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黒のRPG

昔々、大陸の端にマチという都市がありました。そこには、とても有名な勇者がいました。その勇者は市民に慕われ、人望もあり、時期「王様」と言われていました。
その勇者が、この都市に襲ってくるであろう魔王から守るために、魔王を倒しに、精霊の「ユビ」と一緒に旅に出かけました…

というのが、30年前からの伝説である。その当時、勇者は魔王を倒すと宣言して、人々は勇者が魔王を倒して還ってくると信じた。

勇者は、魔界に入る前に、もしかすると帰ってこれないことを心配し、親しい人に「別れ」を告げ、必ず帰ってくるとも伝えた。

ユビ(女性の設定)とともに戦略を練り、戦いに備えて、準備を万端にしていった。そのなかで言われたのは「絶対に離れ離れになってはいけない」ということだった。

仲間を募り、勇者を中心に、魔法使いである「ナーツ」、武道家である「ウィント」とともに準備をして行った。回復や戦闘ができるようにとユビから言われていた。

だが、魔界に入り込んだ勇者はほどなく相棒の「ユビ」とも別れてしまった。あれほど「別れるな」と言われていたのに、と悩んでいると、魔物に襲われてしまった。魔界に来る前に、ある程度レベルを上げて、道具をしっかり買い込んでいたから、そんなに困ることはない…はずだった。
だが、いきなり、襲い掛かられて「呪い」をかけられてしまった。すぐに「聖水」を使い、呪いを解くことができたが、これからのことを考えると、少し不安になった。
魔法使いは、状態異常になった時に対応したいと提案して、勇者と武道家に何とか教えようとしたけれど、無理だった。そこで、勇者と武闘家は戦闘を主に、魔法使いは状態異常に対応できるように補助魔法でサポートをする、ことで役割分担をしていく。

「呪いをかけてくる魔物が多そうだから、気をつけないとな」

というのは、お互いに認識していった。

また、多めに聖水も持っていたし、呪われないための装備もしたし、魔法もつかえるはずだと思っていたが、これからのことを考えて、使うタイミングをしぶっていた。装備もいつ壊れるかわからないし、いつまで続くか分からない戦いと、魔王との戦いに備えて、残しておきたかった。

それが、これからの魔の道の入り口だった。

魔界での戦いは、序盤は苦労したが、次第に要領を得て、魔物を倒し、魔王の住処へと進んでいった。道具も魔法もそんなに使わなくても、順調にレベルアップして、強くなっていった。

ただ、少し奇妙なことが起こるようになってきた。

攻撃するときの連携が取れなくなってきたこと。
強くなってきているから、別に構わないと思っていた。

そしてついに、魔王との「最後の」戦いになり、勇者たちは死力を尽くして戦った。自分が死んでもいいと思い、魔王を倒すことに力を発揮した。

俺は「魔王」に勝利した!!これで世界に平和が訪れるんだ!

だが、魔王は最期に気になる言葉を発した。

「お前こそが、次の「魔王」だ」と。

しばらくして、魔界から出ることに成功し、人間界に戻ってきたときには、自分たちが英雄になれると信じていた。
だが、人々の反応はなかった、というか、人の姿はなく、会わなかった。人のいるところに行こうとしても、逃げていった。

「何で?まずは、ユビのところに行かないと」

ユビは、人間に見つからないように都市の外れにひっそりと暮らしている。
俺の姿を見ると、びっくりしたというか、あきれていた。

「あんた、勇者?」
「そうだよ、魔王を倒してきた」
「・・・」
「久しぶりだな、どれくらいぶりかな」
「人間で言う30年ぶり」
「そんなに経っていたんだ」

だが、ユビは、それ以上に反応をせず、その代わり、震えていた。
ユビと会い、これまでどうしていたかを話し、家族のこと、友人のこと、王様のことを聞いた。さすがに「30年」経つと、変化が大きく、家族も友人も王様も「悲しい」変化ばかりだった。

それ以上に、勇者はユビの告白に驚いた。

「ユビ」から教えてもらった魔界の本当の怖さは次の通りだった。
①魔界に入ってから、呪われてしまうと、まず「眼」に症状があらわれてくる。自分が見えているものは「幻」で、見え方が違ってくる。

「というと、あんたが魔界でみたものは真実でないということ!もしかして、ゴブリンだったり、吸血鬼とか魔物を倒さなかった?本当に魔物だった?」
「???」
「それは、魔界に迷い込んできた人間かもしれないよ?」
「ということは…必死になって倒していたのは「人間」…?」
「それと、仲間のナーツとウィントはどうしたの?」
「ずっと、魔王を倒すために行動していたけれど…」
「本当?何だか途中から様子がおかしくなかった?」
「それは…」
「それは、仲間も魔物になっていたかもしれないってこと」
「…」
「もしかして、魔物と思って仲間を倒してしまったのかも…」
「そんなことはない!!」

②痛みを感じなくなるということは、「呪い」によって自分の身体に変化が出てきているということ。だから、「呪い」は早めに解くか、絶えず体力を満タンにしておくこと。

「変化?」
「そう。身体が「魔物」になっていく、という」
「だったら、早めに気付くはず」
「さっきも言ったように「眼」に最初に変化が現れるから、身体がどうなっているか分からないし、痛みを感じなくなっているから自分が強くなっていると錯覚してしまう」
「でも、装備もしてたから、問題ないんじゃないのか?」
「そう。呪いが弱い内はそれでも良かったけど、進行してくるとそうでも無くなる。しかも、無くなっていることも呪いのせいで分からなくなっていた」
「でも、ナーツが補助魔法でサポートしてくれているはずじゃあ…」
「うーん、でも本当に魔法をかけてくれているかは分からないよね」

