少しずつではなく雪崩を打つように。協調的交流の連鎖が文化をつくる。
今日も引き続き『ソーシャル物理学 - 「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』(著:アレックス・ペントランド)より「SNSを通じての影響の広まり方」を読みました。
人を「相互につながりあった存在」と捉え、そのつながり(ソーシャルネットワーク)の中で生まれる相互作用(社会的圧力)を活用することで、ある人の価値観や行動を変えてゆくことができる。
そのような相互作用、社会的圧力が発生するようにインセンティブを設計する。それがソーシャルネットワーク・インセンティブです。たとえば、互いにペアを組んで、相互の支援に対して報酬を支払う場合などが該当します。
特に、互いに関係の深い場合に、社会的圧力による行動変容の効果は高く、かつ持続性のあるものとなるのでした。行動変容を促すためにはエンゲージメント(ソーシャルネットワークの中で繰り返される協調的な行動)が重要であり、短期間で複数の人の行動や価値観にふれることで行動変容の効果を高めます。
「多くの人々が新しい行動を雪崩を打ったように移行しない限り、大部分の人々は腰を上げようとしない」というコメントが印象的です。
得てして人は新しい環境に飛び込む、あるいは新しい行動を求められる時、自分が逸脱していないか不安に思い、周囲を伺うかもしれません。あるいは「自分には関係がない」と割り切って行動を変えないかもしれません。
だからこそ「みんながやっているから自分もやる」という状況を作り出す。これが雪崩を打ったように移行することだと解釈しましたが、すなわち同調圧力を利用するということ。その意味では「期間を決めて全員が同じ行動を複数回繰り返す」ことが有効なのかもしれません。
「エンゲージメントは文化をつくる」という言葉が印象的です。文化は作ることができる。文化は「自然に生まれるもの」だと捉えていましたが、その原型は誰かしらの模範的行動であり、周囲の人が模倣し、その行動変容が連鎖的に伝播していく。
一定の割合を超えて新しい価値観や行動が浸透してゆくと、それが互いに共有された行動様式・行動規範、すなわち文化となってゆく。その意味では、文化のキーポイントは「真似・模倣」であり、言い方を変えれば「フォロワーシップ」であると言えそうです。
また、エンゲージメントが信頼感を醸成する理由は、同調圧力が「一体感」として感じられるようになる瞬間がくるのではないか。すなわち、一体感が幸福感や安心感として作用する局面がくるのではないか。そのように思うのです。
「なぜ企業はソーシャルネットワーク・インセンティブをもっと活用しないのだろうか?」との問いに対して、その理由の一つを「何かやった気持ちになれるだけの戦略のように見える」としています。何かやった気持ちになるというのは、つまり効果が得られないということ。
効果を得られるか否かは「フォロワーシップ」に影響されるのだとすれば、何かをやるではなく「やり続ける」ことが重要。それも短期間のうちに一気呵成に。ソーシャルネットワーク・インセンティブの存在を知らないことに加えて、効果を得るためのキーポイントを理解されていなければ、実践されないことは想像に難くありません。
また、フォロワーシップが希薄になる理由には組織構造もあるかもしれません。樹形図、分岐構造。全体としてはピラミッド構造です。垂直関係と水平関係の組み合わせに縛られています。ソーシャルネットワーク・インセンティブの事例におけるネットワークは、どちらかと言えば縦横無尽に網の目のように張り巡らされたネットワークです。
ネットワーク構造、つながり方(フォロワーシップ、そもそもつながりたい人がいるか?も含む)を同時に変えなければ、ピラミッド構造型の組織の中でソーシャルネットワーク・インセンティブを機能させるのは難しいのかもしれない。逆に言えば、一筋縄ではいかないと思いますが、最初から全てを作り変える意思決定ができるかが問われているのかもしれません。徐々に、少しずつは行動変容を促す効果は弱いのですから。
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