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悲しき熱帯魚(小説)

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人魚姫をベースにしたせつない話です。
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記事一覧

悲しき熱帯魚 最終章

「あるところに、主人からとても可愛がられている熱帯魚がいました。最初は、他の魚たちと一緒に、大きな庭にある池で泳いでいました。しかし、冬が近づいてくると、主人は自分のお気に入りの熱帯魚をそっとすくい、大きな金魚鉢に一匹だけ入れて、自分の部屋で飼うことにしました。

 主人は、その小さな生き物を大変可愛がり、毎日話しかけました。主人から可愛がられている熱帯魚も、主人のことを大好きでした。できれば主人

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悲しき熱帯魚 7章

 

ある日、龍太郎の独身最後の祝いとして、玉ノ井で祝いが行われることになった。

 龍太郎の男友だちが大勢集まり、吉野も座敷に呼ばれることになった。

 吉野は、色とりどりの熱帯魚が染められている着物を羽織り、座席に着いた。食べきれないぐらいの料理が次々に運ばれ、楽しげな三味線や華やかに女たちが舞う宴のなかで、酒もどんどんと消費されて行った。

 宴の中ごろ、龍太郎は吉野を自分の隣に呼んだ。二人

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悲しき熱帯魚 6章

 二人が溶け合った後、甘い眠りを貪り、数時間後に吉野が先に目を覚ました。

 吉野は、龍太郎の寝顔を愛おし気な表情で眺めた。懐かしい気持ちがついつい浮かんでくる。そっとその額に触れようとしたときに、男の目はゆっくりと花が咲くように開いた。吉野は、やんわりと微笑み、龍太郎の唇を優しく撫でた。龍太郎はゆっくりと起き上がると、吉野と唇を合わせた。

「あなたと一緒にいたい、ずっと」

 唇が自由になると

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悲しき熱帯魚 5章

 部屋全体は薄暗く、行灯の炎がゆらりゆらりと蠢いていた。熱帯魚の影も障子に大きくゆらめいている。遠くからは、三味線や男と女の笑い声が薄っすらと聞こえてくる。緩やかであるが音と鮮やかな色彩の洪水のなかで、龍太郎は、なぜか心が休まった。吉野になら隠し事をせず、何でも話し尽くしてしまいそうだった。

 龍太郎は、夜の帳が下りたもとでその空気を呑み込むように一呼吸し、先を続けた。

「親父は、その時、なぜ

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悲しき熱帯魚 4章

 暫く杯を重ね、雑談をした後、龍太郎は「人生には色々な時期というものがあるものだ」とふと呟いた。吉野は何も言わず、相手の眼を見つめて頷いた。そして、「そろそろ二人でお話でもしましょうか」と誘いを掛けた。今度は、龍太郎が静かに頷いた。

 二人は吉野の部屋に場を移した。

 部屋に一歩入ると、挑発的な色をした寝床がまるで次を促すようにそこにあった。部屋の中は、白檀の甘い匂いが漂っている。寝床の横には

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悲しき熱帯魚 3章

 その夜、自分が一番お気に入りの橙色に艶やかな空色の襟回りの着物を着流して、吉野は龍太郎の座敷に少し遅れて入っていった。既にちょびちょびと他の女たちに酌をしてもらい、龍太郎は杯を進めていた。

「遅くなってしまって、すみません」

 座敷の入り口で三つ指を付き、吉野は優雅に挨拶をした。

「そんなことはどうでもいい、早うこっちへ来い」

 冷静な態度で、龍太郎は自分の隣の席に座るように促した。今ま

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悲しき熱帯魚 2章

 男の名は、井沢龍太郎といった。家が裕福な商いを行っていたので、金には幼いころから不自由したことがなかった。仲間に連れられて、早い時期から遊郭通いをするようになった。

 財力があるだけでなく龍太郎は、いつも流行の柄をぞろりと着流しており、歌舞伎役者なら必ず看板役者になれるぐらいの人の目を引くような男前だった。すっきりとした鼻筋に切れ長の目。龍太郎が通ると、振り返る女たちは多かった。

 龍太郎は

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悲しき熱帯魚 1章

悲しき熱帯魚 1章

 まるでそこは、深海で鮮やかな熱帯魚が乱舞しているように、色彩に溢れている。ひらひらと女たちが手を振り客引きをするようすは、熱帯魚たちが自由を謳歌しながら泳ぎ回っているように見える。

 女たちは深紅、青、紫など艶やかな色にくっきりとした花や鳥などが描かれている着物を、襟足を大きく開いて気崩している。襟足から覗く白いうなじからは、ふくよかな女の色香が放たれている。

 鳥籠のなかの女たちは、ゆらり

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