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小声コラム#5 パリ、テキサス

たぶん小学6年のときだったと思う。
きっかけは忘れてしまったけど、父の運転で弟と3人で出かけたことがあった。
目的地はそんなに遠くではないショッピングセンターだったと思う。

でも道を間違えてしまって、ずっと知らない場所を走っていた。
当時はカーナビもスマホもなかったから、車にあった地図を見て現在地を探していた。(最後のアナログ地図だったかもなあ。)

で、現在地は全然わからなくて、父ですら、ここはどこだろうな というすこし困った感じで、とても不安だった。

車は進むにつれて気づけば大きな街にでていた。
そこは大阪の心斎橋だった。
京都の田舎育ちの僕は、急に現れた都会がとても怖かった。
車を止めて道頓堀の近くを迷子にならないように弟に気をつかいながら必死に父を追った。
そんな不安の中、妙に父が楽しそうだったのを覚えている。

いま思い返せば、父と息子の男3人でふらっと旅をしたような日で、男3人で金龍らーめんとたこ焼きを食べる日って、最高だよなって思う。

帰り道はつかれて眠っていたら家についていた。


父はあまり話さないタイプだし不器用なタイプだと思うし、だらしないとこもある。
正直そういう面はあまり好きではないし、仲良し父と子には程遠い。

けど僕はそんな父にちょっと似てるところもあり(父ほどだらしなくはないけど。)、やはり僕は父の息子なのだと実感する。

そんな忘れかけていた遠い日の記憶を思い出したのは、映画館『パリ、テキサス』を観て、父のトラヴィスと息子のハンターが妻を探して男2人で旅をするシーンと重なったからだ。

もともと1人で探しにいくつもりだったトラヴィスに、迷わず一緒についていくと言い、車に乗るハンターを困ったような嬉しいような顔をするトラヴィスの父の顔が好きだ。

ロードムービーの名作といわれるように、道中の車内のシーンはもちろんのこと、トラヴィスの弟ウォルトの家での日常、妻のジェーンとの再会、全部がどこか空虚のくせに温かくて美しい。

いつかまた、男旅ができたらと密かに思う。

僕も弟も大人になったけど、父ゆずりの不器用さで、うまく話させないのが問題だけど、
道に迷いながらでも旅をしたい。

#5 パリ、テキサス

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