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[AOF]第八話 ミッション⑥~お引越し

第八話 ミッション⑥~お引越し


 トールとエルはエルの偽装葬儀後。結婚式をすることになった。

 本国への中継でエルと、ジャックの葬儀が中継することになった。

 エルは右目に当たった弾丸が頭を貫通したという設定で目を眼帯で隠し棺に入れられた様子と、ジャックは心臓を撃ち抜かれたという設定で、死んだということで棺に入れられた。エルの花嫁姿が見たいと言っていたアベル・コンキスタのためエルは花嫁姿で仰向けに棺に納めらた。ジャックは戦闘服の胸に赤い血糊を塗った状態で棺に納められた。
 レイもまた戦闘服で同じく胸を撃たれた設定で胸に血糊が塗られている状態で棺に納められた。

 葬儀を中継したので母船ではもうエルもジャックもレイも死んだということがはっきりと母船には伝わった。
 中継が終わり、眼帯を外してエルは起き上がった。
 ジャックとレイも起き上がった。

「ジャック・バーヤー大佐!」

 レイ・カーターはすぐにジャックに声をかけた。
「我々の部隊、家族のためにありがとうございました!」
「いや。お礼を言う相手はトール・バミューダだろう。俺たちの仕事は全てこの自治体のため『NLA(ニューロサンゼルス)』のためにあるんだ。俺もまさかこんな事態の収拾の仕方があるとは思わなかったぞ。いや、思いついたとして実行に移したかどうかは分からん。でも、トールの熱意に押されたな。あいつは俺の中では大統領だ。大統領って呼びたい。」ジャック・バーヤーはよかったなと言わんばかりに親指を立てた。

「我々はあなたの部隊が母船内でも活動していると聞いたから、作戦を決行できたと思います。トール・バミューダに同じような作戦を思いつかせようと心理的に誘導しようとしましたが、彼は自力で作戦を思いついてくれた。よかった。」

 レイの中でジャックとトールには足を向けて眠れないと思った。


 ☆☆☆

 偽装葬儀とエルとトールの結婚披露宴の翌日。日本国の生き残りへと向かったゲルグからジャック・バーヤーとトールに連絡があった。

『この星は森にすむ方が良いかも知れない。巨大な蟻が砂漠を支配しているらしい。』

「その情報はだれから?」

 トールはゲルグからの通信に答えた。今はジャックとゲルグとトールが会議している。

『この村の長老っぽい人から聞いた。およそ十年前にここに来たらしい。あの赤蟻は脱皮した後の抜け殻らしい。黒い巨大蟻が砂漠の支配者というものらしい。千匹単位で移動していると聞いている。この大陸北側の日本国の連中によると、その地域は毒草に囲まれているため虫などが少ないらしい。』

ゲルグはそういった情報を得たことを話した。

「詳しいことは農耕部隊代表や、エンジニアチームも交えて話し合った方が良いだろう。」

 ジャックは冷静にそう答えた。

「そのとおりだな。ジャック。どこにそいつらがいるか探そう。何ならシュナイダーのレーザーキャノンで絶滅させてしまおう。」

「いや、トール。それをしてしまった場合だと、生態系のバランスが崩れるだろう。どんな影響があるか分からんから、そういったことは慎重にすべきだ。襲ってくる群れがあれば危ないからその場合は殺してしまおう。しかし、もしかしたら日本国の連中は我々の労働力に期待しているだけかもしれない。引っ越しを促しているようだと、俺は感じる。」

 ジャックは冷静にそう言った。さすが諜報部隊員。考えることが一段階上だとトールは思った。因みに部隊長は彼の部下が表向きには付いた。

 死んだことになっているから彼は影の部隊長だ。
「引っ越しとなると、今、ハウスや畑で育てているものを一旦放棄するかそちらへ持っていく必要があるからな。ミッチェンと相談していかないといけない。マークのエンジニアチームのドローンを使った空撮でもその蟻のいる場所が分かるかもしれない。」

