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『マーケティング大原則』を読んで。

足立光さん、土合朋宏さんの『「あなたの知らない」マーケティング大原則』を読んで、心に残った箇所をまとめてみました。

1.まずは戦略的コンセプトからはじめよ

最も重要になるのは、やはり「コンセプト」です。ブランドのコンセプト、製品・サービスのコンセプト、コミュニケーションのコンセプト、イベントのコンセプトなど、コンセプトこそマーケティング活動のすべての中心でしょう。

従来のマーケティングにおいて、コンセプトは「誰に何を提供するか」であると説明されることが多いようです。そして、代表的なコンセプト開発のためのフレームワークといえば「ABC」でしょう。

①ターゲット消費者(Audience)
②消費者便益(benefit)
③説得力のある「信じる理由」(compelling Reason Why)

マーケティングの基本の基ですが、コンセプトがすべてのはじまりだと思います。そしてコンセプトとは「誰に何を提供するか」を意味します。コンセプトを「戦略」と呼ぶ人もいるかもしれません。

多くの企業はまず「モノをつくって」から「どう売るか?」を決めることが多いように感じます(=プロダクト・アウト)。それはモノをつくってからコンセプトを決めるようなもので、あまりオススメはできません。

〇参考:セリング・マーケティング・ブランディングの違い

セリング・マーケティング・ブランディング

さらに、本書では戦略的コンセプトを5つ定義しています。商品・サービスを考えるときはまず以下の5つを押さえておくといいでしょう。

5つの要素からなる「戦略的コンセプト」

・ターゲット A:Audience
・消費者便益 B:Benefit
・カテゴリー C:Category
・差別点   D:Point of Difference
・トンマナ  E:Emotional Character

1つひとつの説明は本書を読んでいただくとして、、、

コンセプトを決めると「競合」が浮かび上がってくるのですが、この競合が業種・業態が混在としている、という点がおもしろいなぁと思っています。

少し前の話ですがJR東海の「クリスマス・エクスプレス」の競合は「電話や手紙」と言われています。普通は在来線や車を思い浮かびますが、新幹線が「直接会う」に対して競合は「会わずに声や文面でのやり取り」という点にあります。

消費者の便益として、新幹線のお金を掛けても「相手のぬくもりを感じたい」となるわけですが、そりゃー会えるに越したことはないでしょう!

2.ブランドパーパスを決める

「このブランドは何のために存在しているのか」「なくなったら何が変わるのか」というブランドの存在意義や提供価値にかかわる問いに対する答えが「ブランドパーパス」です。

たとえば、P&Gの「パンパース」のブランドパーパスは「赤ちゃんの笑顔」です。それは同時に「お母さんの笑顔」を意味しています。つまり、パンパースのマーケティング担当者の仕事は赤ちゃんとお母さんを笑顔にすること、というわけです。

戦略と並んでとても大切なポイントがブランドパーパス、存在意義とも言い換えられます。

企業担当者だと、「上から降りてきたミッションで」とか「〇億円の収益目標が必達で」などが初めに口から出てしまいそうなことがあると思います。ですが、その言葉を消費者に直接伝えることはできないと思います。

きちんと企業の言葉で、自分たちの言葉で消費者へ提供できる価値を考え、伝えることが大切だと思っています。

ただ、そもそもその意義を持っていない、考えてたことのない人がいることも事実。であれば、意義をつくることから始めてみるといいと思います。

3.9セグメントマップで顧客を区別する

9セグマップ

各セグメントのその人に何が響くのか、何が効くのかを、仮説をぶつけながら聞いていくことがマーケティングの原点なのでしょう。

9セグメントマップはシンプルだけど、頭を整理できる図かなぁと思っています。

当たり前ですが、ロイヤルティーの高い顧客にはLTVを高めるための「CRM施策」を検討しなければならないし、商品・サービスのことを知らない未認知顧客にはまずは「商品・サービスを知ってもらうこと」に注力すべきだと思います。

ターゲティングを明確にして、優先順位を決めてコストの掛け方を考える。その後、ターゲットごとの目的と施策を決めていく。とてもシンプルな考えです。

製品・サービスそのものを変えない限り、新たな便益や差別点は訴求できないというのは、マーケティング担当者の言い訳であり、怠慢です。

むしろマーケティングは、砂漠で売らなければいけないし、海で塩水を売らなければいけない仕事です。

この視点もとても大切な考え方だと思います。問題は商品・サービスそのものではなく、ターゲットやコミュニケーションの取り方かもしれません。

商品・サービスを変えずにモノを売れ!ということではなく、様々な視点を持つことが大切、ということだと思います。

4.インフルエンサー起用を落とし穴

フォロワーの数とインフルエンスの効果とは必ずしも相関していないのです。

いわゆるインフルエンサーを使えば、同様な嗜好の消費者に響きやすいメッセージを届けることはできるかもしれませんが、売り上げを上げると言う目的から逆算した必要なリーチ数としては、圧倒的に足りないことが多いのが現実です。

