「わたしは最悪。」を男性目線で観たら割と最悪だったが、一晩置いたら男女の根源的な違いについても考えた
こんにちは、makoto です。
おそらくこの映画は男女で受け止め方が大きく異なる映画かもしれないというのが、話題の映画「わたしは最悪。」を観た正直なファーストインプレッションです。
少しネタバレも含まれていますので、未見の方はご注意下さい。
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8月10日水曜日。
首都圏の多くの映画館では割引サービスを実施している日なので、映画館に行かない理由がありません。外は酷暑なので2時間ゆっくり劇場で涼みながら映画鑑賞なんて贅沢な時間です。
で、この水曜には、「コクソン」のナ・ホンジンが原案・プロデュースをしているタイの最怖ホラーと噂の「女神の継承」を観ようと思っていました。
だけど、怖そうだな、どうしようかな、とギリギリまで迷っていました。
なにせ、ディズニーランドのホーンテッド・マンションでも怖くて目を瞑ってしまうビビりなのですから。
だったらホラー映画なんて行くなよって話ですが、「コクソン」めちゃくちゃ面白かったので。
そんこんなでチケット予約するのをぐずぐずしていたら、午後一番にMTGが入ってしまい、上映時間に間に合わなくなりました。
ということで、セカンドオプションの「わたしは最悪。」を鑑賞してきたわけです。
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「わたしは最悪。」の監督ヨアキム・トリアーの映画はこれまで観たことがなかったので「この監督で選んだ」ということではなくて、単純に予告が面白そうだったから観ようと思っていました。
映画予告では、中盤の印象的なシーンが出てきます。
主人公のユリヤ訊いてコーヒーをカップに注ごうとした背中を向けた瞬間、キッチンの電気を点けると、時間が止まってしまいます。
今がチャンスだと自分の気持ちを抑えられなくなったユリヤがアパートから街へ出ると、ユリヤ以外の全ての人もモノも世界全部の時が止まっていて、晴れやかな開放された面持ちで、オスロの街をアイヴィンの働くコーヒーショップ(字幕ではベーカリーってなってたような。でもパン屋ではなくいわゆる街のコーヒーショップでしたね)まで走っていきます。
映画の宣伝ポスターになっているのがそのシーンです。
そんな印象的で多幸感あふれるシーンが、本来であればクライマックスでもいいようなシーンが予告に出てきたので、本編はもっとファンタジーな不思議な味の映画かと期待していたのです。
ところが、実際はあのシーン以外は、割とリアルな映像ばかりでSF設定でもファンタジー設定でもありませんでした。
途中、アイヴィンがキッチンに隠しもっていたマジックマッシュルームで、ユリヤがトリップしてしまうシーンでは現実にはあり得ないユリヤの脳内トリップの映像が出てきますが、変わったシーンはそれくらいです。
これはユリヤという、医学部に入れるほど地頭が良くて、容姿端麗な若い女性が
「自分はいったい何者なのか、他と比べて私には特別な何かをなすことが出来るのか?」
そんな風に一本筋の通った信念を持てないまま、その時々の感情でふわふわと流されて、気がつけば30歳になっていました。
いったいどーすればいいの!?これは私の本当の生活じゃない!
と自分探しを続けるイタイ女性の話でした。
女性の方の感想やレビューでは、分かる!共感できる!というものが多かったようですが、どうしても僕は男性目線でしかこの映画は観れませんでした。
映画の登場人物でいうと2人のパートナー、アクセルとアイヴィンの立場になって、彼らの感情移入して観ていました。
ユリヤがたまに塞ぎ込んだり、何かの拍子に突然キレるシーンが何度か出てくるのですが、その度に
「いったい君は何が不満なんだ?僕は君のことを尊重しているし、君の思うように好きな通りに何をやってもいいんだよ?」
としか思えないんですよね。
基本的に可愛らしくて、普段はとても素敵な女性なんですが、実は自己中でメンヘラでヤバい奴やん。付き合ってしまったのが運の尽き。仕方ない、あきらめよう、な?てな感じで、というのは言い過ぎかな。
確かに女性には、「え?いったいどうした?なんで急に怒りだすん?」というシーンが多かれ少なかれしばしばありますが、それは多分にホルモンの関係や生理的なもの、と割り切って、そういうものだから一々気にしない、さっと流しておこう、と思うところは個人的にもあります。
でもこの映画で描かれるユリヤは、もっと根本的に何らかの原因で、それは子供の頃に両親の離婚により別れた父との関係かもしれません。
どこにいても落ち着かない、何をしてもこれじゃない感がある。自分の納得できる身の置き所を見つけることができない、それは感情的に大人になりきれていないからで、その理由に至るシーンが僕には少し掴みきれないところがあったので、単なるわがままなヤバい女性としてか映らなかったです。
映画では今ひとつ時間感覚が掴みにくかったんですが、ストーリーとしてはどれくらいの年月が経ったんでしょう。
最初のアクセルと出会った頃から、アクセルと別れてアイヴィンと暮らすようになり、そしてアクセルが病に倒れて、最後にはやっと若い頃に目指していた映画のスチール担当ではありますが、カメラで表現すると仕事に就いているシーン。
10年以上は経っているんでしょうか。
だったらユリヤは40歳を超えたあたり。それくらいでやっと穏やかに自分の居場所を見つけられたってことですかね。
少し遅くないか?とも思わなくもないですが。
監督はこの映画で何を描きたかったんだろう?
