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台湾の驚くべきイベント対策

新型コロナウィルス厳戒態勢の中、周囲に心配されながら台湾出張に行ってきました。目的は、国立台湾美術館での展覧会です。展示作家として招聘されました。(台湾では、美術館は普通にオープンしています)

台湾政府が取った対策の驚くべき効果はメディアなどでも取り上げられてますが、その実例のひとつとして、私の体験をご紹介します。

ひとことで言うと「リスクは承知の上で、自粛はせず、感染の可能性を最小限に抑えるよう最大限の努力をする」でした。結果として、経済活動が影響を受けているようにはあまり見えず、街も活気がありました。

警戒しながら、どんな形でも良いから予定通り履行する。それは、言うほど簡単ではありませんが、可能だということをこの目で見てきました。イベント主催などで迷っている方々、参考にしてください。

展覧会開催の判断は揺るがず

春節休みが終わった2月頭。まだ日本での市中感染はほとんど問題になっておらず、ダイアモンドプリンセス号がニュースに上がり始めた時期で、中国との往来が多い台湾は真っ先に「汚染国」に挙げられていた頃でした。クライアントは国立の美術館。まっさきに「自粛」をするのだろう、展覧会もキャンセルだろうと予想していました。

ところが回答は以下の通りでした。「台湾政府が頑張ってくれているし、対策の効果が出ることを信じている。私たちも対策はきちんと取るつもりだし、この暗澹たる時期にこの展示が、人々に喜びをあたえることができればと思っている。」

じぶんたちの政府を信じている。そしてじぶんたちの役割を全うする。そう言えるって、すごいなあと、心底感心しまた。

韓国人アーティスト、渡航制限。日本人アーティストはどうなる?

2月中旬は、ダイヤモンドプリンセス号のニュースも世界的に出回っていたので、日本は「汚染国」のひとつに仲間入りしました。その頃は台湾政府の取り組みも成果を出し始め、市中感染は押さえ込めていたので、日本からの渡航者を2週間隔離するかどうかを議題に上げていました。

この間、2週間くらいは、わたしもてんやわんやでした。自分が設置に行けないかもしれない。とすると、展示が成り立たないではないか。そこで、予備プランを二重に用意。現地での代役を用意し、必要物資(香料)を2つのルートで輸送。最悪、行けなくても、展示だけは成り立つように手配しました。

これに対して美術館も出費を惜しまずサポートしてくれ、おまけに「でもやはり、来れるよう祈ってます」とのお言葉。ジーンとくるではないですか。

最終決定は2月25日ごろだったかと思います。韓国には入国制限が適用されたけど、日本には適用されませんでした。そこで、私が健康でさえあれば、台湾に行くことはできるだろうという見込みになりました。ただし、
「日本人は公的エリアへは立ち入らないように、そして自己健康管理をするように」という条件。こんな中、公立の美術館で作業なんてしても良いのだろうかと思いましたが、クライアント(美術館)は全く気にしないようでした。

台湾の空港検疫では、その場で検査できるようになっている!

さて。3月3日に石垣空港を出発し、那覇空港を経て台湾へ。那覇空港ではほとんど人を見かけませんでした。まるでゴーストタウン。フライトも乗客4〜5人で、ほとんどプライベート・ジェット状態。

台北の空港に降りても、ほとんど人を見かけませんでした。で、いよいよやってきました、検疫です! 2重3重になっており、まずはアルコールを手に吹きかけられ、体温検査、その後「中国、韓国、イラン、イタリアに行きましたか? 体調はどうですか?」の問診、そして最後は小さなクリニックみたいになっているところを抜けていきます。体調が悪い場合、その場で検査できるように、お医者さんが待機していました。

日本に帰ってきたときは那覇経由でしたが、検疫といっても問診だけでしたね。台湾は徹底していましたし、検疫を「堂々と」やっていました。シャイな日本にはなかなか真似できない部分です。

空港やホテル、美術館の入り口で、かならず検温(日本が怠っている部分?)