ある特定のターゲットしか狙っていない製品やサービスでない限り、キャンペーンの認知獲得をインフルエンサーに頼ることはできないのです。

私も何度かインフルエンサーを活用した企画・キャンペーンを行いましたが、単に「アカウントのフォローが多い・エンゲージメントが高い」だけで判断すると、リスクが大きいと考えています。

なぜなら、インフルエンサーとは「お金をもらってPRをする人」であり、必ずしもその商品・サービスのファンではないからです。

そして、インフルエンサーも様々なタイプがいます。仮に「10万フォロワーいるからお願いしよう」と考えたとしても、そのインフルエンサーが「ファッション・美容に強い」として、お願いする商品・サービスが「シニア用のパジャマ」だとしたら、たぶん全然反応がないですよね。

だからこそ、インフルエンサーを使う、ということは選択肢の一つとしてはいいですが、メインの戦略にはなり得ないのです。

あくまでも「商品・サービスを拡販させるための飛び道具」程度として考えておけばいいと思います。

5.話題性をつくる「IMPAKT」とは

実は、昔から人が話題にしたくなるポイントは、まったく変わっていません。

たとえば、「新しい」や「唯一」「限定」など。「対立構造」もそうです。「どっちがいい?私はこっちがいいと思う」などと議論できる対立構造があると話題になりやすいのは、遠い昔から変わりません。時代が変わろうが、人々が話題化するポイントは、基本的に替わらないのです。

SNSを中心に話題となるテーマを「IMPAKT」として6つ紹介しています。

Inverse:逆説、対立構造
Most:最上級、初、独自
Public:社会性、地域性
Actor/Actress:役者、人情
Keyword:キーワード、数字
Trend:時流、世相、季節性

商品・サービス同士を競わせる「Inverse」や、最高級の素材・原料を使ったり世界初を謳う「Most」、世相を反映させる(今ならコロナ)「Trend」など、SNSを見たユーザーが思わずコメント・シェアしたくなるようなテーマを提供することがポイントだとしています。

SNSを絡める企画の「型」として知っておいて損はないでしょう。

6.価格設定はゴールを決めてから

「価格を原価から決める」というやり方があります。多くの企業で普通に行われている価格の設定方法ですがあまりおすすめできません。なぜなら、原価に必要な利益率を足して決定した価格というのは、その製品の価値と関係がないからです。

価格設定の正しいやり方は、その物やサービスが「いくらで売りたい」「いくらなら売れる」ということを先に決めて、その価格で売れるような原価になるように物やサービスを設定する、という順番です。

これはおっしゃるとおりなんだけど、結構間違えやすい落とし穴だと思います。

「原価が〇〇円だから●●円で売る」というのは、企業側の言い分でしかなく、消費者にとってなんのメリットもないからです。

言わずもがな、消費者は商品・サービスの対価としてお金を払います。であれば、対価で支払ってくれそうな売価設定の上、その売価に見合う原価に収めるよう努力する、というのが筋となります。

7.いい広告はロジックより感情

いい広告を作るためには、ロジックよりも「感情」が大切です。消費者はロジックで広告を見るわけでも、製品やサービスを買うわけでもありません。

「あっ、おもしろいな」とか「なんとなく、よさそうだな」とか、感情の部分で直感的に判断します。なので、クリエイティブの人たちがクリエイティブ・ブリーフのロジックではない、感情をベースにして考えたアイデアのほうが消費者の心に響く場合があるのです。

よく論理(左脳)とクリエイティブ(右脳)のバランスが大事、なんて言いますが、論理性だけでは消費者は動きません。シンプルに面白い!楽しそう!に惹かれるわけですね。

だから大規模な消費者アンケートよりも、現場に行って1消費者の行動を観察した方が良い企画が浮かぶ、とも言えます。もちろん、マーケティング戦略をベースに描いた上で、ということですが。

8.ダメなクライアントのポイント

ステークホルダーが多いこと。関係者がずらっと会議に出てきて、あれこれ意見をいっぱい言うけれども、お互いの意見に必ずしも一貫性がないのにもかかわらず、ぜんぜん決めない。大量のフィードバックをもらった我々は、「じゃあ、どうすればいいの?」と本当に困ってしまう、最悪なパターンです。

その2は、自分の意思とかパッションとかを持っていなくて、上に嫌われないために政治的な意思決定をするマーケティング担当者。これがけっこう多くて。僕が一緒に仕事をしていいなと思うのは、やっぱり、プレゼンで「オレは絶対これやりたいんだよ!」と、クリエイティブと心中するつもりで上とケンカしてくれるタイプなんです。

これは代理店の皆さんにとってはあるある過ぎて、怒りを通り越して笑ってしまうかもしれませんが(いや笑えないか・・・)、、、

お偉いさんと担当者間の意見が違うということはよくあることです。問題はそのギャップを埋めようとしないこと。それは何故かというと、担当者にパッションがない、というのが私の見立てです。

ミッションではなくタスクフォースになってしまっていることが多いため、お偉いさんが右向けば右と言い、左を向けば左と言う。そして担当者自身が社内でコントロールもしない(というかできない)ため、代理店・制作会社が振り回され、疲れてしまう、ということがあります。

