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縁取られた世界

愚図る子供を背負い
寝ぼけながら、裸眼で夜景を見た

久しぶりだった

視力0.1以下の世界
光の一粒一粒が、まるで大きな観覧車のように見えた

私はそれを、単に
目が悪い人の見え方、としか思っていなかった

水晶体がピントを合わせようとするたび、観覧車は大きさを変えた

途中から、目が景色を見るのではなく、脳が景色を見始めたように感じた

私の水晶体は補正するのをやめ、やがて
ぼやけた光の夜景を
幻想的な、美しい点描画のようにとらえはじめた

その時私は

何を見ているのか

ここが何処なのか

私が大きいのか
小さいのか

まるで
わからなくなった

そのうち
私を縁取っていたものが
全て外れ

自分もその絵の一部になったような
妙な感覚になった

私は私

私は私

私は

本当は誰

本当は、
あそこにある山と一緒なのではないか

光と一緒なのではないか

植物も
建物も
岩も
背負っている我が子も
何もかもが一緒の生命体のように感じた

しかし、
その感覚は次第に消えていく

扉が閉まってしまう前に…

忘れたくなくて
思わず写真を撮った

映ったその世界は
クッキリ縁取りされた世界だった

何もかもに
境い目があった

私が住んでいる
いつもの
世界だった


文:永山マキ  写真:いわいあや



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