③「魔物化」が進んでくると、人間では起こりえない身体の変化が出てきて、「呪い」を解くことができなくなってくる。

「そう、例えば「体つき」。異常に筋肉が発達してきたり、翼が生えてきたり。因みに、今のあんたは、身体は黒というか紫に近くなっているし、角が生えているから」
「だからか」
「そう。だから、人間から見るとあんたは「魔物」そのもの」
「俺から、人間が逃げていったのも、そのせいか」
「しかも、人間では覚えられないような魔法も覚えてしまった。人間が使うと身を滅ぼすような、ね」
「それと、仲間だと思っていたのはナーツやウィントじゃなくなっていたのかもしれない」
「魔物が自分の仲間だと思って、近寄ってきたのをアンタが招き入れたのかもね」

④「魔界」と「人間界」の物質は、基本違うことが多い。だから、触れてしまうと異常反応を起こし、腐ってしまったりする。

「あんたは魔界に入ってから、最初は自分の装備や道具だけを使ってきたから良かったけれど、無くなりそうになってからは、自分で魔界のものを使って道具を直すことをしなかった?」
「・・・」
「異常反応と言ったけれど、「呪い」で魔物化しつつあったから、気付きにくかった。こっちに戻ってきてから、異常にモノが壊れたり、腐ったりすることがなかった? それが、証拠」

⑤人間界と魔界は、時空がゆがんでいるから、感覚がズレてしまう。もちろん、方向感覚も分からなくなるから、魔界の入り口も分からなくなり、人間界に戻ってこれなくなることもある。

このことは、勇者も知っていたが、
「私もアンタとはぐれてしまってから、必死に探した。魔界で捜すのは困難なのは分かっていた。必死に捜して、でも私も力が尽きそうになり、命からがら戻ることはできた。だけど、アンタは…」
「テレパシーは使えるんじゃないのか」
「そうは思ったけれど、時空がズレているから、通じている時と通じない時があったでしょ」
まさしくそうだ。最初は、途切れ途切れテレパシーができていたが、プッツリと出来なくなってしまった。
「私がここに戻ってこれて、テレパシーを試みようとしたけれど、ダメだった。時空の関係で、バチっと衝撃が出てね。その時に触れた魔界の感染症みたいなものになって、しばらく私は動けない時もあった」

ということが「ユビ」に教えてもらったことだった。

人間界に戻って、「ユビ」の魔法で姿は人間にすることはできるけれど、いつまでもつか分からないし、少しでも「怒り」や「悲しみ」に感情が変わると、魔物の姿が現れてくるとも言われた。

そして、魔王が死に際に伝えた言葉を、ユビに伝えた。すると、顔面蒼白になり、とある事実を伝えた。

「それは、あんたが魔界の王に、つまり「魔王」になれ、ということ」

「えっ、でもそれは、言葉だけだよな」
「でも、魔王から見たら、倒されたとしても、もうすでに「魔物化」していたアンタを魔王にすると決めていたんじゃない?だから、あらかじめ住処全体に呪いをかけて、逃れられないようにした可能性が高い」
「でも…」
「その証拠に、魔王を倒して普通だったら、呪いも解けて、人間の姿に戻っているはずが、戻れないでいる」
「じゃあ、これからどうすればいいと」

ユビの提案は2つ
①自ら命を絶つ。ただし、王になってしまったから、人間界と魔界のバランスが崩れて、魔物が人間界に一斉に襲ってくる可能性が高い。
②魔界に戻り、魔王となるが、人間界に脅威がないようにコントロールする。ただし、いつまでコントロールできるか分からないし、魔物としての感情が人間性を押しつぶしてしまう可能性があるし、これから、勇者が何人も倒しに来るかもしれない。

だった。

「じゃあ、どうすれば」とユビに触れようとした時だった。
「ダメ!!」

ユビに触れた瞬間、まるで枯れ葉のようにカラカラになり、地面に堕ちてしまった。

「触れてしまうと異常反応を起こし、腐ってしまったりする」

堕ちてしまったユビをみて、悲しみの感情が押し寄せて、涙を流して、その場に崩れ落ちた。

それがスイッチとなった。

「悲しみ」の感情で、魔物化がさらに進んでしまった。
しばらくしてから、「勇者」は立ち上がり、魔界に向けて飛び立っていった。

「真の」魔王になるために。

そうして、勇者は魔界の「王」として、後世に名を残す存在となった。
世界中に名の知れた、恐ろしい魔王としての名を。
めでたしめでたし


【感想】
初めての、長めの小説を書いてみました。この話は、自分の夢に出てきたことを忘れないうちにと書いてしまったので、細かい設定や時代背景、「勇者」「魔界」「魔物」の思い込みがあると思います。ただ、「魔王はどうやって誕生するのか」「魔王はどうして何人もいるのか」を自分としての解釈も含めて書いてみました。
「人は環境によって変わってしまう」し、「現状の変化を追い求める自分」を書きながら、少し考えてしまいました。

読みにくくて、迷走気味な小説?だったとは思いますが、最後まで読んでいただいてありがとうございました。
小説はめったに書きませんが、これからもよろしくお願いいたします。

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