過去作(全5作)
『メルヘン少女旅行』
わたし達は幼くて、一緒に居たら何だって出来たし何だって手に入った。
それが退屈でならなかった。
天使から取り上げた羽を抱き締めながらきみが欠伸をする。真似するように欠伸をしてわたしときみは横になった。
ピンクの天井、雲のライト、数年前に天国へ行ったペットの犬…。
この部屋は、この部屋だけは居心地が良かった。
外には何を喋っているのか分からない歯のないオジサン、怒鳴りつけてくるサラリーマン、それ以外の人は絶望した顔をして歩いているだけ。
家に帰れば酒の瓶を投げつけられる、殴られる。きみも同じだと言っていた。可愛くないものなんて要らなかった。柔らかい物しか触れて欲しくなかった。
ある時わたし達は外に出た。手を繋いで公園で踊った。くるくる廻ると水色のうさぎやフリルたっぷりのワンピースが見えた。夢中で廻った。身体がボロボロになるまで。
ボロボロになったきみがどこかを指さして言う。「夜明けだよ」わたしは、右目だけを、そちらに向けた。
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『わたし、迷子』
「世界のおわりなんて、みんなたくさん見ているはずだよ」
あなたの話す言葉、時々私を迷子にする。そんな時は決まって手を繋ぐ。あなたがどこか綿毛のように飛んでいかないように。
淡い練色の空間を手を繋いで歩く。空にはイコライザーがかけられていた。
すれ違った学生の紺色のスカートが風でひらひら揺れていた。そんな事ばかり、覚えている。
あなたの世界がおわる時、私はどこにいるのかな
煙みたいに消えてしまえたら、いいな、なんて
あなたの睫毛を見ながら考えていると、石に躓いて照れ笑いする、あなたと目が合った。
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『017』
あの日、私は天使と出会った 青い羽根でとびきり可愛い天使と。
天使と一緒に笑った、くだらない話をした、一緒に泣いた 私の心に触れて綺麗だと言ってくれた
それだけで、悲しくても生きていけると思った
でもある日、天使は空に帰った 一言も、なんにも、教えてくれなかった
私は空へ帰る天使の背中を追った
―青い羽根は空と同化して
あれじゃあ、人間が空を飛んでいると勘違いされてしまうじゃん
それから暫く私の上にだけ雨が降った
この雨はずっと止まなくていいよ
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『十一月二日』
わたしの心には一本の木があります。大木ではないけど折れない、丈夫な木です。
この木を植えたのはわたしではありません。痩せぎすで猫背の女の子です。
わたしは気づいているようで気づいていませんでした。彼女は来る日も来る日も水を与えてくれていたことに。
わたしの心には度々嵐が訪れます。
度々、しばしば、ひんぱんに?
嵐が来るとわたしは酷く苦しませられます。それでも木が、変わらずいてくれるから、わたしは戻って来られます。 在るべき場所に、在るべき自分に。
この木はあなたですし、
この詩もあなたです。
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『エレクトロニカを笑わないで』
人差し指と人差し指、くっつけて小さな電気。ちょっと痛い。
この小さな電気を集めて集めて発電所ができるわ。
ヒールに付いた泥を落とす。(水溜まりに何故か夏が残っていたので飛び込んだ)
あんたの好きなバンドの新曲聴いた、大声で言ったら饒舌になる。
でもあたし、もう泥に夢中だよ。
あんたの事、全部はわかんないからわかった気になるつもりはないよ。
だから、あんたもわかんない事、わかんないままでいなよ。
あの子の好きなエレクトロニカを笑わないで。
泥も落ちたし、あたしもう行くね。
ついでだから、錆びた弦は捨てといてあげる。
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