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猫が私にくれたもの。


私は猫が好きだ。あのほにゃほにゃな手も、丸いシルエットも、呼んでもこない気まぐれなところも。全部全部、大好きだ。


実はこの子と一緒に暮らすまでは「そう言えば猫とかいう可愛らしい生き物がいるらしいな。」というくらいの好き度だった。ペットショップに行っても、犬やカメやウサギばかり見ていた、なのに。


私は母親と上手く関係が構築できず、半ば無理矢理に同意書を書いてもらい、一人暮らしをしていた。そんな我が家は、息のしやすい、安全で孤独な城だった。自分で手に入れた初めての城だった。でも時々、実家の喧騒や誰かの気配に憧れて家に帰らず顔見知りのBARで飲み明かす時もあった。そんなある日、母親から突然

「猫、かいはじめました。ロシアンブルーです。」

と写真が送られてきた。そこには濃いグレーで水色の目をした生き物が写っていた。なんだこの生き物は。突然のことに戸惑っていると、母親から

「もう1匹同じ種類の猫がいます。もうちょっとで生まれるみたいです。どうですか、見てみますか。」

と言われた。知人の猫好きの方から話があり、引き取ることにしたようだった。たまたま私の住んでいるマンションが猫OKなところだったので、私はその猫が実家に来るタイミングで一度会ってみようと、約1年ぶりに実家に帰ってきた。大学四年生の、国家試験を控えた冬だった。


そこにいたのは、ロシアンブルーなのに、薄いグレーで目が黄色の子猫だった。検索して、ロシアンブルーの色や性格を見ていたが、まるで違っていた。大人しいとは書いてあったが、気がすごく弱くて、大きな部屋の端っこでずっと小さく鳴いていた。


その姿を見てすぐに、うちに連れ帰ることに決めた。端っこでブルブル震えながら鳴く姿は、大人や周りの環境に馴染めない昔の私に見えた。


私は、昔の自分に似た弱くて甘ったれな猫を私のお城に招待したのだ。ここなら安全で、いくら泣いても怒られないし、好きなものを壊されたり捨てられたりしない。


飼育に必要なものは帰り道にあるペットショップで全て買い揃えた。遠くに犬やカメやウサギがいたのが見えたが、必要なものを買うのに必死で何も見る時間なんかなかった。こんなものも使うかもしれない、これは喜ぶかもしれないと、おもちゃやおやつを買い漁った。どんな反応をするのか知りたくて胸が高鳴り、何回もキャリーバックを覗き込んだ。そうして、ある日突然、私はとんでもなく素晴らしい宝物を手に入れたのだ。


辛い時や苦しい気持ちになった時、私は猫を触る。このほにゃほにゃな生物は何も言わない。その代わりに、好きなものや嫌いなものに素直に反応する。それが私を酷く安心させる。


この世には二面性がある。建前と本音。私は相手の裏側の気持ちに敏感で、ビクビクしてしまうところがある。何故かはわからないけど、いろいろなことがそういう癖に繋がったんだろう。なので、人と喋ることが多いと酷く疲れてしまう。


そんなときに思い出すのだ。


家に帰ると、自分に正直なほにゃほにゃの生き物がいる。好きなものは尻尾を振って喜ぶが、嫌いなことや面倒臭いと感じたら動かない頑固者。


それはかつての私だ。頑張って喋らないと仲間外れにされるという考えや、協調性がないと人として、看護師としてダメなんだと思い込み、無難さや周りに合わせることを覚える前の。


猫は私に、愛を教えてくれた。個性として、他者とは違う自分を愛することを、そしてありのままの生き方を。


母親からまた連絡が来る。猫の写真を撮って送るのが、彼女にとって今一番楽しい事らしい。



私は猫が好きだ。そして私のことも同じように好きになれればと思う。いつか。


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