 トールは引っ越しを選ぶか定住した方が良いのか、迷っている。
 その赤蟻が脱皮して生まれた一回り大きいであろう黒蟻対策をしなければならない。

「ミッチェン。話があるんだが今良いか。」
 トールはミッチェンに声をかけた。かなり深刻な話ではある。
「今行くんで、入り口付近で待ってください。」
 ここは苗や農作物を作っているハウスだ。
 今、全員に食料が行き渡っているのはこのハウス栽培を運営しているミッチェンのおかげだった。
 ミッチェンは前に会った時より太っている? いや妊娠しているようだ。「ミッチェンこんな時に悪いんだけれど、あの赤蟻は脱皮して一回り大きい黒蟻がどこかを闊歩しているため、砂漠でこういった栽培を続けるのは・・・ちょっと厳しいかもしれない。」
 ああこれだけは言いたくないな。トールはそう思いつつも言った。

「森に日本国の百人がいることは知っているよな。」
「ああ、そこに引っ越すんですか?」

 ミッチェンはトールが言おうとしていることを遮ってそう言った。

「私・・・ちょっと妊娠してしまっているので代役にアリス・サーガッソーを充てますので、そちらと話をしてやってください。私は引っ越しもやぶさかではないんで。土壌の調査だったり、水源だったり皆が快適な環境なら。皆がここを捨てても良いと言えば良いと思いますよ。ただ、砂漠に着陸するのは私が言うことでもないかも知れませんが、仕方ないと思います。砂が柔らかいからクッション性高いですし。」

 ミッチェンのしゃべり方が今までのギャルっぽさが無くなっている。やっぱり、せっかく作った農地やハウスを放棄したり解体することが、本当は嫌なのだろうな。と、トールは察した。ミッチェンの妊娠について、やっぱりなと思うところがあった。この星は地球の二倍一日が長い。だからこの星の時間軸で見たらだいたい半年後にベビーブームが来ることが予想される。早く医療要員や保育要員が必要だし、時間がたつほど自分たちの世代とベビーブームで生まれて来る子供たちと将来的に間が空くと労働力にムラができてしまう。だから子供も受け入れなくてはならない。

 保育園なども作らなければならない。

 一日にたくさんの子供がまとまって生まれて来るかもしれないから医療関係者もたくさん必要だ。医療関係者はこの自治体では全員医者と同じ処置ができるよう訓練されている。

 トールはそう考えた。
 あ~。自分はいつまでこの自治体の移住部隊の隊長を勤めなければならないんだろう。

 

選択が重い。


 トールは遺跡の奥で作業しているマークに会いに行った。
「やあ、マーク、元気にしているか?」

 トールが何気なく声をかけると「いや~ぼちぼちですよ。」という反応が返って来た。

「開発部隊はどういう方針で何を作っているんだ。」

 もちろん開拓に必要そうなものを作っていることは分かるが、具体的に何をしているのか聞いていなかった。

「主に、無人機を使った周辺探査と通信アンテナの設置工事、特にここと日本国の人々との会話がしやすいよう整備しています。あと、ハルを中心としたメンバーで改良型シュナイダーGの設計開発をしています。」

「Gってなんだ?」

「Gはもちろん決まっているでしょう。シュナイダーの足回りはそのままに上半身の人型ロボットを作って、Gにするんですよ。そうすれば細かい作業をシュナイダーのAIにある程度まかせられるようにできます。あと資材、主に鉄が欲しいところですね。鉄工所、シュナイダーの製造工場や野菜工場、様々なところで機械化するための機械を作ることが我々エンジニア部隊の現在の目標です。」

