ターゲット理解の第一ステップとは?

マーケティングにおいて、「ターゲットを理解する」が重要なことはいうまでもない。市場調査やニーズ分析の不要論が出ようとも、「誰の、どのような生活を、どう変えようとしているか」というステートメントなくして、マーケティング活動は成り立たない。

しかし、往々にして「ターゲットを理解する」のは難しい。どうしても非人間的なセグメントへと置き換えられてしまう。「30-40代女性」とか「都市在住の共働き世帯」とか。そういう癖に気づいたときに噛みしめたい言葉が、これである。

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都市とはたとえば、二つとか五つとかの階級や地域の構成する沈黙の建造物ではない。都市とは、ひとりひとりの「尽きなく存在し」ようとする人間たちの、無数のひしめき合う個別性、行為や関係の還元不可能な絶対性の、密集したある連関の総体性である。p.7

『まなざしの地獄』見田宗介著

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これは、1968年に起こった連続ピストル射殺事件の犯人Nに関する論考の冒頭部分。あまりに美しい言葉なので、暗記してしまっている。

とくに『「尽きなく存在し」ようとする人間たちの、無数のひしめき合う個別性』のところが、いい。簡単に言ってしまうと、「都市に住む無数の人たちも、一人ひとりにドラマがある」というありきたりな話だ。けれど、尽きなく存在しようとする人間たち、と言われると急に身に迫ってくるものがある。そのあとの論考も、めちゃくちゃいい。

我々マーケターが日々相手にしているのは、「尽きなく生きようする人間たち」である。それらは、たしかにgoogle Analyticsのセッション数やコンバージョン数、アンケート集計数に置き換えられて、我々の手元に入ってくる。そうした数値化を施さないと、全体的な傾向が掴めない。ただし、絶対に忘れてはならないのは、その数字の一つひとつには、夢や希望を抱き、悩み苦しみ、心配や不安を抱き、人の目や評価を絶えず気にして生活する、「尽きなく生きようとする人間たちの、無数にひしめき合う個別性」が厳然と存在している。



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