「The Worst Person in the World」が原題です。
ユリヤはある意味自己中でわがままで自分探しをやめられずに悪あがきを続けていた訳ですが、そこまで「The Worst Person in the World」って訳ではないですよね。
このタイトルに何を意味したかったのだろう?
初見はその辺りまで思いを至すことが出来ませんでした。
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とまぁ、主人公のユリヤに感情移入できない点は、その通りなのですが、全般的には見どころのある映画でした。
スリリングな展開などもなく、割と淡々と1つ1つのエピソードを短く積み重ねていく、ピロローグとエピローグに挟まれた12のエピソードで構成された連続短編小説集のような演出が飽きさせなかった理由かもしれません。
また、映像の1つ1つが美しくて、ハリウッド的な派手さは全くないんですが、とてもシネマチックな映画らしい映画でした。
「北欧」と一括りにしては怒られそうですが、北欧の映画は小品でも独特の感性にあふれた素敵な映画が多い印象です。
また、映画の舞台となる北欧の街並みや人々も美しかったです。
今回の舞台はオスロですね。
僕は北欧はデンマークのコペンハーゲンと橋を渡って国境を超えたスウェーデン南の町マルメと大学町として有名なルンドに行ったことがあるのですが、オスロともよく似たとても美しい街並みだったのを覚えています。
この時の話はまたの機会に思い出して書いてみたいと思います。
ということで、初見のインプレッションを忘れないうちに書き綴ってみました。
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と、ここまでは昨日水曜に帰宅して、ババッと書いた原稿です。
その後、一晩眠って少しだけ考えたことがあったので追記します。
この映画はお国柄や庶民の生活を支える社会制度などの違いも多分にあるかもしれませんが、日本で考えた場合、つまり僕が日本に生まれて日本に住んでいる日本人として考えた場合ということですが、
男性と女性の間には、まだ若干は生活に対する責任感や踏ん切り具合の意識の違い、社会生活へのコミットという言い方でもいいのかもしれないですが、そういうものがあるんではないかな、というのがありました。
もちろん、これは昭和生まれで平成時代に社会人真っ只中だった僕の世代と、その後の世代では、性別を超えても違った印象を持つかもしれません。
一晩眠って思ったのは、坂本裕二さん原作の「花束みたいな恋をした」でした。
学生時代には趣味のサブカルで意気投合して付き合いはじめてやがて同棲する二人ですが、学生から就職活動を経て社会人になる麦は、だんだんと
「学生時代とは違う自分にならないと。大人の男である自分はちゃんと経済的に自立して、愛する女性を守らないといけない。やがて子供もできるだろう、そうなったら自分が家族を守っていくんだ」
という昔ながらの大黒柱的男性像=呪縛に捉われていきます。
それは地方出身の普通の家庭に生まれ育った麦の育ちからくるものもあります。
かたや、女性である絹は、裕福な実家で不自由なく育った出自もあって、
「大人になったとしても、普通に暮らしていくためのお金なんてどうにかなる。それよりも、いつまでも自分の感性を信じてやりたいことを好きなようにすることが大事」
と考えます。
そのすれ違いがどんどんと大きくなってきて、やがて二人を別の道を歩んでいこうと決意させることになる訳ですが。
この麦とユリヤは同じなのではないだろうか?と思ったわけです。
それは、根源的に男性と女性の社会へのコミット感の違いであって、
それを「わたしは最悪。」では、あくまでもユリヤ視点で描いていった映画であったので、男性としての僕からは、共感どころか違和感しかなかったんだと思いました。
もう少し、アクセルやアイヴィン側からのエピソードもあればよかったですが(アイヴィンについては若干あったかな?)、これだと2時間ではとても尺が足りなかったでしょうね。
それにしても、もう一度予告編を見直してみても、ユリヤ役のレナーテ・レインスベさんは素敵な女優さんでしたね。
この映画が初主演だということで、これから他の映画にも出てこられるのが楽しみです。
皆さんの感想も読んでみたいです。
それでは!
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