66.芸術見本市を散歩する

 ここ最近の2月といえば、TPAMである。ティーパム、国際舞台芸術ミーティング in 横浜という。芸術見本市(Tokyo Performing Arts Market)の略称で、かつては東京でやっていた。
 1995年にスタートして、ヒカシューも2007年にジャズ部門で出演したことがある。その時の音楽部門は、評論家でオーガナイザーの副島輝人氏が一手に引き受けていて、瑞々しい日本の音楽グループをたくさん紹介していた。海外から音楽フェスティバルのプロデューサーも若干名来ていて、リトアニアのビリニュスジャズには、これが縁で出演が叶ったグループがいくつかある。
 2011年に開催場所を横浜に移した。この時から、ほぼ音楽は消えていた。以前から傾向はあったが、演劇とダンスが主な交流の部門であった。2016年にやっと恩田晃によるディレクションがスタートしたが、ニューヨーク在住の恩田氏は、日本の音楽シーンとの交流が浅いと感じられた。副島氏のような日本の音楽シーンに根ざした眼差しがないのが残念であった。
 2019年に満を持して行ったディレクションは、フィリピンの作曲家ホセ・マセダのプログラムで「カセット100」など十分に刺激的なパフォーマンスを堪能できた。
 しかし、最初にホセ・マセダというセレクションを聞いた時の印象は、今更感があった。
 これは、政府の政策でアジアの文化交流に大規模な予算が組まれていたことに関係するのだろう。音楽のほとんどがアジアとりわけ経済的な交流を主眼にしたアセアンの国々のアーティストを招聘していた。北東アジアのシベリア諸国はまったく参加していない。またヨーロッパやアメリカ大陸との交流もあまりなかった。ぼくにとってはとても不満であった。
 しかし2020年は、音楽プログラムが再び消えていて、本当に残念なミーティングになっている。
 それでも今回ぼくが参加したのは、TPAMフリンジに参加したエストニアの振付家Teet Kaskの手伝いをしたからである。Teet氏は、ここ3年くらいTPAMに参加していて、山田うんのカンパニーをエストニアに招聘し、彼らを大成功に導いた実績がある。エストニアのグループの演目は三島由紀夫の「金閣寺」をテーマにしたダンス作品で、ふたりの男女ペアの躍動感あるダンスにチェリストの生演奏が加わり、不思議な緊張感であった。作曲は去年タリンであったSanderが担当していた。
 ぼくの印象では、台湾から大勢来ているようで、知り合いにも会うことも多かった。またケベックのプログラムの卓球をやるだけの作品「Speed Glue」など、ショーケースならではの作品に和まされた。
 2020年、横浜にはダイヤモンド・プリンセス号が停泊していた。3000人に近い収容人数の豪華客船は、折りしも武漢から発生した新型ウィルスの感染源となり、TPAMもこの時期にやることに批判があったそうだ。中国のチームは、出国が許されず参加できなかった人たちもいたという。
 来年は、是非音楽プログラムを復活させて欲しい、切に願うものである。

2020

追記
 TPAMは、現在名称変更しYPAMとなっている。

巻上公一


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