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変わらないために変わり続けるということ〜代謝・治癒・バランス〜

「変わらないために変わり続ける」

昔聞いた、とある方の言葉が今でも胸に残っています。

この言葉は「生き方」に関する文脈で述べられた言葉で、人それぞれ生きていく上で大切にすることを持ちながら、大切なことの表現が「生きる」ことだとしたら、その表現方法は一つの方法に固執することはなく、しなやかに変わっていけばよい。そのように捉えています。

そして、この言葉は心持ちに関する以前に、自分自身の「からだ」において瞬間瞬間に「代謝」という形で具現化していることに気付きます。

「代謝が良い・悪い」と言いますが、たとえば、皮膚は複数の層から成り、それぞれの層で細胞分裂が起こり、古くなった皮膚が垢となって剥がれ落ちていきます。そうして新しい皮膚が古い皮膚に入れ替わっていくわけです。

あるいは怪我をした時、傷口に「かさぶた」ができて、やがて「かさぶた」が剥がれ落ち、剥がれ落ちた部分の皮膚が徐々に入れ替わっていって元通りになっていく。自分自身で自分自身をを作り変えることが「治癒」あるいは「自己修復」という形で表現されます。

「癒される」という表現がありますが、この「自分自身を作り変えること」が治癒の根底にあるのだとすれば、癒されるとは「外から与えられるもの」というよりも、むしろ傷ついた自分、過去の自分を内側から押し出すことで新しく生まれ変わる感覚に根差している、つまり「内発的なもの」と捉えるほうが適切なのかもしれません。

つまり「癒されたい」という言葉は、「外に何かを求める」というよりも、「あるべき流れ・バランスを取り戻したい」と捉えるほうが健全なのように思えます。

生物の代謝に学ぶ「変わらないために変わり続ける」ということ。

生物の体には、いつも物質が流れ込み、そして流れ出ていく。しかし、その流れの速さは、場所によって異なる。私たちの体の一番外側は、表皮である。表皮はいくつかの層に分けられるが、一番深いところにあるのが基底層である。基底層では盛んに細胞分裂が起きており、ここでできた細胞が表層に向かって押し出され、一番外側の角質層に達すると、剥がれ落ちる。いわゆる垢である。この表皮の細胞の寿命は数週間である。

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表皮の下には真皮がある。真皮の細胞の寿命は長く、数年である。そのため、真皮の細胞はなかなか入れ替わらない。体に入れ墨をすると、一生消えない。それは色素を、表皮を貫いて真皮まで注入するためだ。色素の粒子のうち、小さなものは排出される。しかし、大きなものは、細胞が入れ替わっても排出されないので、その場に残る。そのため、入れ墨はだんだん薄くはなるが、一生消えないのである。

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とはいえ、生物の体の多くの部分は、いつも入れ替わっている。だから、私たちの体も、十年も経てば、かなりの部分は入れ替わってしまう。十年前のあなたは、もういない。今のあなたのほとんどの部分は、新しい材料でできているのだ。それなのに、あなたはあなたのままである。全体の形もあまり変わらない。何だか生物って不思議なものだ。

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