鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑥
人間が生きていく上で衣食住の3つが整っていてこそ安心して人間らしい生活が送れるのだと思うが、わたしは年頃になってから洋服ならず下着すらも充分に買ってもらえなかった。思春期にはかなりキツいことである。
少ない数の下着でやりくりしているため、洗濯のルーティンがうまくいかず、朝から手洗いしてドライヤーで乾かした生乾きの下着を身につけることだってしょっちゅうで、
気持ち悪い上に朝時間もないのだからイライラしたものだった。
おまけに姉と妹も同じありさまで、イライラをぶつけ合いながら一つのドライヤーを取り合いしなければならない。
「早くして!遅刻するんだけど」
「ちょっと待ってよ。仕方ないでしょう」
なんて、心温まるやりとりが日課なのである。村上春樹の『ノルウェイの森』に同じような話がある。ヒロインのナオコが生乾きのブラジャーをつける悲しさと貧しさに怒るのだ。
わたしの高校二年生の体育祭の日の思い出は悲惨なものだった。
何度も着古して生地が薄くなったパンツを履いていたため、体育祭当日、トイレで屈んだ瞬間破れてしまったのだ。ビリ、という無慈悲な音。数拍置いて状況を理解したわたしに絶望感がじわじわ這い寄ってくる。
この後のクラス対抗綱引きはどうしようと逡巡したが、こんな有様で踏ん張れる訳がないとすぐに諦めて破れたパンツを引っ張って結びつけ、その日はそそくさと帰宅した。
クラスのギャルが凄く怒っていたのを後になって知った。
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