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ゴジラ

 「臨時ニュースです。遂にゴジラが東京湾に侵入しました!」レポーターは必死の面持ちで、ヘリコプターから中継をしている。
 ゴジラの存在が確認されたのは三週間ほど前。小笠原諸島沖を優雅に平泳ぎしているところを、父島の漁師、瀬堀康太郎が偶然発見した。当初は名前がなく、漫然と“怪獣”或いは“海獣”などと呼ばれていたが、映像を観た政治家のひとりがぽつりと「ゴジラに似てるなあ」などと云ったことから、その怪獣の正式名称が“ゴジラ”になった。
 政府は慌ててゴジラ予想進路図という代物を作ったが、野党の議員はそれを税金の無駄遣いと糾弾し、「ゴジラの位置なんてグーグルマップを観れば一目瞭然ではないのか?」と云って問題になった。
 首相はアメリカ大統領と秘密裏に連絡を取り合い安全保障条約の施行を求めたが、アメリカ大統領に「ゴジラって軍事的脅威? あれって野生動物じゃない?」とバッサリ切り捨てられ、挙げ句その会話内容を週刊誌にすっぱ抜かれる失態を犯した。
 野党のある議員は「こういう時に政府の対応が問われるんだよ。まあ、おれはいい加減歳だからもうどうなろうと知ったことじゃないがね」と云って問題になったが、この人の場合は過去の発言のほとんどが問題発言であったこともあり、国民は「またか」と思った程度で、特に騒がれることもなく収束した。
 一方のゴジラは平泳ぎをベースに、時にクロール、時にバタフライ、疲れると背泳ぎ。挙げ句の果てに日本泳法まで織り交ぜ、そうして着々と東京へと向かっていた。
 マスコミはゴジラの東京接近を大々的なニュースとして取り上げたが、それは何処かエンターテイメント的な色合いを帯びていた。
 無所属のとある議員は秋の園遊会で天皇陛下に「ゴジラの驚異から日本国をお守り下さい」と書いた手紙を手渡しし問題になり、宮内庁はその後「日本を守れと云われても、陛下はウルトラマンでもメカゴジラでもない」とコメントした。
 香港の有名なアクション俳優は「ゴジラの襲撃はむしろ喜ばしいことだ。これで世界がひとつになる。ぼくはそれが嬉しくてたまらないんだ」と発言して問題になり、韓国の大統領は「ゴジラの起源は韓国にある」と主張した。
 中国国際放送は「ゴジラが靖国参拝を目論んでいる」と報道。このニュースを観た中国人の多くが反日デモを起こして、街は壊滅状態に陥った。
 そうこうしている間にゴジラは東京に上陸。ゴジラが近付いても普段通りの生活を営んでいた多くの都民、及び東京近郊の国民が犠牲となり列島に激震が走った。しかし、あるツイッター投稿者がピースサインをしてゴジラの真下にいる写真を添付し、「ゴジラに潰されるなうwww」という投稿を最後に行っていたことが判明すると、国民の多くは何だか都民に同情するのが馬鹿らしくなり、次第に同情の声も薄れていった。
 カメに似たその怪獣は破壊の興奮に飽きたらず、今度は陸路を通って西へ西へと向かっている。
 そうしたニュースを聞きながら、大阪府民は「なんやたいへんなことになってるなあ」と思い、今日も普段通りの生活を送っていた。

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