とこしなえの御言葉は~♪
アドベント(待降節)のシーズンは、四週にわたる礼拝で、いろんなカロル(クリスマスの讃美歌)を歌う。
自分がいちばんすきなのが、「神の御子はこよいしも」(O, come all ye faithful または Adeste fideles)なんだけど、3節にこう歌われている。
とこしなえの御言葉は いまぞ人となりたもう
永遠の神の言葉であるイエス・キリストが、ひとのかたちをとって生まれた日。それがクリスマスだ。
今日の聖書の言葉。
しかし、言は、自分を受け入れた人、その名を信じる人々には神の子となる資格を与えた。
ヨハネによる福音書 1:12 新共同訳
この「言」(ことば)とは、神の言葉のこと。
第二神殿時代のユダヤ教(後期ユダヤ教)では、神から出た「神の言葉」(メムラ)は神である、と考えられていたんだって。それだと、神と、神から出た神とで、神が合計二人になっちゃうんじゃない? って思うけど、それだけじゃないんだ。神から出た「神の臨在」(シェキナー)もまた、神である、というんだ。これだと神が三人に!?
でも、ここが神秘なんだけど、それでもやっぱり、神はひとり、と後期ユダヤ教では考えられていたんだ。これって、クリスチャンが信じている三位一体の考え方に、なんとなく似ているよね。。。
後期ユダヤ教というのは、バビロン捕囚のあとのユダヤ教のこと。当時は、中近東の共通語だったアラム語話者が増えていて、ヘブライ語があんまりわからない、という人たちがいた。なので、ヘブライ語で書かれた聖書の教えを、彼らのためにアラム語に翻訳する必要があったんだ。こうして生まれたのが、アラム語訳の旧約聖書であるタルグムだ *¹。
タルグムでは、「神の言葉」(メムラ)は、神の力の顕現とか、神の代理人という意味で、頻繁に使われている。
ユダヤ教百科事典(1906年版)では、メムラをこのように解説している *²。
■ メムラは、シェキナー(神の臨在)と同様に神の顕現である(タルグム 民数記23:21参照)
■ メムラはイスラエルを神に近づけるため、神の御座に着いてイスラエルの祈りを受け取る(タルグム エルサレム 申命記4:7)
■ メムラはノアを洪水から守り(タルグム エルサレム 創世記7:16)人類を70の国民に分散させた(同11:8)
■ メムラはヤコブの守り手であり(創世記28:20-21, 35:3)イスラエルの守り手である(タルグム エルサレム 出エジプト記12:23, 29)
■ メムラはエジプトで奇跡を行い(同13:8, 14:25)ファラオの心をかたくなにし(同13:15)イスラエルに先立って荒野を進み(タルグム エルサレム 出エジプト記20:1)イスラエルを祝福し(タルグム エルサレム 民数記23:8)イスラエルのために戦った(タルグム ヨシュア記3:7, 10:14, 23:3)
■ メムラは神の代理者として人間の宿命を支配する(タルグム エルサレム 民数記27:16)
■ メムラは地球の創造に関与し(イザヤ45:12)正義を行う(タルグム エルサレム 民数記33:4)
■ メムラは慰め主となり(タルグム イザヤ66:13)「わたしのシェキナーはあなたのうちにあり、わたしのメムラはあなたを贖う神となり、あなたはわたしの名にとって聖なる民となる」(タルグム エルサレム レビ記22:12)
■「わたしのメムラはあなたにとって良い農夫となり、雄牛の肩からくびきを外す」「わたしのメムラは捕囚の民を集める叫び声となる」(タルグム ホセア11:5, 10)
■ メムラは証人であり(タルグム エルサレム 29:23)イスラエルの父であり(同31:9)「喜びにあふれてイスラエルに善を行う」(同32:41)
■ メムラのうちに贖いが見出される(タルグム ゼカリヤ12:5)
■「聖なる言葉」に対してヨブは讃美の歌をうたう(ヨブ12:3)
すごい、メムラの大活躍ぶり。。。旧約聖書の主人公って、まるでメムラじゃん、と思ってしまう。
そのメムラ、永遠の神の言葉が、ちいさな、ちいさな、あかんぼうの姿になって、ベツレヘムの馬小屋の飼い葉おけの上に、降り立ってくださった。
言は肉となって、わたしたちの間に宿られた。わたしたちはその栄光を見た。それは父の独り子としての栄光であって、恵みと真理とに満ちていた。
ヨハネによる福音書 1:14 新共同訳
神の言葉が、ひととなってくださったのは、わたしたち人類と結びついて下さるため。そうすることによって、わたしたちが「神の子ども」となるため、なんだ。
あなたがたは皆、信仰により、キリスト・イエスに結ばれて神の子なのです。
ガラテヤの信徒への手紙 3:26 新共同訳
「わたしのメムラはあなたを贖う神となる」というタルグム・エルサレムのレビ記22:12なんて、まさに、イエス・キリストの十字架によって実現しているよなー、と思う。
イエスさま、ありがとう。。。
註)
*1. 「タルグム」(アラム語訳旧約聖書)は、よくタルムードと混同されるんだけど、両者は別だ。「タルムード」は、トーラー~モーセの律法(創世記・出エジプト記・レビ記・民数記・申命記)の注解書。注解と共に、解釈をめぐるいろんなラビたち(ユダヤ教の律法学者)の議論が収められている。
*2. "Memra" in Jewish Encyclopedia, 1906.
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