 何だかキラキラしているな、と、マークは元気に話すのでトールはそう思った。
「ちょっと困っていることがあるんだが、聞いてくれるか?」
「ええ? それ何時間もかかる話ですか?」
 マークはマークで忙しいようだ。いつも雑用みたいな仕事を押し付けてしまい申し訳ない。
「日本国の人々との会話で掴んだ情報なのだけれど、ここに来た時、周辺に動かない赤蟻のオブジェのようなものがあったことを覚えていると思うが、あれは脱皮した後、巨大な黒蟻になって砂漠を闊歩しているとの話だ。日本国の人々が森を住処とできているのは森が毒草でできているため、襲われないという話なんだ。我々はそっちに移り住んだ方がいいか。どうか。そういうところで悩んでいる。」
 トールは悩んでいることをマークに話した。その方がいいと思った。

「物事を決めるのに何でも一人で背負い込む必要はないんじゃないの?」
 そう声をかけて来たのはエルだった。
 マークが間に入って状況を推理して次のように述べる。
「しかし、毒草を避ける性質があるとするとあいつらの主食は草なんじゃないですかね。でも、あんな巨大昆虫、重力が地球より若干重い星で昆虫がそこまででかくなるとは、知識が浅くて申し訳ないんですがないんじゃないかと。やっぱあれはロボットだったんじゃないかと思わなくもないんですよね。今、このエンジニア部隊のサブリーダーのニック・カーンが調査に当たっています。」
「もし、遭遇したとして一番恐ろしいのは人間が食われること。今、百人は入れる遺跡があるから避難できるけれど、人が増えればこの遺跡に人が収まり切れなくなってしまうかも知れない。あと踏みつぶされないことだな。」

 トールは一生懸命考えながらそう言った。

「今栽培しているエイリアンみたいな肉と野菜を同時に食べられる食用生物も、もし寄生生物だとしたら、この砂漠の生態ピラミッドの頂点のその黒蟻に本来は寄生するのかも知れない。いずれにせよ、この星は分からないことばかりっすよ。」

 ミッチェンもこのモニタールームに来てそう言った。
「食物の育成は順調なのか?」
 ジャック・バーヤーがどこからか入って来た。
「順調です。潅水設備も整っているし、本当はここから離れたくないですね。」
 ミッチェンが連れて来たアリスがそう言った。
 アリスは線が細く小柄で、色白で少し幼い雰囲気もある。プラチナブロンドの髪などは若干エルと似ている。この星の開拓は当初十八才以上の成人で行われることになっていたが未成年?・・・ではないだろうが可愛い・・・。トールはそう思った。

「ここより環境が良いかどうか、あるいは協力関係をうまく結ぶことができるかどうか。私とトールさんとジャックさんで日本国へ行きませんか?」

 アリスがそう言った。

「私も護衛として連れて行ってください。」

 レイ・カーターが話に入って来た。

「じゃあ、明日の夜の時間に行くか。昼間暑いし。」

 トールはそう言ってこの話を閉めた。トールとアリス、ジャックとレイがそれぞれシュナイダーとバイクでいくことになった。

「留守は私とマークに任せて! 行ってらっしゃい。」

 エルはそう言った。


 ☆☆☆


 

ここでシュナイダー対バイクのレースが始まった。


 四台の機械(マシーン)が道なき道をえらい勢いで疾走していく。
 レースをしようと言い出したのはアリスだ。
 日本国まで一直線の道を走る。砂丘を滑り降りたり登ったりする器用なシュナイダー乗りのアリスに対しおっさん三人は圧倒的に遅い。

 もはや二位争いをするトールとジャックとレイだった。
 トールはシュナイダーにレーザー砲とマニピュレータや爪を追加装備しているからマシンが重い。だから何も装備していないアリスのシュナイダーは速い。水質調査、土壌調査のアイテムしかアリスは持っていない。しかし、操縦技術の差を感じた。
 一方バイクは砂に足を取られつつもスピードを上げていく。
 トールはビリかもしれないと途中でそう思って諦めた。
 四時間ぶっ通しで走ったあと、アリスが急に止まった。
 全員が追い付いたあたりで、「休憩にしましょうと。」アリスが言った。
 レースは一応中断したが、トップはアリス、二位は十分遅れでジャック、更に十分遅れでレイ、ビリがそこから三十分遅れてトールだった。

