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シンボルとは「器」である

今日も引き続き、ミハイ=チクセントミハイ(アメリカの心理学者)による『モノの意味 - 大切な物の心理学』の第2章「物は何のためにあるか」より「自己の内部葛藤を媒介するシンボル」を読みました。では、一部を引用してみたいと思います。

今世紀のもう一人の偉大な深層心理学者のカール・ユングは、芸術、宗教、夢、ファンタジーの中にあらわれるシンボルに対して、もう少し積極的な役割を与えている。ユングは相対的によく知られたものとしての記号と、その意味があまりよく知られていないシンボルとを区別した(Turner, 1967, p.26を参照)。
シンボルは誰もが知っている何ものかを覆い隠す記号ではない。そのような意味ではなく、逆にそれは、まったく未知の領域に属している何ものかを、あるいはいまだ存在しない何ものかをアナロジーで説明しようとする企てである。想像力は、生成の過程にあるものを、多かれ少なかれ衝撃的なアナロジーで、私たちに明らかにする。もし私たちが分析によって、これを普遍的に知られている別の何かに変えてしまったら、シンボルの本来の価値を破壊してしまう。しかし、解釈的意味をそれに帰することは、その価値と意味に合致する。(Jung, 1953, p.299)

「シンボルは誰もが知っている何ものかを覆い隠す記号ではない。そのような意味ではなく、逆にそれは、まったく未知の領域に属している何ものかを、あるいはいまだ存在しない何ものかをアナロジーで説明しようとする企てである。」

カール・ユングのこの言葉が印象的でした。

「シンボルとは何だろう?」という問いのもと、シンボルはどのように定義できるのでしょうか。

「シンボルという言葉から何が連想されるか?」という問いを足掛かりにしたいと思います。オリンピックの五輪、東京タワー、国旗(日の丸)、富士山。やはり「象徴的な事物」が思い浮かんできます。

象徴的という言葉を使いましたが、あらためて「象徴とは何だろう?」と考えると「代表的・特徴的・具体的」という3つの要素を併せ持つ何か、との意味で使っていると思います。Wikipediaを参照すると以下のように定義が記載されていました。

1. あるものを、その物とは別のものを代わりに示すことによって、間接的に表現し、知らしめるという方法。
2. 抽象的な概念、形のない事物に、より具体的な事物や形によって、表現すること。
3. ある事物の側面、一点を、他の事物や形によって、強調表現すること。

特に、2.の「抽象的な概念、形のない事物に、より具体的な事物や形によって、表現すること。」という定義が気になります。

この定義に沿うような「解釈的意味をそれに帰することは、その価値と意味に合致する。」という著者の言葉をさらに掘り下げてみたいと思いました。

シンボルという言葉から連想した「国旗」に関連して、デザイナーの原研哉さんが著書『白』の「白地に赤い丸の受容力」で述べている言葉を引きたいと思います。

 日本の国旗は白地に赤い丸である。これはシンボルあるいはエンプティネスとは何かを考える上で、格好の事例と言える。
 赤い丸に意味はない。赤い丸は単に赤い丸である。それ以上でも以下でもない。これにたとえば、天皇であるとか、国家であるとか、愛国心などという意味を付与したとしても、天皇であるとか、国家であるとか、愛国心などという意味を付与したとしても、それは恣意的なことである。比喩的に言えば、赤い丸は、目を引く存在であるから、この視覚的なオブジェクトに特定の意味を付与し、流通させれば、効率の良い視覚伝達が行われるだろう。赤い丸はさしあたって空っぽの器であるから、どんな意味でもそこに受け入れることができる。

そう、原さんの言葉にある「器」という言葉。

「シンボルとは器である」ということなのではないかと考えると、しっくりくるのです。

「もし私たちが分析によって、これを普遍的に知られている別の何かに変えてしまったら、シンボルの本来の価値を破壊してしまう。」との著者の言葉と対になるのは、原研哉さんの言葉にある「これにたとえば、天皇であるとか、国家であるとか、愛国心などという意味を付与したとしても、天皇であるとか、国家であるとか、愛国心などという意味を付与したとしても、それは恣意的なことである。」であるように思います。

シンボルを分析して、その結果として恣意的に意味を付与する。その瞬間に、何でも受け入れる器としてのシンボルの本来の価値が毀損してしまう。

シンボルに普遍的な意味を与えようとしてはいけない。シンボルはシンボルのまま。自分の言葉で言い表せない何かを、もどかしさを受け入れる器。全てを無理に満たそうとしないこと。

シンボルの根幹・本質は「余白と受容力」にある。なんだか、とても大事な学びを得たような気がします。

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