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最近プロレスを観ていなかった私が真面目なヒール:拳王選手にドハマりした話

かつては全日本プロレスファンだった西尾克洋

このnoteは誰でも何となく分かる、話題の土俵に立てるトピックを選んで記事にしている。そうした方が知らない方でも最後まで読める可能性があるからだ。

知らないということはそれだけで切り捨ての対象になる。私自身普段はそうしているし、このnoteの趣旨として狭い世界のマニアに向けて発信している訳ではないので、3週間ほどそうして様子を見てきた。

ただ、今日は少し趣向を変えて話を進めたい。

一般知名度が限りなくゼロに近い人物の話をしていこうと思う。

これを読んでいる人の中で「拳王」と聞いて知ってるという方がどれだけ居るだろうか。

断っておくが、「拳王」と言っても「北斗の拳」に登場するラオウの二つ名のことではない。この無茶な名前で活動するプロレスラーが存在するのである。

私の世代だと地上波で全日本プロレスと新日本プロレスが深夜ではあるが放送していることや親世代が力道山を通過していることもあり、一般教養レベルとして読み書きプロレスを行っていたように思う。

ただ、総合格闘技ブームに押される形でプロレスは居場所を失い、プロレスリングノアの三沢光晴選手が試合中の事故で亡くなったという事件もあり、全日本プロレス派だった私は完全にプロレスから遠ざかり、似たような時期に相撲にドハマりしていくことになる。

プロレスリングノアの凋落と、プロレス離れ

話を戻そう。

Youtubeの時代になるとAIの進歩が著しく、私が興味を持つような動画が候補として上がってくる。「絶望ライン工」や「スーツ交通チャンネル」のようないかにも私が好きそうなものがピックアップされてくるから大したものだと思う。

どこでどういうロジックが働いたのかは知らないが、Youtubeの優秀なAIは私がかつて全日本プロレス派で三沢光晴と小橋建太が焼畑農業のような明日なき戦いを繰り広げていた様をピンポイントに捉えたらしく、候補としてプロレスリングノア公式チャンネルを表示し続けるようになったのである。

あまりにも毎回候補として上がってくるのでこちらも根負けして今のプロレスリングノアを少し気が進まないながらも観てみることにした。

実は全日本プロレスからの派生団体であるプロレスリングノアについては三沢光晴さんが亡くなってからも2年に一度くらい横目に見るようなレベルで動向はチェックしていたのだが、当時の「四天王プロレス」と呼ばれるスタイルの次がなかなか提示できず、団体として加速度的に地位を落としていることが見て伺えた。

かつてのファンとしては凋落し続ける団体の様子を観るのが辛いところもあり、でもどこかで「そろそろ浮上のきっかけが掴めるのではないか」と思いながら期待しているところがあった。が、何度も裏切られてきたために気が乗らなかったということだ。

ヒールレスラーとして浮上しきれなかった拳王

すると、近年のプロレスリングノアで中心に君臨しているのがこの知名度に不釣り合いなリングネームを名乗った選手であることが分かった。そして、この選手がプロレスリングノアにとって浮上のきっかけを掴んでいる原動力であり、浮上しきれない要因であるように感じたのである。

拳王選手は反体制的な立ち位置の、いわゆる「ヒール」と呼ばれるレスラーだ。ヒールレスラーと言っても個人的には主に3つの立ち位置があると考えている。

1.     反則攻撃や汚い言動に徹してファンのヘイトを集める
2.     ファンの想いを反体制の立場で代弁する
3.     汚いことをするのだが、根が真面目で愛らしい

1についてはかつてのプロレスの外国人選手、具体的にはタイガージェットシンのように新宿で猪木を襲撃したりサーベルで攻撃を繰り返すようなタイプのことを指す。今でいえば新日本プロレスのEVIL選手がここに該当する。

2については元々は反体制の立ち位置としてヒールの役割を担っているのだが、気が付くとベビーフェイスよりも人気が出てしまいヒールという立ち位置が形骸化することも珍しくない。NWOを率いた蝶野正洋や現在で言えば内藤哲也がここに該当する。

3については誠実にヒールの役割を果たしてはいるのだが、人の良さや天然ぶりが隠せないようで、言動に突っ込み要素が出てしまうタイプのことを指す。少し前のレスラーで言えば天山広吉や女児救出で話題になったグレートオーカーンがこれに該当するだろう。

