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【連載小説】1989 From far east #1-3 ブルガリア・ヴェリコ・タルノヴォ

ブルガリア滞在3日目。いざヴェリコ・タルノヴォへ。元大関琴欧洲の故郷へ。
いかに「ビバ!相撲!ビバ!日本」な感じなのかワクワクしつつ。

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ソフィア中央駅近くにバスターミナルがあるので、メトロで移動。
今日もどんより、小雨降る朝だった。ブルガリアに来てまともに太陽拝んでないわ。

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バスターミナルのチケット売り場。ブルガリアは旧共産時代の建物をどんどん建て替えたと聞く。そのためかここも新しくてきれい。

「Даите ми един билет за Велико Търново(ヴェリコ・タルノヴォ行きを1枚ください)」
書いたメモを見せつつ、発音もする。窓口の女性は愛想はないけれど、怪訝な顔もせず、さっと切符を発行してくれた。

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発着掲示板の上から2番めに表示されているBAPHA(ヴァルナ)行きに乗る。ヴェリコ・タルノヴォは途中下車にあたる。ヴァルナは黒海に面したリゾート地。
ま、こんなこともあるので、やはり多少はキリル文字が読めた方がいいと思う。うん。

バスが出発する直前に駆け込んできた少年が、私の隣に座った。定刻通り、バスは出る。

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「どこから来たの?」
流暢な英語で、彼は問いかけてきた。「日本」と答えると、目を輝かせた。
「僕はブルガリア人だけど、僕のお祖母ちゃんはトルコ人、父方がロシア人やギリシャ人、ものすごく色んな国の血が混じっているんだ。すごく複雑なんだよ」
と彼は言った。そして「話を続けてもいいかな」

むむむ。もちろん英語でなのだ。「私はあんまり英語使えないの」と言っても「いいよ、大丈夫」
私は大丈夫じゃないんだけど…と思いながらも彼はたくさん話してくる。今は19歳でモデルの仕事をしていること、日本にはすごく興味があること、これから実家のあるヴァルナ近郊の街に戻るところ、などなど…。

途中で彼が「プレイ」と発音した。プレイ? 話の前後から全く意味がつながらない。私がまごついていると、彼は両手を合わせて「hope」と言った。
ここで私はprayという単語を覚えた。

そんなこんなで私の頭はフル回転で、30分もすると激しい睡魔が襲ってきた…。
話が途切れたすきに「ちょっと眠くなったので寝ます」と断って、頭を休めることにした。
申し訳ない気持ちでいっぱい…。

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ソフィアから約3時間。とあるバスターミナルに到着する。しばらく前にお互い目を覚ましていたけれど、会話は控えていた彼に「ここはヴェリコ・タルノヴォ?」と聞くと「そうだよ」と答えてくれた。途中休憩はなく到着したということか。そしてバスはここでしばし休憩時間となるらしい。彼も一緒に降りてきた。
「ちょっと一緒に一服しようよ」と彼はタバコを出す。おっ、と思ったけれど、ブルガリア(をはじめ多くの国)では18歳でもう成人なのね。
「せっかくだから一緒に写真撮ろう」
彼はとことん積極的だ。いいよ、と私のスマホで取る。
「Facebookやってたら友達になろう。そこで写真を送ってくれる?」
これもいいよ、よ答えてつながる。ルシュランくん。名前がようやくはっきりわかった。会話中には、なかなか聞き取ることが出来なかったから。

「じゃあまた。よい旅を!」

挨拶して別れる。
私は帰りのバスの切符を先に購入する。

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小さそうな街だし、4時間も滞在すれば十分かな、と見越して15:30の切符を購入する。今朝ソフィアのバスターミナルで唱えた言葉と同じだから、口頭だけでチャレンジ。窓口のおばちゃんはニヤリ。ちゃんと発行された。

雨は傘をさすほどではなくなったけれど、厚い雲はなかなか晴れてくれない。

バスターミナルを出て真っ直ぐ北上し、郵便局の角を右に曲がると、ул. Независимост(ネザヴィシモスト通り)というところに出る。街の中心へ続く道みたい。

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沿道は並木と、ブルガリア国旗。道なりに進むと職人街Самоводска Чаршия(サモヴォドスカ・チャルシャ)という見どころがあるらしいので、そこを目指す。

の、前に。ちょうどお昼の時間なので、旅イチバンのお楽しみのご飯にする。ガイドブックにも載っているお店に入ってみる。
Хан Хаджи Николи(ハン・ハジ・ニコリ)というレストラン。1858年から営業しているのかな。スゴイ。

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店に入るとひっそりとしていて誰もいない。でもすぐに奥からクールで美人な店員さんが現れ、少し奥まった席に案内してくれた。
「ブルガリアっぽいおすすめ料理はありますか?」と訊いてみたら
「そうね、お肉とサラダにヨーグルトを添えましょうか。それにライス」
言われたとおりにお願いする。「お肉は牛?鶏?羊?」と訊かれ、思わず「羊」と答えてしまう。途端に中東感。ブルガリアならやっぱり牛だったかな、と思いつつ、ま、いっか。好きだから。羊肉。

