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また好きでもない男と寝ようとしていた

菜の花

また好きでもない男と寝ようとしていた
あたしはときどき子供に返る
離婚して小さな娘をひとりで育てているという男が
「手」
と言って出させた娘の手を握り
眠る夜があると聞いたとき
ときどき子供に返りながらも
やはり大人の女であるあたしはこの男に
どんなふうに抱かれるのだろうと想像した

近所のどぶ川のふちに菜の花が群生している
丈は二メートルを超えるだろうか
雨が降るとどぶ川は
白濁した緑の水嵩を増し
ゴミの入ったスーパーの袋や空き缶に覆いかぶさる
雨の日
どぶ川の土手を散歩するのがあたしは好きだった
やけに白く明るい空が暮れてゆく

夜になると菜の花は
ずっとむこうまで
星のように浮かんだ
あたしはこれを男に見せたかった
預けてきた娘が男は気になっている
男を連れ出してあたしは言う
「ねえ、ここすごくない?」
「すごくないか、べつに」
そんなふうに小さなあきらめは始まるのかもしれない
あるいは男はひとりで帰る道の途中
この群生に目を留めるのかもしれなかった

  そういえば幼いころ
  家の隣りの空き地一面に
  レンゲソウや白つめ草が生い茂っていた
  小学校から帰って来て午後いっぱいを
  花かんむりゃブレスレットを作って遊んだ
  学校からの帰り道
  その日は辺りが一斉にキラキラしていた

目の前に男が立ちはだかった
あたしは菜の花を見せるのは
昼でも夜でもいいと思っていたけど
ここは真っ暗で何も見えない
何か言わなくては
とにかく目を見なくては
あたしは初めて男が怖いと思った


 またまたわたしの第一詩集『汚れた部屋』より、「菜の花」という詩でした。
この詩を書いたのはわたしが三十代の半ばごろだったのですが、ある先輩詩人に
「この『あたし』って、なんだかんだ言って『男』と関わろうとしてないよね」
と言われたことがあります。自分でも思いがけなく、わたしの未熟な恋愛の仕方がバレてしまった瞬間でした^^;;

 自分がこの男に惹かれ始めている、という自覚もないし、自覚もないまま体の関係を持とうとしている。会話による恋愛のコミュニケーションの仕方をよく知らないのかなあ。自分自身とも上手くコミュニケートできてないんだから、まあ、しょうがないですよね、、、

 この詩は、事実を書いたわけではなく、想像で書いたものなのですが、それでも自分の書くものにはやっぱり自分がどうしようもなく出てしまうんだなあと思い知らされた瞬間でした。恥ずかしかったなぁ、、、

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