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[AOF]第九話 ミッション⑦~住民投票第十話 ミッション外行動・愛の告白


第九話 ミッション⑦~住民投票


 住民投票はシュナイダーを使って行われることになっている。
 住民の要望を集める作業や、いつまでもトールがこの集団の中心、仮に市長と名乗ることにして良いかどうか。選挙をすることになった。
 それと合わせて住民の要望を集めることになった。
 シュナイダーに相談すると全員で考えられるようになっている。要望は次のようなものが多かった。

・生活の安定 衣食住やインフラを整えたい。

・テント暮らしはもう嫌だ。家が欲しい。

・噂に聞いた日本国の村に住みたい。

・男性二十人、女性八十人の人口の割合いで女性が多い作業現場では妊娠した人が多い。早く作業員の増員を母船に望んでいる。

 ここまでは、主に住民が思っていることだ。これを母船に伝えたところ、二百人ずつ、この星で一週間に三回、降りることが確定した。つまり六百人の増員で食料も彼らが一か月食べられるだけの食料の支援も行われる。また建築資材は基本的に現地調達が必要だが、組み立てるための工具やシュナイダー用の重機ロードローラーやチェーンソーユニット、航空機など今度の移住は大規模に行われることになった。また懸念材料にあった未成年の子供達を受け入れること、学校や保育園の設置も目標にある。

 集団の代表の件はどうしたものだろうと、トールは思った。評議員会にも今回ばかりはエル、ジャック、レイの三名が生きていることも伝わるだろう。六百人もいれば、内通者がいても止められないだろう。

 マークの秘匿回線でもう一度アベル・コンキスタ議員に連絡をした。

「また非通知の電話か・・・ということはトール君かな。」

「すみません。相談したいことがあるのです。今は百人の自治体ではあるのですが・・・人数が増えて来るとずっと僕が代表でいるのもどうかと思うので今回の規模の移住が出来たら段々自分が代表でいていいのだろうかと思うところが出てきてしまって。」

 トールはそう言った全体を束ねるカリスマ性を持って改革を進めて来たアベル・コンキスタになら自分がどうすべきなのか教えてくれるかもしれないと思って電話した。

「君の心持など知らん。別に君たち開拓団はもうこの自治体の一部から独立した集団だと思って欲しい。だから、自分たちで何もかも決めるんだ。法律も含めてだ。なるべくたくさんの人々を君のいる星に降ろす。目標は三万人だ。こちらも支援を惜しまずしたいが、考えてみてくれ、君たちに人的支援をすればするほど保守派の方が、人口が増えてしまうからな。だからどうしても全員を降ろすことはできないだろう。だから三万人が目標だ。残りの四万人はこの宇宙船もろとも死ぬことになるだろう。そのころになると大部分のこの宇宙船を保守しているエンジニアたちはほとんどいなくなる計算だからな。」

 アベルはため息をついた。トールは義父となったアベルもまたそういう苦労をしているのだということを思うとため息をつきたくなる気持ちも分かった。

「プラスに考えようか。トール君、私の愛娘エルは元気かね?」
「ええ。元気にしております。」
「孫の顔も早く見せろよな。」
 トールは何故かアベルから肩を殴られたような気がした。
「私の娘が妻なのだから君は権力者でいていい。あとアリス・サーガッソーとは会ったか?」
 なぜここでアリスが出て来るんだろうとトールが疑問に思っているとアベルが言った。
「あの娘は君の参謀にしなさい賢いから。そしてちゃんとしなさい。」
「どういうことですか?」
 トールが疑問をぶつけるとアベルは、こう言った。

「あの娘の代わりにエルが先に行くことになった。あの娘もおそらく言ったと思うけれど、君のそれこそ前世からの運命の相手はあの娘だ。君には悪いことをした。」
 とても言いづらそうにアベルはそう言った。
「確かに、でも先に結婚したのはエルさんです。エルさんを愛しています。アリスさんを受け入れて良いのですか?」
「いいよ。むしろ降ろした人々は男性一人あたりに大体妻が最低でも二人、平均三人~五人はいるからな。逆に妻を複数持てない男は世間から浮くぞ。」
 こうして色々なアドバイスを義父から受けた。父親も母親もトールにはいないが、アベルを父親のようにトールは感じた。

 ☆☆☆

 住民投票で問うことを決めて、シュナイダーで住民投票を行った。

 トール・バミューダを代表(市長)として信任するか 賛成・反対

 日本国と取引をするか 賛成・反対

 元の自治体から独立するか 賛成・反対

 住民、個々人に状況を説明しつつ色々な要望や不満なことをトールは一人一人に聞いて回った。この自治体の代表に関して立候補がなかったから信任するかどうかを問う内容とした。日本国との取引に関しては、家を建てるための建材として木が欲しいと言う事情があるため、相手の貨幣を使った取引、自分の持っている自治体通貨を作るかどうかが日本国と取引するかどうかの付帯条件となっている。賛成の場合は相手の通貨を利用しつつ、新たに自分たちの通貨も作り色々取引をすることにするということが含まれている。

 元の自治体から独立するかどうか。これの付帯条件は、文字通り支援は元の自治体に要請するが、こちらですべきことはこちらの判断で実行するということと、法律などでも犯罪の取り締まりなどは同じように行うが、そのあたりのことについても独立するということを認めるかどうかそういった内容の住民投票だ。


