求め続けて、いつも腹を立てていたり、
落ち込んで自己評価の低い子どもになったりします。

ただ、親との間で自己対象を育てられたとしても、
それはずっと心の中に在り続けるというわけではありません。
しっかりとした自己対象を育てられていれば、
相手が目の前にいなくても、ある程度は心の中に存在しうるのですが、
非常に不安な時には、そばにいてもらうことを必要とします。
人間は、不安定な時には、信頼できる相手に
心のエネルギーをチャージしてもらわないといけないのです。


それでは、子どもの自己対象を育てるために、
親はどうしたらいいでしょうか。

「甘えたいという子どもの気持ちを汲んで、それに応答する」
ということを「情緒応答」といいます。
情緒応答とは、
「親との相互作用における、乳児の情緒表現への気づきと共感的な反応、
及び親の情緒表現の提供という一連の応答能力」を指しますが、
噛み砕いて言うと、

「親子のやり取りの中でみられる、子どもの言葉を介さない感情表現に気づき、
共感的な反応をすることと、親が気持ちを汲んだ対応をすること」
です。

子どもの言葉を介さない感情表現・・・
沢山ありますね。
笑う、泣く、まとわりつく、騒ぐ、ぐずる、おっぱいを欲しがる、もじもじする、
なんていうのはわかりやすい例ですが、
身体をかきむしる、叩く、いたずらする、お漏らし、できることをしない、
といった行動も、感情表現である場合があります。

こうした行動をとった時に、
親が気持ちを汲んだ対応をすることで、
自己対象が育っていくのです。


ところが、子どもと一生懸命向き合っているのに、
自己対象を育てられない、という保護者の方もいらっしゃいます。
たとえば、このようなタイプです。
① 子どもの手柄を自分の手柄にする
子どもがテストで100点を取ってきたときに、
「お母さんが言った通りにしたからできたのね」と言うなど。
② 頑張った過程よりも結果重視
100点は褒めるけど、90点は褒めない。
③ 完璧すぎる親


また、親子の相互作用がうまくいかないケースとして、
親子共に、元々の発達特性があり、
子ども側は甘えやぐずりをうまくできず、安心感が得られない、
親側は子どもの甘えのサインがわからない、という場合もあります。
子どもに医療的ケアが必要でとても手がかかる場合も、
子どもの欲求を親が満たしづらく、
親が気持ちを汲んだ対応をすることが難しい場合があります。
親が精神的に不安定で余裕がない場合も、子どもの気持ちに耳を傾けにくく、
相互作用がうまくいかなくなることがあります。


子どもが心の問題を抱え、
不登校のように社会適応がうまくいっていない場合、
対人関係を回避してしまい、自己対象が育たなくなってしまいます。
こうしたケースでは、
親子間のやりとりの中で、情緒応答を増やし、
親がその子の心の中で自己対象となるよう、支えていく必要があります。

それにあたって、
対人関係において繊細になっている子どもは傷つきやすく、
親が疲弊している状態で情緒応答がうまくいかないと、
より一層、対人関係を回避してしまうことにもなりかねます。

子どもが心の問題を抱えたときには、
まず、親が心のゆとりを持てるよう、
社会的資源の活用、ご自身の気持ちの整理をする時間の確保、
などを検討することをお勧めしています。


そのために川谷医院では、
保護者向けに親の会を設けています。
臨床心理士と一緒に語り合う中で、
ご自身の気持ちを整理しつつ、強みを見つけ直して頂けたらと思っています。

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