「あ、あとグラスの赤ワインもお願いします。

ワインはすぐ運ばれてきた。一口飲んで天を仰いた。
めっちゃくちゃ美味しい。
料理もそう待たずに出てきた。うひゃー。

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ライスは洋風チャーハンみたい。甘くないヨーグルトが添えられていたので、お肉にもサラダにもライスにも絡めて頂いた。嗚呼やはりブルガリアはヨーグルト…琴欧洲の化粧まわしも確か明治ブルガリアヨーグルトだったような。
海外旅行でワンプレートで全部入はなかなか珍しいかな。いつも1人でご飯食べるのがなかなか苦労するのよね、ボリューム多すぎて。でもこれはちょうどいい。店員さんに感謝。

感謝ついでにワインがあまりにも美味しかったので、持ち帰れますかと訊きいたら、奥からボトルを出してきてくれた。旅行中で、というと、テーブルマットに使っている紙を二重にしてくるんでくれた。まぁ十分ではないけれど。

食事と持ち帰りのボトルワイン入れても2000円ちょいくらい。やっす!

いい食事が出来たので大満足して街歩き再開。
レストランを出て程なくしたところに職人街Самоводска Чаршия(サモヴォドスカ・チャルシャ)はあった。
天候のせいかひっそりしていて、ちょっと拍子抜け。

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そこへにゃんこ発見。「ちょっと寄っていきニャさいな」と言いたげな顔。

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お店に入ってしまうと、何も買わずに出るのが苦手なので、目的がはっきりしない限りは1人ではあまり入らないようにしてるの。ごめんニャさいね。

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サモヴォドスカ・チャルシーヤ、職人のお店が並ぶ通りはみんなしまっていた。残念。なので眺めの良い場所へ移動する。と言ってもこの天気では…。

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道は大聖堂を挟んで車用道路と石畳の坂道に分かれる。ここは石畳を選んで行きたいところだけど、目的地は左の方から。

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少し歩くと絶景が。Я̀нтра(ヤントラ川)が眼下に。この川はドナウ川の支流。奥に見える丘の上のお城のような場所を目指す。天気が良かったらもっと良かったんだろうなぁ。川の色濁ってるし…。

少し進むと、右手に大聖堂が見えてくる。この風貌はブルガリアに来てからもう馴染んできた。

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正面に回ってみる。けれど中には入れないみたい。諦めて丘を目指す。

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丘の入り口。Архитектурно-Музеен Резерват Царевец(ツァレヴェッツの丘)。手前にあるチケット売り場で入場券を購入する。

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かつてはこの丘全体が宮殿だったそうだけど、オスマン・トルコの猛攻で瓦礫の山となってしまった。今見えているのはほとんどが再建された姿になる。
照明が見えるけれど、これは申し込まないとライトアップしてくれないらしい。確かにこんな穏やかな街で毎晩ライトアップされたら、それはそれで落ち着かない気もする。

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来た道を振り返ると、石畳が再建されたものでも十分な重みを感じられる。あとはこの重たい曇天さえ晴れていればね…。

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頂上にある教会へ。

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内部の壁画は、これまでのどの教会とも印象が違う。実直的な線や色は、社会主義時代に再建されたからだとか。なんだかちょっと、心安らぐ場所とは違うような気がする。

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海外ではよく国旗の掲揚を見かける。一般の家でも。日本では祝日にせいぜいバスとか、官公庁とかデパートとか、それくらい。
こうして国旗の掲揚を見ると、プライドのようなものを感じて、私はとても好感が持てる。こちらまで誇らしくなる気持ち。
だからといって祝日に日の丸を掲げたりはしないのだけど…。

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この丘の人気は、この眺め。
シンボリックに川が街中を大きく蛇行して流れている。そしてこの緑の多さ。ブルガリア屈指の観光名所というのも頷ける。
ただ、私がここを知ったきっかけは琴欧州なので…出会いとは何がきっかけになるかわからないもの。

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なんかこの、完全に復元していない感じも、戦いで崩された感があっていいなと思う。
そんなこんな、思ったよりのんびりして、もうバスの時間になってる。チケット買い直さないと。無駄にはなるけど、旅の懐に響くほどでもない。

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名残惜しいけれど、丘を下りるとしよう。ソフィアまではバスで3時間近くかかるから、日が落ちるギリギリになってしまう。ソフィア中央駅周辺の治安は、やや不安。昼ならまだしも、日が暮れるとちょっとね。

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これは教会などではなく、お店の壁。ブルガリアっぽいね。

ヴェリコ・タルノヴォ。思ったより琴欧州推しではなかった。そして日本ヨイショでもなかった。まぁそんなもんか。あまり人に出会わなかったしね…。

さて、バスターミナルではチケットを買い直したい旨を申し出た。
「あなたのバスはもう出ちゃったわよ!!」
窓口のおばちゃんがびっくり仰天な顔で言う。えぇわかってます。だから買い直したいです。払い戻しとかじゃなくて。
というわけで17:00に出るチケットを発行してもらった。ソフィアに付くのは20時。季節的にまだ真っ暗にはならないかな。

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というわけで無事ソフィアに帰着。

明日は移動前の最後のソフィア滞在。初日にじっくり見て回れなかった教会やモスク、シナゴーグなどを周る予定。

じゃあおやすみ!!



#1-4へつづく

[訪問時期]

2016.05.02~05.05
※小説の都合上、特に時期を限定していませんが、訪れた時期はイースターにあたったため、店が閉まっていたり人通りが少なかったと思われます。
季節や天候によってはもっと華やかな街と思われます…。

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