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「いまどき」を探しに (短編作品)


雑誌『ムーベント』は、新たなる才能を求めている。出版不況を打開すべく、なんとしても希望の光を見つけないといけない。編集者の僕は、今日も必死こいて頑張っているのだが・・・
 『お前は、古臭い!もっと『いまどき』さを大事にしろ!!もっと、『いまどき』を持ってこい!!!』
リーゼントヘアの編集長に今日も一喝された。編集長の髪型は「いまどき」ではないのになぁと思っていた。
 しかし、僕にだって、プライドはある。それは、対抗心に変わる。
お言葉ですが、「いまどき」なんて、すぐさま消えてなくなります。
手っ取り早く稼ごうとするやり方に、僕も読者も嫌気がさしているはずです!似たり寄ったりの企画は通したくないのです!僕は、後世にも残るような発信をしたい!
この馬鹿たれ リーゼント!!
とは言わなかった。
 言わない代わりに、脱兎の勢いで 「今時、探し行ってきまぁーす!」と豪語して飛び出した!もちろん、行く当てはないし、企画を探す気力もない。
取り敢えず、その辺の喫茶店に入ることにした。コーヒーを注文し、ミルクと砂糖を入れ、くるくるし、さぁ、飲もうと顔を上げたそのとき、ある男が目に止まった。
その男は、いまどき作務衣を着こなしており、目は炯々としている。小柄であるが体つきはスッキリと無駄がなく、背筋はシャンと真っ直ぐ伸びている。私と同じくいまどきではない男がここに!
私は歓喜し、その男をもっと知りたいという衝動に駆られた。
 その男は、パソコンを前に熟考し、キーボードを叩いている。やたらとキーを叩くのではなく、至極慎重に言葉を選んでいる。その姿が様になっていた。きっと物書きに違いない!そう感じた。
 翌日も翌々日も、同じ時間に、同じ席に着座し、作業をしている。そして、同じ時間に颯爽と帰宅する。間違えない!この拘りと規則正しさ!作家に違いない。きっといい書き手になってくれるに違いない!そう、確信した。
 翌日、勇気を振り絞り、その男に声を掛けた。
「あの、お忙しいところ恐れ入ります!い、いつも、き、気になっており、遠くから、見ておりました。あっ、もちろん監視とかじゃないですよ!もちろん! あ、あの失礼ではなければ、いつも な、なにをお書きになっていらっしゃるんですか?」
男は、キリッとした表情を一気に、にゃらりの歪ませてこう答えた。
「あぁ〜 あのですねぇ アイドルのモモたんがゲーム実況をしているのを応援しているんですよぉ〜」

あっ いまどきだった。

脱兎の勢い・・・逃げるうさぎのように素早いこと
炯々   ・・・目などが鋭くひかるさまのこと

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