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魚影の群れ感想

ずっとずっと積読してたこちらを読みました。

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と言っても、4編の短編のうち表題作のみですが。

残りはまた。

読んで思うところが色々あったので、記しておきたいと思います。

舞台はマグロ漁を行う津軽海峡、マグロ一本釣り漁師とその家族のお話。

以下ネタバレまくりです。

長いです。

家族という関係性をいいことに娘の人格や自由を全く認めない、この主人公の漁師に私は終始嫌悪感と反発を感じました。

礼儀を持って正当な手順を踏もうとしている娘の彼氏がようやく船に乗った際の、オレの事を察しろ的な態度。

「何もするな」と「あれを取れ(しかも一つじゃなくて二つ)」というダブルバインド。

どっちだよ、知るか。

乗る前に口頭で説明しておけばもっとスムーズに仕事できただろうに、結局自分に返ってきている。

自分の行動が未来の自分を不幸にしている。

理由があるから気に食わないのではなく、気に食わない理由をとにかく探している。

クレーマーとか、そういうこと言ってくる人っているよね。

カフェでバイトしてた時「コーヒーカップの持つ部分の穴が小さい!」とレジでキレられたことがあったなぁ・・・

そして極めつけにドン引くのは、彼氏は船上で大怪我をしているのに助けない理由を探して自分を正当化し、船を降りた後も正当化し続けている。

この父親は自己愛性パーソナリティ障害なんじゃないかと思っています。

無視や態度での圧、娘と娘の彼氏に対して、やっていることは悉くモラハラだ。

全拒絶や勘当ではなく、「認めないこともなくはないよ」感をほんの僅かに匂わせているところがまた卑怯極まりなく、爆発しそうなくらい腹が立つ。

「愛情がある」=「所有物」ではないし、感情のはけ口にしていいわけではない。

ほんの僅かな匂わせにより話が通じる相手だと疑わないで、怪我をした後も、最後までまともな手順を踏むべく努力した娘とその彼氏があまりにも不憫だ。

この父親に話が通じるはずがなかったし(もし通じるなら妻が逃げた時点で改心していると思う)、たとえ彼氏が結果を出したとしても父親は認めなかったでしょう。

いや、たまたま運が悪くて彼氏が一人で漁に行ったまま遭難したけれど、大物を釣って帰ってきたら認めてハッピーエンドだったかもしれない、という想像の余地がもしかしたらあってそれが救いなのかもしれないけれど、これまでの父親の言動を振り返ると「ねぇな」って思います。

奇跡的にハッピーエンドへの可能性があったとしても、過去にされたことは消えない。

それともこの娘なら、水に流すのでしょうか。

娘と彼氏が一緒になりたいという一番の目的のためには、婿に入って漁師を継ぐ姿勢を見せるなど遠回りせずに、駆け落ちでも何でもしてほしかった。

この彼氏の漁師への道を止められるものなら全力で止めたい。

レビューを見ると、マグロと怪我をした彼氏を天秤にかけたことを漁師の「矜持」と評しているものもあるが、私はそうは思わない。

自分が気に入った男だったら助けた可能性があるのではないか。

相手が誰であれ助けずにマグロと向き合っただろう、という信念や一貫性が見えれば「矜持」と映ったかもしれないけれど、私には読み取れなかった。

架空の人物とわかっていても、「はぁ(怒)!?!?!?」とイライラしっぱなしです。

今でこそ、「DV」とか「モラハラ」とか「毒親」という言葉が浸透してきたけれど、当時はきっと見えないところでもっとたくさんあったのだろうと想像すると胸が痛みます。

自分でも何でこんなに腹立つんだろう?と考えたら、女性や子供、立場の弱いものが、一人の人間扱いをされていない様子が生々しく描かれていることに対する苛立ちや嫌悪感なのだと思います。

例えばこのコロナ禍でみんながマスクしなきゃいけないのは、まぁ嫌だけどしょうがないかって納得するけど、お父さんはマスク外してよくて私だけダメってなったら何で?ってなる。

何で?って疑問を持つことすら潰されそうだけどそれはさておき、このように正論や一般論が通じない人は存在する。

悲しいけれど、「話せばわかる」は全ての人類に当てはまるわけではない。

当てはまらないケースが身近な人だったら辛い。

うすうす思っていたことに正面から向き合わされたような感覚で、情のある相手が自分を苦しめて傷つけてきたら、じゃあそんな場合自分ならどうするか、それが今回この作品を読んだ意義のような気がします。

また、もし何らかの形で父親の執着から離れて暮らすことができたとしても罪悪感は残るだろうから、真に自由に生きるとはどういうことだろうと考えています。

ここまで散々主人公を悪く言ったけど、決して作品を酷評しているわけではないです(私も「どっちだよ!」になっていないか気を付けて、冒頭を何度も何度も書き直している)。

むしろここまで鮮明な感情にさせてくれることと問題提起に感銘を受けています。

船上や漁のシーンはものすごい迫力とスピード感で、今までマグロのことを調べていた時よりも遥かに具体的に一本釣りのイメージが湧き、取材力に圧倒されています。

マグロコーナーを見る度にこの作品が頭をよぎっています。

一生忘れない作品のひとつです。

そんなことを考えながらどうまとめるか思いあぐねていたら、小田急線で痛ましい事件が起こって、他人事じゃないと思いました。

東京に住んでいるからという理由だけではなく。

誰でも被害者にも加害者にもなりうるのではないか。

「話せばわかる」から逃げる時もある。

それでも、身近な人にはどっちにもなってほしくない。

一般論(今の時代の)からは理解しがたい歪んだ認知からの動機による攻撃が、フィクションではなく実際に起きた。

憤ったり怖がって終わりではなく、そのような認知に至らないような環境を整えたり、また、至ってしまった人にはどのようにケアをして攻撃を起こさせないようにするか、社会問題として考えてゆく必要があるのではないか、と思います。

大事な人や身近な人が、被害者にも加害者にもならないように。

立場や力の差によって女性や子供が理不尽に悲しい目に遭うことが、現実世界ではなくなるよう願います。

【出演情報】

8/22(日)navey floor AKASAKA
『Live House & Artist 応援企画』
出演:あめミー 朴に慄く ARISA 牧野くみ
OPEN/START 11:00/11:15
前売り¥2,500(+1d¥600)
当日¥3,000(+1d¥600)
配信チケット

8/27(金)東新宿 真昼の月夜の太陽※音楽朗読ユニットさかな同好会での出演

真昼の月 夜の太陽 presents
『虹の橋を架ける』
出演:中淳郎、LILY FLY PEY、さかな同好会(18:40~)、谷口深雪
OPEN/START  17:00/17:30(配信START17:30)
ご来場チケット¥2300(ドリンク別)
有料配信チケット¥2000

9/22(水)東新宿 真昼の月夜の太陽※音楽朗読ユニットさかな同好会での出演

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