春の自然の営み
ある春の日、昨年結婚した友人が夫婦でお昼ご飯を食べに来た。
そこで、献立を何にしようかと数日考えた。せっかくなら、旬の食材を使って作りたい。魚が食べたいという、友人からのリクエストがあったので、鯛のハーブグリルと、山菜の天ぷら、ひじきの重ね煮に決めた。どれも地元の旬の食材を使った料理である。
当日の朝、山尻にある野菜畑に向かった。そこは自宅から車で20分ほど走った山間のところにある。車を停め畑に向かう。目当ては、数日前から収穫を楽しみにしていた「タラの芽」だ。高く伸びた枝は、2メートル50センチ程の高さになり、その先に目当ての「タラの芽」があった。私は高枝切ばさみを持って行ったが、自分で収穫をするのは初めてである。丁度知り合いのおじさんたちが道向かいで立ち話をしていた。私は「こんにちは~」と挨拶をして「タラの芽って、どのあたりで切ったらいいんでしょう?」と尋ねた。するとおじさん2人は、それぞれが家にある道具を持って来て、タラの樹の下に来てくれてね。こうして、ああしてと教えながらタラの芽を獲ってくれたんだ。一人のおじさんは2メートル以上の長い棒の先に、鎌を縛り付けたもので樹の先端の「タラの芽を」えい!と切り落としてくれ、もう一人のおじさんは丈夫な皮の手袋でトゲのきつい枝をしならせながら、のこぎりで枝ごときってくれた。そして「先端は食べてな。枝は挿し木が出来るで!」と教えてくれた。それから私の畑を一回りして「マメ科の雑草にアブラムシが密集しているのを見なさい」と言った。「この雑草をとるとな。このアブラムシは野菜につくからな。今は野菜には虫がついとらんやろう。自然はよく出来とるで」と自然の摂理についても教えてくれた。
このアブラムシ、ぜんぜん私には見えていなかった。だって雑草と同じ色をして、びっしりと茎を覆いつくしているんだもん。「あぁ。雑草は、ほどほどにあった方がいいという事やな」と納得した。
そんな想いのこもったタラの芽を天ぷらにして食卓に並べ、友人夫婦を迎えた。なんだか作る前から、胸がいっぱいのそんな春の日の食卓であった。