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韓国ドラマを避けてきたライターが『愛の不時着』にオチた話

 最初に書いておきたい。

 わたしは生まれて1度も韓国ドラマやK-POPに興味を持ったことはなく、なんならそれらを避け続けてきたエンタメ系のライターだ。

 海外ドラマといえばアメドラか英ドラで、特に好きな作品は『SHARLOCK』『ゲーム・オブ・スローンズ』『This Is Us』『クローザー』それとブロードウェイのバックステージを描いた『SMASH』あたりで、韓流作品は『冬のソナタ』が爆発的に流行った時分に1度チラっと見て挫折。それ以来、韓国ドラマ=「すぐ記憶喪失になったり交通事故に遭ったりしちゃうアレでしょ……ナイナイ」くらいの認識で今日まで来た。

 そんなわたしが「Netfrixでランキング1位なのか……へぇ」的な軽いノリで見始めた韓国ドラマ『愛の不時着』にがっつりオチた。現在、2周目を観終わり3周目も完走しそうな勢いである。人生、何が起きるかわからない。

 ではなぜ「韓流ノー興味、なんなら否定派」だった自分がこの沼に不時着してしまったのか、そのあたりを書いていきたい(が、商業原稿ではないので考察よりも感情先行&めちゃめちゃネタバレします)。

 一応ストーリーを説明すると、韓国の財閥令嬢でみずから立ち上げたファッションブランドを大企業に育てたユン・セリが、自社のスポーツウェアのテストでパラグライダーに乗って飛び立ったところ、竜巻に巻き込まれ38度線の北朝鮮側非武装地帯に不時着。そこで彼女を助けた特殊部隊の中隊長、リ・ジョンヒョクとの間にあんなことやこんなことがあって……という流れ。

 って書くと、はあ、それのドコがおもしろいんですか?ありえないっす……ってなる人が大多数だと思うので、ここからは「いや違うの、めっちゃハマるから!」的ポイントを心のままに列挙させてほしい(この先はマジでネタバレ満載です)。

キュンポイントを押さえまくる”彼”

 キュンポイント……使い古された言葉ではあるが、主役のひとり、リ・ジョンヒョクの表情、行動、キャラクター造形……そのすべてが腐りかけたこちらのハートをガシガシ射抜く。

 ジョンヒョク、基本的に表情を変えない。過去のツラい経験から感情を表に出さない彼が、セリとの出会いで閉ざしていた心の扉を少しずつ開き、喜んでみたり、ちょこっとプンスカしてみたり、照れたり、ジェラシーっぽい感情を出したりするのだが、その揺らぎを見せるのはほんの一瞬。ヤバい、ポーカーフェイスだからこそ”微”の感情表出に萌える(だって16話中、歯を見せて笑うシーンがほぼゼロなのよ)。

 現職は北朝鮮の前線を守る将校であるものの、過去にはピアニストを目指してスイスへの留学経験もあり、立ち居振る舞いが非常にスマート。が、恋愛に関しては「母胎ソロ」と評される中学生レベル。身長185cm(くらい?)で、超イケメン、ピアノも弾ければ料理もできておまけに強い。さらに父親は党の総政治局長(関口宏似)というロイヤルストレートフラッシュな男性だ。

 そしてココが1番大事だが、ジョンヒョクはなにがあってもセリを守る。敵が襲ってきた時はチューンナップしまくったバイクで駆け付け彼女をかばって自分が撃たれ、セリが韓国に帰った後は、彼女を北へ奪還しようと暗躍する敵を捕まえるため、24時間の洞窟匍匐前進を経て自らも南に入る。決めぜりふは「見えている間は僕が守る」。

 かと思えば、セリから贈られたトマトの苗木に「1日に10個綺麗な言葉をかける」という指示を守って人知れずそれを実行したり(トマト、嫌いなのに)、ろうそくとアロマキャンドルの違いがわからず「?」となったり、セリのパスポート用写真をこっそり1枚余分にもらって大事に持っていたり、彼女を待って村の家の前を自転車で行ったり来たりと可愛さダダ漏れである。小学生か。

 これらを軍服を着たいい大人&完璧なイケメン男性がひとり真顔でやるのだ。萌えるでしょ、エモるでしょ、ファンタジーってわかってても泣くでしょ。ペ・ヨンジュン来日時に成田まで出待ちに行ったおばさまたちをもう笑えないでしょ。

