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「氷室まんじゅう」という金沢の文化

金沢では、毎年7月1日に氷室(ひむろ)まんじゅうという酒まんじゅうを食べる習慣があります。 

伝統文化が残っているという建前でなく、本当にメジャーな習慣です。
会社でその日になると机に配布されていたり、各和菓子店だけでなく、デパートで特設会場がつくられていろいろなお店の氷室まんじゅうが売られていたりします。

氷室まんじゅう見本 市内デパートの売り場

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わたしも、小さい頃から毎年食べています。
この風習は、江戸時代に遡ります。

1. 氷室まんじゅうとは

「氷室」とは、冬の雪を夏まで保管しておくための小屋です。
昭和のはじめまで、金沢の市内各所で見られましたが、冷蔵庫の普及とともに姿を消していきます。
でも、昭和61年、金沢の奥座敷、湯涌温泉に氷室小屋が再建されました。

あわせて、雪を1月末に氷室に入れ、6月30日にその雪を取り出す「氷室開き」も復活しました。
※昨年はコロナで、やむなく中止でしたが、復活以来、金沢の行事として定着しています。

じゃあ、なぜ氷でなくまんじゅうが出てきたの?と疑問がわくと思います。

江戸時代、加賀藩では、旧暦6月1日(現在の7月1日)に貯蔵しておいた氷を将軍に献上にあがる慣しでした。

ただ、夏の氷はとても貴重なもので庶民には手に入りません。
そこで、片町にあった生菓子屋の道願屋彦兵衛が、代わりに食べるまんじゅうを考案しました。この店は、間口が20間もある大店だったそうです。

その後、他のお店もまんじゅうを作りはじめて、金沢では7月1日に氷室まんじゅうを食べる文化ができました。

7月1日は、ちょうど1年の後半の始まりの日です。冷房もない時代、暑い夏を無事に越さなければなりません。
その日に、健康を願って、氷室まんじゅうを食べるのは一種のおまじないのようなものだったのかもしれません。

2. 春日神社と氷室まんじゅう

今年は7月1日に、春日神社のお1日まいりに参加しました。
犀川サイクリングのときにこちらの神社の井戸水で作った氷室まんじゅうがあるとの情報を得て、その井戸を見たいと思っていたところでした。


春日神社は、由緒ある神社です。平安時代に、中央の社寺が各地に荘園を持ち始めるころ、この土地は春日大社の荘園となりました。
そして、947年春日大社の神霊を勧請し、春日社ができたと伝わっています。

朝5時過ぎに、お参りです。

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すでに先客がいます。早春に来たときより早い時間だけど、日の出も早いので、周りは明るくなっていました。   

早春 朝6時頃の春日神社

手水舎をあじさいが埋めつくしています。

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お清めして、ニ礼ニ拍手一礼で、お願いと感謝を伝えます。

氷室まんじゅうをいただけました!
神社の方に、井戸水の話を聞いてみます。
2年前までは、この神社の井戸水で氷室まんじゅうを谷屋さんに作ってもらっていました。

残念ながらコロナのため、昨年今年と氷室まんじゅうは井戸水を使っていないということです。

ただ、井戸水は出ていて、なんと先に見た手水舎の水が井戸の水だというではありませんか。

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戻って、飲んでみました。
少し甘みのあるおいしい水です。
榊を数本もらい、家に帰って飾り、氷室まんじゅうをいただきます。

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ピンクと緑です。どちらもこし餡でした。緑のほうはかなりヨモギの香りが強く、酒まんじゅうというより、ヨモギまんじゅうに近い感じでした。

希少だと噂の谷屋さんの氷室まんじゅう、皮もふっくらとしていて、神社の井戸水で作られたものはさらにおいしいのではと、コロナ収束後に期待が膨らみました。

3. 氷室饅頭食べ比べ

 ①森八

寛永2年(1625年)創業です。
第3代加賀藩主利常創意、小堀遠州の筆による干菓子「長生殿」や羊羹に定評のあるお店です。 

暑い季節には、涼しそうな水羊羹やゼリーも店頭に並びます。

氷室まんじゅうは、酒饅頭というよりは、皮は薄めで、餡がぎっしり、しっとりしています。羊羹の名店ならではです。日本酒の香りのいい上品なお饅頭でした。

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 ②越山甘清堂

明治21年(1888年)創業です。

本店では、和菓子作り体験も実施していて、コロナ前の冬にわたしも一度参加しました。

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酒まんじゅう、焼まんの有名なお店だけあって、皮ががっつりと食べごたえがあります。皮には、糀の風味がしてあんことバランスがとれています。  

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越山には、もう一つ、金沢の人にもあまり知られていない塩氷室まんじゅうがあります。
わたしも、人からもらったことがあって知り、7月1日に探しましたが見つかりません。

ないと思ったら、塩氷室は氷室まんじゅうの時期よりも後に出るものでした。今年は、10日、11日の限定販売だと教えてもらい、またいただくことができました。

あんこがあまり甘くなく、粒あんです。皮にはゴマが入っています。
甘塩好きなので、わたしはこちらのほうがおいしいと思いました。
諸説ありますが、江戸時代に作られた当初のものに近い甘さだといいます。

 ③うら田

昭和11年(1936年)創業、江戸や明治と比べると新しい気がしてしまいますが、85年の歴史を持つこちらも老舗です。

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パン屋さんからはじめたというためか、お店の建物もモダンな雰囲気です。
洋風よりの和菓子、ポップな和菓子もあります。

一見、大人しそうに見える愛香菓(あいこうか)。干菓子ですが、シナモンとアーモンドで華やかな香りがします。微かなにレモン風味もする洋風です。コーヒーやワインにもよく合います。

本筋の氷室まんじゅうに関しては、他のお店が、白、ピンク、緑と色が違っても、すべてこし餡なのに対して、ここのは違います。
白はこし餡、ピンクは粒餡、緑は白餡です。
今回は、白とピンク。

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皮は、薯蕷(じょうよ)饅頭のような香りが少ししました。

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季節の風習や氷室まんじゅう自体の歴史も面白いし、それを売っているそれぞれのお店も歴史があって面白いので、食べ比べつつ、過去をのぞきに行く気分で楽しみましょう。


参考
「金沢の和菓子」
「年中行事の常識67」
尾山神社ホームページ
春日神社ホームページ

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