「速いな。アリスは。なんでそんなにシュナイダーに乗り慣れているんだ?」

 ジャックが聞いてみた。
「私も伊達に何度も開拓地へ行ってないですからね。シュナイダーの訓練は幼いころからずっとやってきましたよ。ここ二百年位。」
「アリス・・・お前もクローン人間だったのか・・・。」
 アリスはトールと同じだったということが分かった。
「私、五十分休んだんで、出発しますね! 皆さんも休んで良いし、ハンデをあげますので休んでも良いしもうスタートしてもいいですよ。」

 アリスはシュナイダーでガンガン走り出してしまった。
 トップを独走している。

「もういいや。シュナイダー。完全オートモード。目標地点まで俺を運んでくれ。寝るから。」「了解しました。マスター。」
 シュナイダーに完全に運転を任せてアリスを追った。

「あいつらずるいな。」
 ジャックはそうつぶやき全速力でスタートした。

「もう絶対負けられない。」
 レイもジャックと同時にスタートした。

  ☆☆☆
 
 レースの結果、アリスをトップに次いでジャック、レイ、トールの順にゴールした。

「いやー良く寝た。」

 ジャックとレイはそういうオートモードが無いからトールの発言にちょっとイラっとした。

「トール氏、同じシュナイダー乗りなのに女子に負けるとかかっこ悪いですよ。」
「レイさん。無理して来なくても良かったのに。次からかっこつけないで車に乗ったらいいと思います。」
 レイの発言に対しアリスがそう言った。
「まぁ。これから交渉したり話し合いをするんでトールさんが休めたのなら良かったです。」
「何でビリっけつのトールに甘いんだ。君、トールが好きなのか?」
 ジャックはそう言った。
「まぁ。前世から結ばれてますよ。エルさんが来なかったらね。」
 突然そう言われても困るがそんなような気もすると、トールは思った。「前世、嫌な思い出しかない。」
 トールはそう言った。思い出の数だけ死んでいるからだ。

「No.123を覚えてませんか? 一緒に行ったじゃないですか。」

 確か氷河期の星だった。水は多いし空気もここと似ていて人が何もしなくても生きられる土地だったが、ここより不毛の土地だったため断念(死んだ。)した土地だ。

「No.122のこの星は更にその前に一度来ていてモンスターにやられて死んだじゃないですか。かなり古い記憶なので思い出せないかも知れませんが一緒に来ましたよ。」
 覚えていないことをアリスに怒られているように感じた。言われてみると思い出す。そうか、だから俺は移住に反対して開発公社時代、市役所の担当だったエルを虐めていたのか・・・。トールはそれを思い出した。

 モンスターと戦うため、という部分についてもシュナイダーは進化して来た。

 シュナイダーカップというレースや射撃競技、格闘戦を同時に行う競技があってそうしたデータがシュナイダーのAIに蓄積されている。以前の開拓よりシュナイダーは格段に進化した。エンジニアのハルがしているG計画も進んでいる。

 だからここが見直されたわけである。
 しかし、取り敢えず森に住むか砂漠に住むか。考えるためにここへ来たのだった。
 アリスは早速シュナイダーで土壌の検査と地下水などを検査した。植物のサンプルもどんどん集めて確認している。

 仕事が早い。

「うーん。別に草木は、毒素があったり、なかったりですね。土地や地下水は地球と同じくらい。そのまま飲んでも大丈夫でミネラルも過不足ないので理想的だと思います。あとは領土問題ですね。向こうのトップに会いに行きましょう。」