 

投票の結果。


 全員一致で、全部賛成で決まった。

 これを全員に連絡が行き届くようトールとエル、アリスは説明してまわり、全員の理解が得られた。また、新しい住民がたくさんくれば状況も変わるが、この星では身を守るという意味も踏まえてとにかく家を建てなければならなかった。そのためには木材が必要になる。

 ☆☆☆

  ゲルグとその仲間たちは日本国で働いてここでやって行くのも悪くないと思っていた。

 一応皆に黙っているがいくらか稼げている。

 森林の伐採と、開墾に日本国では需要があった。何故かこの戦闘部隊のシュナイダーは標準アイテムとして大型チェーンソーがついていた。そして、シュナイダーの足は歩き方を変えるだけで畑を耕すことができた。レーザー砲も武装としてついてはいるが。シュナイダーは便利過ぎた。

 一ヘクタールあたり、一千万円も日本国は払った。

 家は一件あたり三千万円、日本人に払うと日本人が作ってくれる。

 お互いかなりウィンウィンな関係をゲルグたちは作っていた。

 なぎ倒した木材は無料でくれるということだったので、これは本来属している自治体に送ることを計画している。現行のシュナイダーでは持ち運べないが、重機も届くことになっているし大丈夫だろうとゲルグらはすでに日本国で楽しく働いていた。

☆彡

第十話 ミッション外行動・愛の告白

 
トールは遺跡の最奥の指令室にエルとアリスを呼んだ。

「あの、もう重要案件だった。住民投票も済んだところでこれからも忙しくなると思う。」

 トールはそう話を切り出した。
「まどろっこしいです。何が言いたいんですか?」
 エルがアリスをちらっと見てからそう言った。
「え、本当に何の話ですか? 因みに例の件、私とトールさんが一緒になりたい件ならもうエルさんと話して置きました。ねえ。エルさん。」
 アリスは若干エルのことが嫌いなようだ。
「トールさん。前回の補給部隊でお相手はいないって言っていたじゃないですか。でもいたんですね。なら、トールさんがアリスさんを紹介するのが筋でしょう。皆が来てから何日経っていると思っているんですか。」

 これはトールが袋叩きに遭うパターンだと思った。

「いいですよ。私はアリスさん気に入ってますよ。妹のように思ってます。」
「話が早いな。アリスも妻にします。エルさん、良いですか?」

 エルは今までのことを鑑みて思うところがあった。最初会った時、彼は卑屈でつまらないし、自分の事を虐めてくるいじめっ子・・・じゃないパワハラ野郎だった。
 しかし、この星に来てから苦労を共にし、開拓の苦労も分かったし、彼は開拓になるべく行きたくないんだろうと思った。しかしアグリッパからの刺客を味方にするようなファインセーブをしてくれた。
 エルはトールに逆らえないなと思っている。この先、アリスが間に入ってくると思うと、駄目だ。やっぱりトールとアリスに嫉妬してしまうだろう。

「その言い方は嫌。ちゃんと二人いるんだからそれぞれにしっかり愛の告白してください。」
 エルは少し怒りながらそう言った。

「私も嫌。だって納得できない。この前聞いたじゃないですか? エルさんの魅力は私よりおっぱいが大きいだけですかって。エルさんの好きなところを百個挙げてください。って言ったら無理って言ったじゃないですか。私とエルさんは相容れないんです。私があなたの運命の相手だと言うのに。」  
 アリスもそう言って怒っている。

「分かった。じゃあ一人ずつ言います。まずエルさん。」
 トールはそう言ってから少し息を吸い込んだ。エルはちょっと何を言うのだろうかと身構えた。

「俺一人ではこの星のみんなをまとめるなんてできなかった。それにまず死んでいた。それはきっとお互い様だと思う。開拓に行きたくないからって開発公社時代、エルさんは市役所の産業建設課の時、つっかかりまくって正直パワハラだったと思う。それも我慢して率先してこの星に俺と来てくれた。俺の人生はいつも失敗の繰り返しで死んだり生きたりを繰り返して来た。それが終わるのはエルさんとアベルさんのおかげだ。俺には両親がいないから最近、アベルさんはまるで父親のように思う。そのアベルさんの娘でエルさんはプレッシャーもあったかも知れない。けれど一緒に苦労して来た。そんなエルさんが俺は好きなんだ。言い換えたら愛しているってことだよ。」

「くどい。」エルは一言そう言った。表情は見えない。隠している。

「じゃあ次はアリスさん。多分アリスさんが最初からパートナーだったら冷静な判断が却ってできなかったかもしれない。だって一目でもう好きだもの。可愛いんだもの。一目ぼれだもの。俺の遺伝子は君を愛するように記録されているというそういうことだろう。俺は、気が狂うように君が好きだ。」

「あ~。おっぱいじゃなかったんだ。」
 アリスは顔を背けた。やっぱり表情は見えない。
「もういいね。アリスさん。」
 エルはアリスにそう言った。
「そうですね。私も満足しました。」
 アリスもそう答えた。

「若いっていいっすね。」
 マークが部屋の奥から顔を出した。



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