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Apple TV+のドラマ「フォー・オール・マンカインド」は過去の偏見・差別を「もしも」世界でひっくり返してくれる名作ドラマだ

今さらだが、Apple TV+オリジナルドラマ「フォー・オール・マンカインド」を観始めた。

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ちなみにApple TV+はApple社が運営する動画配信サービス。
AmazonプライムビデオやNetflixと比べると、コンテンツ配信本数の少なさ、ユーザーインターフェースの分かりにくさ、宣伝の少なさ、など色んな理由もあいまって地味さは否めない。
だけど、なかなかどうしてAppleオリジナルのドラマは質が高く、丁寧に作ってありどれを観ても面白いと思う。

また、Apple製品を購入すると1年間のサブスクが無料で提供されるので、それをきっかけに加入してみる人も多いのではないだろうか。
逆に言うと、Appleユーザ以外には全くアプローチ出来ていないという言い方もできるが、日本はiPhoneユーザがまだまだ多いので、もっと話題になってもいいのにな、とは思う。

僕も最初はMacbook Pro 16インチをマシン入れ替えで購入した時に、Apple TV+も本格ラウンチするタイミングで会員になった。
1年間無料の時には、コンテンツも少なくてほとんど利用していなかったが、無料期間が終わる少し前からドラマシリーズ「ザ・モーニングショー」にはまってしまい有料サブスク会員になった。
その後、Apple OneというAppleサービスをまとめてお安くなるサブスクプランが出た。
Apple Arcade以外のApple Music、iCloud追加ストレージも使っていたのでまとめて加入して今に至る。

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「フォー・オール・マンカインド」である。
何のきっかけかは記憶にないのだけど、面白いそうだよと息子に教えてもらい、だったら見てみようかとなった。

「フォー・オール・マンカインド」(原題:For All Mankind)は2019年11月からApple TV+のローンチタイトルとして配信開始された気合いの入ったドラマの1本だ。
1シーズン10話で、現在シーズン3までが配信されており、すでにシーズン4の制作も発表されている。

シーズン1 EP6まで観終わったところなので、まだまだ序盤。
いわゆる「もしも」設定のSFドラマだが、その「もしも」の設定がユニークだ。
EP1冒頭、時代は1969年。
全米の、そして世界中のテレビでは人類初の月面着陸の中継がされていて、全人類が固唾を呑んでその様子を見守っている。
ところが、僕の知っている様子と少し違う。
世界でテレビを見つめる姿は「わくわく・ドキドキ」の眼差しで見守っているのだが、米国民のテレビを見つめる表情はどことなく暗い。
無事に月に着陸するのだろうか?そんな心配顔で見つめる様子とも違う。
むしろ苦々しい表情を浮かべている。
それもそのはず、このドラマでは
「もしも人類初の月面着陸を成功させたのがソビエト連邦だったら」
という設定だからだ。

僕は予告編も何も全く事前情報は入れずに観始めたので、いきなり驚いた。
そうきたか!
当時は、アメリカとソビエトは冷戦時代で、代理戦争をするかのように宇宙探索に向けたロケット開発をそれこそ国の威信をかけてやっていた。

このドラマでは、いわゆる月面探査・宇宙開発SFにありがちな方向へ話が進むのではなく、あくまでもNASAのプロジェクトメンバーの家庭環境まで踏み込む人間ドラマとして描かれる。
また宇宙ロケット開発プロジェクトは、限りなく政治的な意向で進められるものだということも描いていく。
そういう意味では、他の宇宙ロケット開発モノや過去のアポロ計画を題材にしたドラマや映画より地味ではあるが、登場人物キャラクタそれぞれについても細かく性格描写をされていくため、誰かしらには感情移入しやすいようになっている。

EP1からEP2、EP3、と気がついたら週末だけであっという間にEP6まで観てしまった。
それくらいグイグイとドラマに没入させてくれる。

EP3に入ってからドラマは一気に「もう1つのあったかもしれない月面探査プロジェクト」に向けて舵を切る。
ソビエトは人類初の月面着陸をアメリカから奪っただけでなく、
「女性初の月面着陸」まで成功させたからだ。
ニクソン大統領は、アメリカとしても女性宇宙飛行士を早急に養成して必ず月面に立たせるようにと厳命する。
ただし、当時は時代背景としては女性がバリバリと男性と同じように働く環境ではなく、ましてや軍隊出身者が多いNASAの宇宙飛行士の世界では考えられないような時代だった。

そしてEP4では、選抜されたメンバーからモリー・コッブがアメリカ人最初で月面着陸した女性宇宙飛行士として描かれるが、実はこれにはモデルがいる。
ジェリー・コッブという女性飛行機操縦士だ。
彼女は、マーキュリー13という1960年代にアメリカ合衆国において宇宙飛行士候補となるために訓練を行った13人の女性の1人に選ばれている。
しかし、この女性宇宙飛行士養成のプロジェクトは非公式のものであったため、ジェリー・コッブは女性宇宙飛行士にはなれなかった。
当時のNASAの宇宙飛行士プログラムへの参加条件が、
「軍のテストパイロットで、軍の高速テスト飛行の経験がある」であり、しかも、当時の軍のテストパイロットから女性は事実上除外されていた、という厳しい男女格差があったからだ。

そういう時代背景による苦い過去は、この「もしも」の世界では、
女性だって能力さえあれば男性と同じように宇宙飛行士にもなれるし、月面にも立てる、ということを描いている。
ジェリー・コッブをはじめとした女性達のどうやっても覆せない差別の壁を、このドラマ世界では軽やかにひっくり返してくれ、それが観ていて感動的だ。

同様にEP6からは、LGBTに関する差別についても描こうとしている。
1977年には、サンフランシスコ市で初の同性愛者を公言する政治家になったハーヴェイ・ミルクが出てくるのは1977年である。
EP6当時1970年代初頭では、NASAに限らず同性愛者であり、犯罪をしでかす危険人物として扱われるような時代である。
おそらくこの先、エピソードが進むにつれてこの「もしも」の世界ではLGBT問題についても乗り越えてくれるのだろうと期待している。

そんな「もしも」を逆手にとって、現在の視点からは時代背景が生んだあり得ない差別といえる事象を歴史改ざんしてくれる。
おそらくシーズン2、3と進むにつれて、現在を追い越して宇宙開発が現状を追い越すSF度を高めていくのだろうけど、シーズン1で見られる社会への理不尽を正す視点をどのように組み込んでいくのかについても期待したい。


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