☆☆☆

 ジャックとレイは森の中からトールとアリスの様子を見ているようにとトールに言われた。

「それにしても人口の割に兵器多いな。全員が兵士だと思っても良いかも知れない。」
「ああ、ちゃんと手入れがされていそうだ。あのヘリもあの航空機も戦車も現役で使えそうだ。」ジャックはレイの言葉にそう返した。
「破壊工作する?」 レイが少しおどけた感じにそう言った。
「いや、会談次第だな。トールとアリスには盗聴器を持たせてある。ここで会談の様子を聞こう。」

 ジャックは得意げにそう言った。

 ☆☆☆

 先に到着していたエル暗殺部隊改めファンクラブとトール、アリスは合流して日本国の代表者とあいさつし、見学などを行うことにした。

「私が今のところNLA(ニューロサンゼルス)の自治体から派遣されている開拓団の代表者のトール・バミューダです。」

「私は日本国開拓団の代表、佐藤竜です。」

 二人は軽く握手をした。

「私は農耕部隊隊長代理のアリス・サーガッソーです。」

「私は佐藤竜の妻、佐藤恭子です。」

 このふたりも握手した。

「あなた方は夫婦ですか?」

 佐藤恭子がそう聞いてきた。

「いいえ、違います・・・。」

 といって良いんだろうか。と、トールは思いつつそう答えた。
「我々は砂漠に住むか、あなた方のように森に住むべきか、黒蟻の情報を聞いてから思うところがあるのです。」トールはそう発言した。
「そうですね。我々も砂漠で襲われてここへ追い込まれたとも言えます。我々は数も少ないし、協力関係を結びましょう。ただし条件があります。」
 佐藤竜はそう言った。仲よくしようという笑顔は見えるが、その裏で何を考えているのか分からない。ここで関係を悪くしたら、戦争が起きる。

「条件って何ですか? 協力する以外に何かあるのですか?」

 トールはそう言った。何か利害があるのだろうか。
「我々の条件は水源の利用についてです。これを共同で利用するのであれば我々の通貨で利用料の支払いをお願いしたいのです。」
 トールは少し疑問に思ったがその条件ってちょっとやばいんじゃないかと思った。

 今、貨幣経済をここに持ち込むことで言うとこちらにとってはすごく不利だ。彼らのために働かなければ、彼らの貨幣が得られない。彼らのために自治体の労働力を売るわけには行かない。勝手に決められない。

「この森の別の水源を使うという形にしませんか? ここで農地を作るなら。」アリスは慌てず、冷静にそう言った。

「我々の領土はこの森全体です。」
 ああ、そう来たか・・・と、トールもアリスも思った。
「ならばこの森以南は我々の領土としてよろしいですか?」
「駄目ですよ。この星は人類皆の物です。我々は全員来る予定なのです。」  
 トールが砂漠の話をしたらアリスは笑顔でそう言った。
「実は我々もなんですよ。」と、彼らは言った。怖いよ。と、トールは思った。しかし領土問題は太古の昔からある問題だ。

 妥協は許されない。

「しかし、この土地でどんな農業ができるのか気になるところはあります。良かったら農地を見せていただいてもよろしいですか?」アリスは農耕担当として、見たら分かる。野菜は葉物野菜をメインに作っているようだ。

「穀物・・・炭水化物はどうされてますか? 稲ですか? 小麦ですか?」

「主には稲作です。奥の方にあるので、見て行ってください。小麦もあります。」

 彼らの案内で言って見ると、彼ら百人が暮らすには問題なさそうな規模だった。しかし、実際のところ、食料の量はトール達の方がたくさん作っていた。

 設備などもこちらの露地栽培と比べると幾分ましだ。

「それで一リットルあたり水はいくらの使用料がかかりますか? 我々は多種多様に野菜や果物、ここの土地で育つエイリアンみたいな奴、色々作ってます。穀物は小麦と芋、とうもろこし等です。例えば小麦なら百グラム当たりいくらで買ってくれるのですか?」

