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スカーレット トスとアタック

連続テレビ小説「スカーレット」。

ついに武志が病気になってしまいました。そして、大崎医師役で稲垣吾郎さんが登場しましたね。

昨年の夏、上野美術館のクリムト展に行きました。稲垣吾郎さんの音声ガイドを聴くためです。繊細でやさしい稲垣さんの声は、静謐な美的空間によくマッチしていました。

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クリムトは身近に女性がたくさんいたことから、女性の絵をよく描いたそうですが、それを受けて稲垣さんは「僕も絵を描くなら女性の絵を描いてみたい」とおっしゃっていました。稲垣さんは、女性誌のインタビューでも、こういう女心をくすぐることをよく言われるんですよね。

同時期に豊洲で開催されていた香取慎吾さんの個展「BOUM! BOUM! BOUM!」にも行きました。色彩豊かなアート群の中に、女性を描いた一枚の絵が。そこには、たくさんの「目」が描かれていました。アイドルの香取さんにとっては、女性が「たくさんの目」として描かれるのは、自然なことなんだろうな、と感じました。

稲垣さんの描く女性はどんな姿になるんでしょうね。

今回、注目する台詞は大崎医師の台詞です。

「患者さんの心は揺れます。(中略)大丈夫だよと笑った数分後には何で自分がと怒りに震える。強くなったり、弱くなったりを繰り返すんです。だから、僕ら医師は…僕は、揺るぎない強さを持つようにしています」

大崎医師の台詞を受けて、喜美子が言います。

「うちも持ちます。いや、もう持ってるわ。そんなんとっくに持ってるわ」

「とっくに持ってる」。それは、武志が病気なったと分かった時点からでしょうか? 

いや、違う。貧乏と飢え、女中奉公、父の理不尽、美大を諦めたこと、家長としての責、そして最愛の夫との別れ…。喜美子は、これまでの人生を通して、すでに揺るぎない強さを手にしていたのだ、と視聴者には分かるのです。

無駄なことなど、ひとつもない。この台詞は、喜美子の人生の集大成であり、23週続いてきたドラマ「スカーレット」のハイライトであり、視聴者への力強いメッセージなのだと思います。

この集大成とも言える台詞を引き出す相手役に、稲垣吾郎さんというのがまた素晴らしいですね。バレーボールで例えるなら、トスとアタック。いいトスがなければスパイクは打てません。

これまでの人生において、喜美子が大切に育んできた人との絆が、これから武志の治療に、骨髄バンクの設立に繋がっていくのでしょう。きっと武志の命は救われるはずです。救われてほしい。

以前、「美津との不倫を描かなかった。史実と違う」という理由で脚本を批判した記事がネットに出ましたが、史実とは違ってほしい、もしこういう世界線があったなら、という気持ちをドラマにするのがなぜ悪いのかと思います。むしろドラマの、フィクションの存在意義はそこにあるのではないでしょうか。

喜美子も八郎もお互いを想う気持ちはあった、でも別れるしかなかった。切ないけれど、救いのあるストーリーにしてくれて良かったと私は思います。

スカーレットは、社会的成功や夫婦愛の一面だけを描くことはしません。それにともなう犠牲や孤独、忍耐をじっくり丁寧に描いています。高度経済成長の時代を描きながらも、災後、災間に生きる私たちの苦しみに寄り添い、かつ希望と励ましを与えてくれています。この塩梅がなぜ分からないのか、ページビュー目当てで適当なことを書くのはやめていただきたいものです。

ヒロイン・喜美子のモデルになった神山清子さんの息子さんは白血病に倒れてしまいましたが、武志は、せめてドラマの中だけでも、助かってほしいと願います。それとも、史実どおりに「たとえ自分の命が消えても、後に続く患者さんが救われれば」となるのでしょうか? そうなったとしても、モデルになった方の人生に「スカーレット」が敬意を表することに変わりはありません。

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