”強い”ヒロインがめちゃくちゃ魅力的

 『愛の不時着』大ヒットの大きな理由のひとつが、ヒロイン、ユン・セリのキャラクターだと思う。ジョンヒョクがほぼ「完璧」なので、その分、セリが「不完全」な部分を大きく担うのだが、彼女が魅力的に見えないとこのドラマは成立しない。

 セリ、強い。なんならドラマ後半の韓国サイドで自分がイニシアチブを取れる状況の時より、右も左もわからない北朝鮮滞在中の時の方がたくましい。

 地雷原を走り抜け、助けてくれたジョンヒョクにも「お湯が出ない、シャンプーやコンディショナーがない、肉が食べたい」と言いたい放題。「南でのあだ名は少食姫」とうそぶきながら、出された食事はバンバン食べるし、ジョンヒョク腹心の部下4人とも姉さん顔で渡り合い、村のおばちゃん軍団とはすっかり打ち解け彼女たちを味方につける。さすが、一代で会社を巨大化した有能ビジネスウーマンだ。

 真面目で可憐、男性に頼るというタイプではなく、自分の足で立ち、経済的にもバリバリ自立している負けん気の強いヒロイン。だけど、どこか抜けていて情にもろい一面もある。すねても酔っても怒っても可愛くて応援せずにはいられない。でも「セリズ・チョイス」は日本に出店しなくて大丈夫。だって韓国でのセリの肩パッド入りすぎのファッション、微妙にダサいから(北朝鮮滞在時の普段着の方が似合ってた)。

描きこまれた”ささやかな恋”

 『愛の不時着』でジョンヒョクとセリの恋愛模様に並行して描かれるのが、詐欺師、ク・スンジュンと親同士が決めたジョンヒョクの婚約者、ソ・ダンとのささやかな恋。

 てか、登場時にはふたりがこんなに重要かつ沁みるキャラクターになるなんて思ってもみなかった。ク・スンジュンは場を引っ掻き回す適当キャラで、ダンはただ邪魔な恋敵だと信じてたから。

 韓国内の巨額詐欺で命を狙われ、時効成立まで北朝鮮に「キープ」されにきたク・スンジュン。軽くて打算的な奴だったのが、ダンに恋をしたことで自分の中にある純粋な気持ちに気づき、最期は彼女を守って命を落とす。

 そしてダンちゃん!いや、カタキ役なのよ。でも、プライドの高さゆえに初恋相手のジョンヒョクに自分の感情を伝えられず、グイグイくるク・スンジュンにだけ本心を見せるのが本当に可愛い……もうっ、バカっ。

 考えてみればダンちゃん、切ない。中学生のころから憧れてた人と婚約できて、スイスにまで会いに行ったのにその婚約者は自分を覚えてさえいない。ロシアでの音楽留学が終わりさあ結婚!っと自国に帰った瞬間、愛するジョンヒョクは南から来た女に優しい顔を見せ、自らの命すら危険にさらしてる……それってどんなオン・マイ・オウン。

 最後は悲しい終わり方になってしまったク・スンジュンとダンだけど、パラレルワールドで幸せに暮らすふたりの物語が見たい……絶対ダンちゃんがク・スンジュンを尻に敷いてるはず。って書いてたら泣けてきた。

 セリとジョンヒョクが「失うのが怖いから人を愛せなかった」ふたりだとしたら、ク・スンジュンとダンは「心から人を愛することを知らなかった」ふたり。ああ、切ない……マスター、お湯割りもう1杯。

”緊張”と”緩和”のミルフィーユ展開

 『愛の不時着』で上手いなあと思うのが緊張と緩和のミルフィーユ。主役のふたりがピンチに陥りさあどうなる!ってクライマックスで、いきなり北朝鮮の村のおばちゃん軍団やセリの会社の部下たちの面白シーンが差し込まれる。いや、今じゃないだろ井戸端会議は!チキンとビールは後にして!(あのお店、日本支店が笹塚にあるらしいですよ)。

 そしてラブコメ要素も強い本作で”唯一の極悪人”として描かれているのがジョンヒョクの上官、チョ・チョルガン少佐。7年前にジョンヒョクの兄、ムヒョクを事故に見せかけて殺害していたり、文化財の盗掘、麻薬の横流し、関係者の暗殺などやりたい放題の軍人だ。

 悪事がバレて世界最恐(?)北朝鮮の保衛部に捕らえられ、収容所に護送される途中に逃げ出して、セリを北に連れ帰すため韓国へGO(マジか)。死の間際でもジョンヒョクに「お前の父親はお前の死を願っている」とハッタリかまして目を開けたままご臨終するブレのなさ。いや怖いから逝く時くらいは目を閉じて?

