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創作よもやま話〜プロのシナリオライターとスランプ編〜

写真は一緒に食べに行ったおいしい馬肉

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前職がゲーム会社で、プランナーをしていたことは、かつて話したと思うのですが、
仲良くしていただいた方も、もちろんたくさん居て、会社を辞めた今でも連絡を取り合ったりしている方が、ありがたいことに何人かいらっしゃいます。

提携会社のシナリオライターの方もその内のひとりです。
おいしいものを食べることに余念が無かったり、趣味が同じだったりして、公私共に仲良くしていただいています。

これは、以前その方と一緒にお昼ごはんを食べに行ったときの話です。

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その日は、私とその人だけではなく、他にも何人か仲良くしていた同僚たちとのランチタイムだったのですが、
ふと、同僚のひとりがこんなことをシナリオライターさんに尋ねました。

「シナリオ書いてて、スランプになったとき、どうしてますか?」

その同僚は、私たちの中でも、よりシナリオライティングに近い位置にいた人なので、当然気になることだったのでしょう。当時の状況を思えば、シナリオのことで悩んでいたのかもしれませんが、今となってはわかりません。
とにかく、その問いに対してシナリオライターさんが答えたのはたった一言。

そもそもスランプになったことがない

質問をした同僚も、私もポカンとしてしまいました。
スランプが無い? そんなことが本当にありえるのか?
同僚も同じことを考えたのでしょう。続けて尋ねます。

「でも、書けなくなるときありませんか?」

「確かに書けなくなることはあるけど、その時は少し気分転換をしたり、資料を読んだりすれば、書けるようになるから」

淡々とさも当然のように紡がれるその言葉を、私はにわかに信じられず、ただ「プロってすごいんだなぁ」と思っていました。

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けれど、会社から離れ、色々考えたり、創作に対して改めて向き合ったとき、その言葉に納得している自分が居ました。

そもそも、そのシナリオライターさんは小説から実用書、ゲームに映画、漫画と隙あらば外部からのインプットを怠らず、またボードゲームやTRPGなど、新しいことに積極的に挑戦していく方でした。

キャラクター、ひいてはシナリオを書くのに重要なのはキャラクターの設定とシナリオのテーマです。
キャラクターに深みを出すのは、設定とそれに付随するエピソードを生み出していくこと、とはやみねかおる先生もおっしゃっています。

では、設定、エピソードを生み出すためにはどうすればいいか。

作者の知識をフル動員するしかないんです。

ある知識に、考え方に偏っていれば、どうしたって似たようなキャラばかり生まれてしまいます。
それを避けるためには、どんどん作者が知識や経験を仕入れて引き出しを増やしていくしかありません。

逆に、設定、エピソードが決まっていれば、物語の問いに対して答えが容易に浮かぶようになります。答えを導き出す知識が既に揃っているのですから、あとはその中から答えを探し出し、連想し、繋ぎ合わせ、時にこじつけるだけです。

向かわせたい結末への手綱を握りながら、かつ、こういう状況でキャラはどういう行動を取るか、の反問、反復を繰り返すこと。

それが創作作品を仕上げるという点で大切なのだと思います。

よく、「キャラが勝手に喋る/動く」と言います。私もこのタイプなのですが、これも結局、上記の結果なのだと思います。

つまり、これまで得た知識の中で「このキャラならどの要素を持ち、それによって生まれたエピソードからどんな考え方を持つようになったのか」というシミュレーションをほぼ無意識下で、同時進行的に行っている、問に対する知識の引き出しがとても早い結果なのだと。

シナリオライターさんもこの力がものすごく強い方だったのだと、今は思います。

特にキャラクター設定についてしっかりとしたビジョンを持っており、かつフレンドリーな雰囲気で、ちょっとしたキャラの質問にも気兼ねなく答えてくれたので、イベントを演出する側としてはものすごーーーく助かりました。

作り手と受け手ではキャラの認識に差異があっても問題はありませんが、作り手と作り手の間に齟齬があると矛盾、シナリオライターが伝えたかったこととは別の意図になってしまい、受け手にとっても困惑のもととなってしまうので、作り手同士ですり合わせが常にできる状況というのは、本当に貴重でありがたかったです……!

事実、そのシナリオライターさんが参加しているプロジェクトはチーム全体の雰囲気もいいし、「ヤダーーー私ずっとここに居るーーー!!!」となるくらいストレスフリーで楽しく、また、このすごい物語を届けるために私にできる最大限の力を出そう、と心から思えるものでした。
きっとあのチームに居たら私は今でもあの会社にいたと思います。

そして正反対だったのが、私が休職に陥ったきっかけになったプロジェクトでした。
シナリオライターは自分の中でだけ設定を完結させ、それを共有しない。資料がないので聞くしかないのですが、いちいちそんなことを聞くなという態度で近寄り難く、認識の齟齬によりライターの思っていた形ではない状態で演出の実装が行われてしまう(しかも大体シナリオが上がってくるのが納期ギリギリだった為、修正を入れるタイミングがない)などなどトラブルが尽きず、それはもう闇の世界でした。二度とやりたくねーな。

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だいぶ話が逸れてしまいましたが、小説や漫画などの作品を作る、もしくは創作することで大切なことは、上記に詰まっていると思います。

よく知り、よく問い、よく反復すること

それこそが魅力的なキャラクター、物語をコンスタントに生み出す基礎なんじゃないかなぁ、と思います。

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