こうしてその企業と距離を置くようになる、というのがよくあるダメなクライアント例。こういった顧客を見極めるのも代理店の勘所かもしれません。

9.SNSは共感のメディア

昔からある新聞広告でも現在のソーシャルメディアの口コミでも基本的に一緒です。いずれにしても、ある程度の感情的なアテンション(注目)が取れるようなメッセージが消費者には効くわけです。「おもしろい」とか「感動した」とか、可能的なアテンションがないと基本的には響きません。

ただ、旧来のテレビや新聞といったマスメディアは特定のプレイヤーが一方的に発信しているのに対して、ソーシャルメディアは誰もが双方向に発信しているところに大きな違いがあります。つまりソーシャルメディアは旧来のマスメディアと違って特定のプレーヤーがコントロールできないのです。

企業・消費者ともに、SNSのメリットを上げるとすれば「多様な意見が聞ける場所」である、というところだと思います。

企業は消費者の意見をダイレクトに見聞きできるから商品・サービスにフィードバックすることができます。

消費者も同様に、気になる商品の口コミや使用イメージを知ることができます。中にはインフルエンサーのPR投稿も混在していますが、「#(ハッシュタグ)」や「投稿の雰囲気、文面」で分かるでしょう。

最近はソーシャルリスニング(SNS上で商品・サービスのキーワード検索をして口コミを見聞きすること)も定番化してきたと思うので、SNSは世論として確認・活用するのがいいじゃないかと思います。

10.広告とPRの違い

広告は「自分たちが伝えたいものを自分たちでお金を使って伝える活動」です。それに対して、PRは「自分たちが伝えたいものを第三者に伝えてもらう活動」です。

広告は「企業側が一方的に伝えるもの」に対してPRは「メディア(企業・人)に伝えてもらう」という点が大きな違いとなります。

また、本書ではPRならではの主なメリットを以下の通りまとめています。

①自分たちでは伝えにくいことを伝えてもらえる
例)「創業何十周年、おめでとう」のメッセージ

②信用あるいは信憑性を高めることができる
例)きちんとした人・メディアが紹介してくれる

③「はやっている感じ」が作れる
例)どうも世の中ではこれが流行っているらしい、とブームが作れる

④権威やお墨付きがもらえる
例)大学教授や三つ星レストランのシェフに紹介してもらうと

PRはムーブメントを起こす、とも言われるかもしれません。だけど、ムーブメント(波)があるということは、いずれなくなってしまう、とも言い換えられます。

なのでPRで波を起こしたあとにいかにそれを「習慣化」させることができるのか、まで設計しておく必要がある、ということです。

PRだけではなく、PRした内容をいかに定着させられるか。カルチャーにできるか。ここまでをPRのKGIとして設計することはとても重要な視点だと考えています。

11.CRMでは差別化にならない

実はCRMで継続的に、経営にインパクトのあるレベルの業績を出し続けている会社はほとんどありません。

ひとむかし前のデパートでは、多くのお客様が会員登録しており、会員が何を購入したかも、本人の誕生日から、もしかすると家族構成までわかっていて、電話やDMなどで熱心にCRMをやってきました。ところが、業界の右肩下がりに歯止めがかからない状態です。

CRM(Customer Relationship Management)とは簡単に言うと「顧客の囲い込み」となるわけですが、囲い込むために、企業は様々な消費者情報を取得するわけです。

しかし、いかに個人情報や購買情報(=ファクト)をたくさん集めたとしても、わかるのは結局「事実だけ」であって、その先の未来がわかるわけではありません。現に百貨店は多くの個人情報を持ちながらも、業績は落ち続けています。

理由として、CRM施策を「行っていない」企業が少なく、CRMを行っている「だけ」では独自性を出すことはできない、ということだと思います。

じゃあどうすればいいのか?ですが、個人的には以下の通り考えています。

①商品・サービスそのもの価値向上
②消費者の潜在課題に気づく勘所(センス)
③企業として失敗する覚悟を持つ

商品・サービスそのものの価値が落ちれば(相対的・絶対的ともに)お客さんは離れてしまうわけなので、一丁目一番地として外せないポイントだと思います。

次いで、消費者の潜在課題に気づく勘所。センスとも言い換えられると思います。ファクトからは隠れた課題は見つかりません。そして仮説を立てるには経験とスキルと、最後はセンスだと思っています。

先ほど挙げたソーシャルリスニングや現場での消費者行動を見ることで、「ひょっとしてこうゆうことじゃね??」という仮説をどんどん作れる人は強いです。

最後は失敗する覚悟。失敗はチャレンジのつきものです。企業は良い意味で「まぁ成功するとは思っていないんで・・・」くらいの心意気でガシガシとアグレッシブにチャレンジしてもらいたいと思います。

最後に

本書の最後に「すべてのマーケティングは、テストマーケティングである」との素敵な文章で締められています。

マーケティングは戦略をつくり、企業や商品・サービスの価値そのものを見直し、作るための武器となりますが、必ずビジネスが成功する「魔法の杖」ではありません。

けれど、失敗に早く気が付くことはできるかもしれません。私自身も成功に少しでも近づくために、マーケティングという武器を余すことなく使い倒していきたいと思います!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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