街中には、マスクをしている人は多いけど、していない人もぽつぽついます。タクシーも、窓を開ける人と開けない人どちらもいて、さらにはマスクをしていない運転手もけっこういました。案外のんびりです。新幹線にも乗りましたが、ウェットティッシュでテーブルをふいている人もいたし、そうでない人もいたし。

でも、ホテルや美術館、空港などの人が集まる建物に入るときには、必ず検温があります。「すみませんが、政府のプロトコルで、やらないといけないんです。おでこを出してもらえますか?」と必ずひとこと添えてくれます。

これは日本ではあまり見ない光景ですが、取り入れやすい対策のひとつだと思いました。実際の効果があるかないかよりは、「疑わしきは入れさせない」という毅然とした態度をみんなが保つことに効果があるようです。

なんと、作品を触ったり、食べたりする展覧会! どこまでやるの?

展覧会のタイトルは”Sensory Yoga” 訳すと、「五感のヨガ」。触ったり、遊んだり、食べたりというインタラクションを趣旨とする展示です。こんな展示を、コロナウィルス厳戒態勢の中遂行してしまうというのがとにかく勇敢だなと思いました。

国立台湾美術館のページ↓

http://english.ntmofa.gov.tw/english/showinfomation1_1.aspx?SN=5030

そもそも主催者側がけっこうのんびり構えていたのです。そういう気質なのか、それとも腹が据わってるのか。むしろ作家の方が「でもこれ、触らせていいの?(こんな状況の中)」と積極的に心配するほどで…。「それもそうですね。では、アルコールを出口に置きましょう」とすぐに対応してくれましたが、日本ではありえないやりとりですね。

上に立つ人が、あるていどのリスクは覚悟の上で、ヒステリックにはならないように理性的に状況対処していることの表れだと思います。加えて、お客さんも、リスクがゼロではないことを知っています。リスクゼロにしたいなら、触りもしないし、家の外に出ることもないのだから。なるほど、主催者として、無責任な人の責任まで負う必要はないのです。

フードパフォーマンスは、参加者を内輪(展示アーティストやその関係者)に制限し、全員で透明の手袋をつけ、「参加者自身で食べる」に制限していました。最も理想的な形ではないけど、遂行することを優先するといった工夫が感じられました。

オープニングやアーティストトークは、席と列の間隔開けて

不自然なほど席と列の間隔を2つずつ空けて、オープニングセレモニーやアーティストトークを予定通り、遂行していました。「政府のプロトコルでこうしないといけないので」と最初に断りを入れていました。座れなかった人に対しては、会場外(ホール)へライブビデオ配信していました。そこも間隔をかなり空けて椅子を置いてました。

予定されていた台北でのプレス・カンファレンスはキャンセルされました。おそらく情報を提供することで代用可能との判断だったと思います。

アーティストディナーはまさかのキャンセル!

とても楽しみにしていた、オープニング後のアーティストディナー。これは残念ながらキャンセルされてしまいました。みんなでお祝いする「乾杯」が何よりの楽しみなのに... これにはさすがに、展示上の制限がどれほど入ろうと協調していたアーティストも、みんなブーブー言ってましたね(笑)内輪のディナーなのだから、コロナを理由にするにはちょっと強引じゃない?と。まあ美術館側も対外的ではないものは省略したかったんだろうと理解し、 代わりに自主的に美味しい海鮮居酒屋へ行きました。これはこれで、カジュアルで楽しかったです。

台湾は感染者数がほとんど増えず

「計画を予定通り遂行することを優先する。そのために臨機応変に工夫する」この強い意思が痛いほど感じられた台湾での1週間でした。

しかしこれは、今の日本のように市中感染がそれほど深刻ではない状況だからできることなのかもしれません。台湾は春節直前の総統選挙で、独立寄りの総統が勝ったため、大陸からの観光自粛ムードがあったといいます。ラッキーでしたね。

加えて台湾の穏やかな国民性が挙げられます。新幹線で台北に行く際も、外国人の私たちが新幹線に乗ることを周りはどう思うだろうと聞くと、「台湾の人はみんな穏やかで優しいですよ」とのことなのです。確かにそうでした。こういう時にヒステリックに反応したり、ギスギスしたりは、いちばん避けたいですよね。

台湾という国は、若い人の教育レベルは高いし、みんな英語が話せるし、話題の女性総統といいトランスジェンダーのIT大臣といい、いずれアジアを牽引していく国になるかもしれないなあと思ったのでした。


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