 あまりの迫力と憎らしさにググってみたところ、チョ少佐を演じるオ・マンソクは韓国のミュージカルスター。日本でいえば三浦春馬から松本白鸚先生の持ち役まで幅広く演じる超実力派(Twitterで教えてくれた皆さまに感謝)だそう。そうか、だから「俺は路上生活者だった」ってジャベールネタもブッこんできたワケね(違う)。

恋は余白があるから強くなる

 『愛の不時着』は全16話。前半9話が「北朝鮮サイド」で後半7話が「韓国サイド」だ。

 いろいろご意見もあると思うが、わたしはふたりの気持ちが揺れに揺れる「北朝鮮サイド」が圧倒的に好きである。本編の後に流れるエピローグも、「北朝鮮サイド」の方が効果的だった。

 本来なら決して出会うことも結ばれることもなかったジョンヒョクとセリがめぐり逢い、互いに惹かれ合うのを自覚しつつ、38度線が引かれた恋にハッピーエンドはないと理解もしてる。だけど気持ちは止められない……ヤバい、ヤバいよ。さらにふたりは19、20歳の若造じゃない。れっきとした大人である。

 わたしは(これも視聴者それぞれの捉え方だと思いつつ)、ジョンヒョクが軍を除隊し音楽隊に入ってスイスでセリと3年後に再会する時まで、ふたりはキスまでの関係だったと思いたい。それもピンチを逃れるための船底でのキスを除けば4回だけ。余白のある恋ほど思いは募って強度を増すのだ。

3大胸キュンポイント…細けぇことはいいんだよ!

 『愛の不時着』にここまでハマるファクターのひとつが「大人の胸に刺さる切なさ」だと今さらながら思うわけだが、それはドラマ内に常に存在する「38度線」という政治的背景に加え、44歳の女性脚本家が単独でシナリオを担当していることも大きい。だってツボのわかりみスゴくない?

 特にジョンヒョクや隊員たちが北朝鮮に送還された後、セリが自宅で見つける「麺のゆで方」レシピメモや、突然届く「予約送信された携帯メール」はがっつり刺さる。個人的には狙い過ぎ感のある7年前のスイス偶然&運命エピのアレコレより、絶対に会えない場所にいる恋人からふいに送られてくるメールにキュンポイント指数は100倍だ(キム課長、ありがとう)。そしてセリの誕生日に届くエーデルワイス!この花の咲く場所で会おう……!

 と、すっかり不時着したまま3周目を観終えようとしている今日この頃。3周目ともなると「北朝鮮でセリ、着替え過ぎじゃね?」とか「そもそもムヒョクの時計を質に入れたのは誰なのよ」とか「いやいや、韓国国家情報院、そんなにユルくないだろう」とかツッコみどころも出てくるが、まあ、細けぇことはいいんだよ!このドラマで大事なのは完璧に演技が上手い俳優たちがある種のファンタジーを1000%信じさせてくれることだから!

 ということで、最後に誰も期待していない
「独断で選ぶ『愛の不時着』3大胸キュンシーン」を綴って、この長いnoteを閉じたい思う。

 1 4話ラスト、北朝鮮の市場でおばちゃん軍団とはぐれ、暗い中、不安で泣きそうなセリをアロマキャンドルを掲げて迎えに来るジョンヒョク。「香りのするろうそく、合ってる?」「……合ってるわ(涙ポロっ)」

 2 9話ラスト、前哨地の軍事境界線からセリを韓国側に逃がすが、「僕は一歩も踏み越えられない」と言っていた線を越え、セリを追いかけ抱きしめて別れのキスをするジョンヒョク。

 3 12話、誕生日のサプライズに混乱して家を飛び出したセリを追いかけ、バックハグしながら「たとえ離れていても君の幸せをずっと願うよ、君が生まれてきたこの日を感謝し続けるよ」と耳元で伝えるジョンヒョク。

 (ここでドラマ内で流れる宇多田ヒカル的ナンバーや平井堅的音楽が脳内で聞こえてきた人とはいいお友達になれる予感。笹塚のオリーブチキンカフェに集合!)

 はあ、それにしてもドラマ観てここまでキュンキュン騒いで泣いたのいつぶりだろう……心が洗われた感が凄まじい。

 (追記:  2020年 7月17日現在、5周目視聴中 →2023年6月、9周目)

 Twitter  makigami_p


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