拳王選手はこのカテゴライズで言えば私がYoutubeの罠にまんまとハマった頃「2」に該当する選手だったように思う。

私の感想としてはあーすげえ頑張ってるなぁ、なかなか体制に対して的を射たことを言っているなぁと。でもセリフに「オイ」が多いし、わざとらしいし、カリスマを目指すには隙が多い人だなぁというものだった。

このレスラーには確かに魅力はある。しかし、本来の人間性に合わないことをしている。そんな印象を抱いたのである。

今年の1月に新日本プロレスとの対抗戦があった時もノアでは唯一目に見える形で試合前から新日本プロレスを挑発していたのだが、実力と実績に劣る拳王がそれをやっても弱い犬が吠えているような印象になり、存在感はあったが観ていて乗り切れないところはあった。

少し何かが変われば。

惜しいけど、引き込まれるには至らない。

Youtubeで新たな一面をアピールすることに成功する拳王

だが、ここで拳王にとって一大転機が訪れる。

Youtuberデビューである。

私もまさかYoutubeでの発信がきっかけで拳王に対する印象がここまで変わることになるとは思いもしなかった。拳王はYoutubeをきっかけに今まで見せてこなかった根が真面目で愛らしい人柄を上手に見せることに成功したのである。

この部分は今までも見えてきたのだが、どうしてもカリスマ的な立ち位置だと足を引っ張ることも多い。突っ込み甲斐があるキャラでは噛みついても乗りにくいし、天然の面白さが失笑という形になってしまう。

ただ、このほつれの部分を魅力として表現できれば突っ込み甲斐さえも素直に笑い飛ばせてしまう。そういう奴なんだからというだけで終わる話になってしまう。

Youtubeは人間性が如実に見える。

怪しげな人間は怪しげに、いい人を装っている人は装っている部分が、そして拳王のように根が真面目で一生懸命な人間はその部分が大きく伝わってくる。そして見る側は人間の本質を見抜き、好き嫌いを判断する。

Youtubeに於ける「実はいい人」ということを隠さずに伝える手法は非常にポピュラーだと思う。この方法の最大の成功者は江頭2:50で間違いないところだろう。

拳王チャンネルの上手いところは単に「いい人営業」になっておらず、彼の持つ反体制的なキャラクターやメッセージも効果的に発信できている点だ。ベースの反体制キャラに根っこの人間性が垣間見えるという構成になっているので、レスラーとしての完成度を高め、人間性を愛せるという正に一石二鳥と言える訳だ。

拳王の人間性を見るには海関連の動画が最高だ。

「どこの海が好きですか?」と聞くスタッフに「海は世界中でつながっているから海は海なんだよ」と回答する拳王。海に癒される拳王を観てこちらが癒されるという、よく分からない動画だ。

小島聡との抗争で爆発的な面白さを見せる拳王

そして根の人間性が見えたところで小島聡との抗争が始まる。一連の抗争はプロレスリングノアの公式チャンネルを観てほしいところだが、ここ1年で観たどのバラエティよりも面白い茶番がそこにはあるので「スクワット問答」「ライオンプッシュアップ」「カラオケ対決」は順に観てほしい。最終的に全て乱闘で終わるところも最高としか言いようがないし、小島聡の生真面目さも実に良い味を出している。

スクワット問答

腕立て伏せで挑発する拳王

小島に普通の腕立てとライオンプッシュアップの違いを指摘され激昂する拳王

そして後日河原でライオンプッシュアップする拳王

小島に「カラオケを歌ってこそエンターテイナー」と挑発され、後日カラオケで「初心LOVE」を歌う拳王

不思議なもので、こうして拳王の魅力が伝わった後でヒールキャラとしての反体制的な言動を見ると実に的を射ていることも分かるし、言葉選びも上手いことが分かる。ヒールキャラとしての拳王の能力を再評価することにもつながるから面白いものだ。

ただ、一つだけ気を付けてほしいことがある。

間違っても一番最初に拳王がなにわ男子「初心LOVE」を歌うところを観てはいけない。金髪のおじさんが振り付きで、しかも小声で歌っているようにしか見えないからだ。

海に癒され、プロレス解説をし、足に火を付けてファイヤーキックをし、小島聡襲撃後にスクワットし、腕立ての方法で難癖をつけられた後で新日本プロレス伝統のライオンプッシュアップを100回ノンストップで行う様を観た後で「初心LOVE」を観れば、あなたももう拳王ファン、つまり彼の言うところの「クソヤロー」になることは間違いない。

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