「水道代は、一リットルあたり0.24円です。小麦はそのまま買っても値段がつけられないのでパンにして売って頂けたら一個あたり百円で購入します。野菜も大体一個百円です。あと、小麦でラーメンを作る外食店を作ってくれたら一杯あたり1,000円で売れます。」

 ラーメンを作って売るとそんなに稼げるのか・・・。やろうかな。ラーメン屋。トールはそう思ったが、アリスは食い下がった。

「土地や水を巡って我々と争うつもりなら止めることをお勧めします。」  
 そうだ。この種の話はそこに行きつく。相手は領土を主張している。
 土地や水、燃料などを奪い合うために太古の昔から戦争はあった。
 彼らの兵器に対し、こちらはシュナイダーが十機。レーザー砲も一応十機分来ている。それをシュナイダーに搭載すれば旧式の機械に負けることはないだろう。強いて言えば航空機やヘリからの攻撃に対してはシュナイダーでは力不足かもしれない。

 どうやら、日本国は貨幣経済を作っているらしいことが分かった。
「しかし、お金はどうやって支払うのですか?」
「全て電子通貨となっていますが、中央銀行という形でそこが中心となってお金を増やしたりすることになっています。村ではこのデビットカードや借金するときはクレジットカードがあります。一応サーバーがあってそれで給料だったり、納税だったり個人の財産だったり管理されています。」

 母船は貨幣が使えたしたっぷり給料も出ていたトールだったが派遣前に使ってしまった。
 そんなことをふと思った。

「取り敢えず・・・取り敢えずなのですが。物々交換にしませんか? 最初は。こちらはまだ貨幣を取り扱う準備ができていないのです。我々はあなた方より厳しい砂漠の地を住処としています。まだ星の全容が分からない状況なので、引っ越すかどうかも少し保留させて頂きたいと思います。しかし我々の通貨とあなた方の通貨が交換できるような仕組みは考えられますか?」
 アリスは二人に向ってそう言った。
「それは、あなた方の紙幣の価値次第だと思います。検討課題だと思います。まずは物々交換からしましょう。黒蟻の襲撃にはくれぐれもご注意ください。森は百人で住むには広いので・・・我々はお金を租税として取りますが是非考えてください。」

 佐藤竜はそう言った。感情が読めない食えない人物だと一同は思った。

「よろしかったら。輸送ヘリでお二人を返しましょうか? シュナイダーは自動運転で戻れるのでしょう?」

「いいえ、我々はシュナイダーで帰還します。今日は会談をさせて頂きありがとうございました。」

 面倒だしお願いしようかとトールが思っていると、アリスが代わりに答えた。


☆☆☆


 ここにゲルグの部隊を残し、四人は砂漠の自分達の基地へ帰還した。

 道中でアリスはペースをトールに合わせて話しをした。

「なあ。面倒だったしヘリで送ってもらっても良かったんじゃないか?」  
 トールがアリスに向ってそう言うと返事が返って来た。

「いや、駄目じゃないですか? だってシュナイダーを無人で帰してもしあいつらに取られたらやばいじゃないですか。別の自治体と会ったら基本的に疑ってかかるべきです。性善説を信じているのは、この宇宙では大バカ者です。」
 アリスはトールを馬鹿にしたようにそう言った。実際馬鹿なのだが。
「しかし、トールさん。なんで都合よく私のことを覚えてないんですか? 何回も一緒に冒険して死んで来たのに・・・。いつも先に死ぬのはトールさんでしたが・・・。」
「ごめんなさい。覚えていなくて・・・。」
 トールは素直にそう謝った。記憶のチップがアリスを削除してしまったのだろうか。

「ごめんなさいはいらないです。これからどうするのかです。私は結局あなたがいないと一生独り身なのです。私の方が正直、エルさんよりあなたにお似合いなはずだと思いますよ。わたしじゃだめですか?」

