3月のライオン 読書感想文

 3月のライオン 読書感想文

 本作の主人公の名は桐山零という。
 彼は、小さい頃交通事故で家族を失い、親の友人である棋士、幸田に引き取られ、わずか15歳でプロ棋士になった、若き天才だ。その後、六月町にて1人暮らしを始め、周囲より1年遅れで高校に編入するが、その中に溶け込めずにいた。そして仕事である将棋の対局においても不調が続いていた、という場面からこの物語は始まる。

「どういう漫画?」と友人に聞かれたら、私はこの本を「誰もが一度は抱えた孤独や悲しみを乗り越えていくある青年の成長を追う将棋漫画だ」と答える。そして、「子供にも大人にもおすすめしたい最高の作品だよ」とすすめている。ただ単に、「将棋漫画」というだけの説明で終わらないのは、この漫画が将棋だけを取り扱っていないからだ。勿論、対局シーンなど、きっちりと将棋は取り上げられ、彼の人生は進んでいく。その過程で挫折や孤独、奮起、愛なども経験していくのが、少しも違和感のないように思える。作者の前作である「ハチミツとクローバー」を読んだ時に思った切なさも今回の漫画でも感じる。



 読み進めていくと、彼とその世界で生きるすべての登場人物の幸せをいつしか願う自分がいた。この物語には、完全に幸せな人は出てこないと思っている。誰もが、どこか、そして何か悲しみを抱え生きている。主人公なんて、家族を幼くてし亡くしてしまっている。こういう経験を実際にしている人がどれだけいるかはわからないが、フィクションとして読み飛ばせない何か説得力がある。



 彼を受け入れたある家族も、深い悲しみを抱えている。当初その悲しみはわからなかったが、その正体を読者は零と同じくその家族と親交を深めた先に知る事になる。こんな事って本当にあるのか?とはもう考えなくなっている自分がいた。何故そう思ったかの答えを探すと、現実世界でも「ずっと幸せ」な人なんていないと知っているからかもしれない。漫画なので、一人くらい登場させてもいい気がするが、それを許さない作者がいる。作者がどんな人生を歩んできたかはわからないが、主人公の抱える深い悲しみと孤独は、作者にとって他人事ではない気がする、と書くとこの作品がただ辛くて悲しいだけの話なのか?という疑問が出ると思うが、勿論そうではない。笑いや幸せも存分に味わえる。

 のほほんとした下町の日常。溢れる物やお金はないが、はっきりと彼らの生きる時間には幸せがある。下町事情に詳しくないが、憧れさえ抱くその描写は圧巻だ。その零を下町で受け入れた家には猫もいるが、そのしぐさもかわいい。作者の猫愛を感じられる。読むと心が苦しくなる場面もあるが、こういった回や、悩みに挑み、乗り越え、青年と一緒に成長していく感覚が実感出来るこの漫画に、僕は夢中になっています。おすすめの作品です。

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