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「ONCE ダブリンの街角で」感想(ネタばれあり)/「何ともいえない愛」の話

「ONCE ダブリンの街角で」という映画をみた。

日本でも大ヒットした「はじまりのうた」を撮った、ジョン・カーニー監督の出世作。「はじまりのうた」は私も今年みた中で一、二を争う大好きな映画。

劇中に流れる「Falling Slowly」という素敵な曲があって、それがこの「ダブリンの街角で」から持ち越した曲というのを知って興味を持って、いつか観ようと思っていた。

観終わって思ったのは、この映画は私が今までみてよかった映画ベスト10に入るのでは?ということ。

出会って、惹かれあって、迷って、ふたりは別々の道を選ぶ、端的にいうとそんな話なのだけど、それはハッピーエンドという訳でもバッドエンドという訳でもない。エピローグで、去っていく「男」に対しての気持ちをはっきりと自覚しながら、愛してはいない夫との生活を選んだ「女」はスッキリした顔をしている。それは苦渋の選択でも妥協の産物でも決してなく、ただそういう結末だったということ。そして「男」との思い出ができたからこそ、「女」はこれから家族とうまくやっていけるんじゃないか、と私は思う。

この映画をみるちょっと前に、認知症の元バレリーナの方が、白鳥の湖の曲を聴いて踊り出す動画をみた。

作品を観終わってから、この動画のことを思い出した。そしてこの元バレリーナの方にとっての「白鳥の湖」が、作中の「男」や「女」にとっての、お互いの出会いにあたることになるんだろうと予感した。

この世には、結ばれる、結ばれない、さらにその結末が幸せ、不幸せで分類不可能な「何とも言えない愛」がある。そしてそんな「何とも言えない愛」は、何なら一生消えることなく、いつまでも心に棲みつく。それは思い合って結ばれる「分かりやすい愛」より時に尊く、そしてそんな「何とも言えない愛」がある限り、人生は誰にとっても素晴らしい。それが私が持っている「何とも言えない愛」に対しての仮説。

多くの人にこの映画の魅力を伝えたいなら、もっとふさわしいところがあると思う。ダブリンの美しい街並みが描かれていて、ミュージカル映画といってもいいくらいの劇中歌の多さとクオリティは秀逸。主題歌のFalling Slowly はアカデミー賞をとったし、日本円にして1700万円という低予算でとられた映画だったのに、全世界で250億円の収益をあげる大ヒットになった。スティーブンスピルバーグはこの映画に対し「1年分のインスピレーションを与えてくれた」とコメントし、ブロードウェイのミュージカルにまでなった。

なのに「何とも言えない愛」と私が名付けた「愛」に対する私見を書き連ねたのは、もし同じような方がいたとしたら、と期待しているから。

文章を書く、というのはまだ見ぬ相手へのラブレターなようなところがある。それこそ私が好きな「何ともいえない愛」と近しいものがある、そう思う。

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