 この自治体は多夫多妻制を取っている。だからといって婚姻は婚姻する者たち全体の意見が合致しないと出来ない決まりとなっている。だからこのアリスがどれだけ魅力的だったとしても、エルの了解は得なければならない。 
 しかし、目の前にちょっと魅力的な・・・いやすごく魅力的なアリスよりエルの方がトールの中で何かが上回っていた。

「エルさんが私より上回っているのって何? あのおっ〇い? あのでっかい・・・おっ〇いだけでしょ!」
「それ以上言うな。言ってしまったらアリスの品の良いイメージが崩れるから。やめて!」
 トールは思わずヒステリックになったアリスにそう言った。
「アリスさんが俺の事を好きだと言うのは光栄だよ。でも、俺と一緒になりたいなら、エルともうまくやっていかないといけないんだよ?」
 トールはこの星に一緒に送られて来たエルのことを特別に思っている。

 今回の人生はエルと共にあると、トールはそこまで思っている。
「ああ。おっぱいのことは否定しないんだ。男なんて・・・fuc〇・・・。」「いやさ、それは否定できないよ。それも彼女の一部なのだから。」
 トールはふと思った。あれ? それだけ? 
「ほら、エルさんの好きなところ百個挙げてみてくださいよ。そしたら諦めます。」

「そんなことできるわけがないだろ。エルは一緒に来て頑張って来たんだよ。変な生き物に殺されそうになったところを助けてもらったり、エルを助けるためにアグリッパに送り込まれた暗殺者を止めたり大変だったんだよ。これから日本国とやりあっていくのにアリスさんは大事なポジションだよ。これから一緒に苦労するんだから、それを通じて仲よくなって行こうよ。この星では基本的に多夫多妻制なのだから。何人好きになっても良いんだよ。」

 百個良いところ挙げるとか昔の歌で聞いた気がするけれど、百はない。たぶん百個好きなところがあったら、百個嫌いなところがある。男女の仲というのはそういうものだと、何故かトールはそう思っていた。

「分かりました。あなたと仲良くなる前にエルさんとお友達か少なくとも知り合いになります。」

 ☆☆☆

 トールとアリス、遅れてジャックとレイは帰還した。
 エルにさっそく先ほどの日本国の会談結果の話をした。

「貨幣経済・・・か。私たちが彼らから欲しい資源や欲しい物資ならどう考えても自治体をあげてここにやってくる私たちの方が人口の規模が多い分彼らが欲しいものの供給は楽だと思う。」

 エルはアリスとトールの報告を聞いてそう答えた。
「奴らの兵器は旧式だが全部使って攻撃されたら今の状況だと全滅するだろう。常にシュナイダーにレーザー砲をつけておくわけにはいかないし・・・。」

 ジャックはそう説明に付け足した。

「一番の問題はあの赤蟻の抜け殻で脱皮した黒蟻という巨大生物に襲われるんじゃないかという恐怖の件で、砂漠にはいつ奴らが来てもおかしくないということだったけれど、実はあれは生物じゃなく電気を流すと伸び縮みする黒いゴムでできた人工的な機械だということをエンジニアチームのサブリーダーのニック・カーンが突き止めてくれたから砂漠に住んでも問題は無さそう。経年劣化で動かなくなった機械だということ。まぁ、あの竹のオアシスとか、四ツ目の虎みたいな生物は危険だけれど。引っ越しはしなくて良さそうだと思われます。」

 エルは出かけている間に分かったことを説明した。

「森に住む方がいいか、この過酷な砂漠で暮らすか・・・。砂漠に住むか森に住むか、メリット・デメリットを明らかにして住民投票した方が良い案件だと俺は思うがどうだろう。」

 トールがそう言うとエルは頷いた。

「それと合わせて、もうトールさん代表辞めたいでしょう。きつくないですか?」

 エルは選択に悩むトールに関して確かに良い決断をする。良い決断をするがその重責に疲れてきているのではないかと思った。

「まぁ、きつい。結果は見えているけれど住民投票しよう。」

「住民の要望も、まぁ分かるけれど吸い上げて行きましょう。」


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