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人生という旅をゆくために

2020年はインプットを増やすと決めた。決めたならさっそく動くべし、ということで東京国立博物館の特別展「人、神、自然」を観に行った。東洋館の「東洋美術をめぐる旅」をコンセプトにした常設展の充実ぶりも素晴らしく、想定の3倍くらいの時間をかけて大いに楽しんだ。途中、足を止めたのが「アジアの占い体験コーナー」である。「東洋館をめぐる旅の途中に、オアシスで一息ついて、旅の行方を占ってみてください」とのことだ。旅をコンセプトとした展示において、なかなか粋な試みではないだろうか。シャガイ(羊のくるぶしの骨)を振って占うモンゴルのシャガイ占い、試してみることにした。

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シャガイ占いでは骨の4面を馬・ラクダ・羊・ヤギという4パターンに振り分け、振って出た面をカウントして占う。偶然性から占う卜術の一種で、馬が4つ出たなら「最良の兆し」、羊が2、ヤギが2なら「夢が叶う」といった具合である。振ったところ「成功する」と出たものの、よくわからなんなと思ってもう一度振ってみたら「悪く返ってくる」と出た。意図的ではないにせよ、同じ質問を2度する卜術の禁忌をみずから破ったことを、びしっと戒められたかたちだ。こういうとき、占いというものの油断できなさを思い知る。

案内には「あまり良い結果がでなかったとしても、がっかりしないでください。ラッキーアイテムのスタンプを用意していますので、良い運に変えて、楽しい旅を続けてください」とあった。

東洋美術を巡る旅の途中、遊牧民たちが生んだ占いで見るものは、人生の旅でもあるのだろう。古代から現代に至るまで、人は常に自然におびえ、神に祈り、他人とつながったり争ったりして生きてきた。科学が発展し、人間というものの理解も進み、死ににくくはなったけれども不安は消えることはなく、占いをしては旅の行方に目をこらそうとする。エーリッヒ・フロムが著書『悪について』のなかで「人間は独りぼっちで孤独で物におびえる世界の中の一人の異邦人」と書いているように、淋しく心もとない、弱い旅人なのだ。だからこそ、楽しい旅を続けるには工夫がいる。

人生の旅において、ラッキーアイテムのスタンプになりうるものはなんだろうか。年末年始に読んだ本のなかで、偶然ではあるが上の一文を引用いている本に出会った。松浦弥太郎氏の『ベリーベリーグッド』(小学館)である。氏はフロムの言葉を引きながら、日々仕事をするうえで「12の質問」を自問するようにしているという。引用させていただこう。

12の質問

1.それは、今より少しでも良い解決方法、対応を示したものだろうか。
2.それは、困った、もっとこうしたいの答えになっているものだろうか。
3.それは、お金を払ってでも、知りたい、得なことだろうか。
4.それは、少しでもいやなことを忘れられることだろうか。
5.それは、とても簡単で、わかりやすく、今すぐに、できることだろうか。
6.それは、誰でもよく知っている、親しみのある、身近なものだろうか。
7.それは、人の孤独や寂しさを埋めることができることだろうか。
8.それは、不安や恐怖を拭い去ることができることだろうか。
9.それは、最も大切な人へ向けたものになっているだろうか。
10.それは、世代を超えて、分かち合えるものになっているだろうか。
11.それは、おもしろく、楽しく、新しいか。
12.それは、人を助けることができることだろうか。

仕事についての質問であり、全部Yesと言えることは少なくそうである必要もないのだろう。たとえば5と6、10などは当てはまらないことで特定の層のニーズに応えることもできる。11は、それだけに価値があるわけではない……などと文句をつけるのは野暮というものだろう。これは氏が、自分のために用意した質問なのだから。

たとえば「仕事に関する3つの質問」「人を愛するための3つの質問」などを自分なりに設けておいて、YesなりOKなりのスタンプを心のなかで押しつつ人生という旅をすることは、足取りを確かなものにしてくれるのではないかと思う。ラッキーアイテムはそれを持つことそのものが大事なのではなく「今、これを持っているから自分は大丈夫なのだ。きっとうまくいくはずなのだ」と思えて行動を起こすからこそ、幸運につながる。2020年という旅も始まったばかり。さあ、自分にどんなラッキーアイテムのスタンプを用意してやろうか。


2020年上半期の運勢が本になりました。

フロム『悪について』はこちらです。(私が読んだのは違う訳者なのですが、今はこちらのほうが手に入りやすそうなので)

12の質問を引用した『ベリーベリーグッド』はこちらです。


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