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『ダディ・ロング・レッグズ』に想う

ミュージカルで大人数口で歌うナンバーが好きだ。QUINTETやMILK、世界の王など、枚挙にいとまがない。血がたぎる感じでわくわくする。

対して、この『ダディ・ロング・レッグズ』は、たった2人でつむぐミュージカルである。なんだか姫川亜弓の『ジュリエット』のようだ。どんなふうな舞台になっているのか、観るまで想像がつかなかった。

ようやく観劇が叶ったのは、北千住の千秋楽であった。
人生で2回目に降り立った北千住、あいにくマルイの休館日で、エレベーターからしか劇場に行けず少し不便を感じる。

(ここからネタバレを含みます)

ジルーシャ:主人公。孤児院育ちだったところ足ながおじさんによって高等教育を受ける援助を受ける

足ながおじさん:孤児院の理事。ジルーシャとは会わない約束で援助する。

サリー:ジルーシャの同級生。良き友。

ジュリア:ジルーシャの同級生。ペンドルトン家のお嬢様

ジャービス:ジュリアの叔父。

さて、幕が開くと(もとから開いているが、開始した、と言う意味で)、上白石萌音のジルーシャがなんとも魅力的に場面を展開していく。ジルーシャを演じながら、途中で他の子供になったり先生になったするのだが、どれもとても自然なのだ。亜弓さんのジュリエットもこんな感じだろうか(まだ言う)。いや、これはビアンカか。

大学の寮から足ながおじさんに手紙を書くジルーシャ。さっそく同級生を紹介するのだが、ジュリア・ペンドルトンの話のときに、私はハッと思い出した。そうだ、足ながおじさんはペンドルトンだった!!足ながおじさんの話はもちろん読んでいたが、あまりにも昔に読んだのですっかり忘れていたのだが、この瞬間に思い出した。

足ながおじさんは、手紙を読んだあとに本棚などのセットに手紙を貼り付けいるのだが、それは最後に生きてくる。

さて、ジャービスとジルーシャの想いを手にとるように感じられる観客には、もどかしいような甘酸っぱいようなハラハラするようなストーリーが続いていく。ジャービスがジャービスとして初めて彼女に会ったとき、ジュリアは大学に面会の許可をもらうのだが、ジルーシャはこう手紙に書いていた。「もし先生たちが、若くてハンサムなジャービスを見ていたら決して許可しなかっただろう。」と。たしかに、後ろで楽しそうに話すジャービスはかっこよく見える、若いかどうかは別として。井上芳雄はやはり舞台映えするなぁ。この手紙を読んだときの彼はどんな表情をしているのだろう。そちらも見てみたい気がする。

大学で、物を知らないことを恥ずかしいと思いながら、自分の環境だけのせいにはしないジルーシャ。しかしながら、彼女の歌に出てくる物語を私はどれだけ読んだだろうか。タイトルを知っているだけではないだろうか…、と我が身を振り返った。

ジルーシャが追試になったことを知られる手紙で、彼女は「滝に身をうたせながら」と記す。この表現、他でも読んだ気がしたのだけど、どこだったろう。わたしの脳みそはポンコツである。

休暇でジルーシャは友達のサリーの家に滞在し、兄のジミーと知り合う。ジミーに焼きもちやくジャービス。こう想う観客もいるだろう、「ああ、じれったい!早く明かしてしまえばいいのに」。だが、彼は決して明かさないのである。

ジャービスは、自分が子ども時代に過ごした農場にジルーシャを招待する。そこで、ジルーシャは面白いものを発見する。ジャービスが子ども時代に大切にしていた本とそれらが入ったトランクだ。これは!足ながおじさんが彼だとバレてしまうか!??と思いきやそうはならない。なぜなら彼女は、足ながおじさんがとてもお年を召していると思っており(白髪かハゲか、気にするくらいに。)、まさかあんなに若いとは思ってもいないのである。ジャービスも観客もハラハラしながら、でも少しどこかでバレてもいい思ってもいる。

このトランクは、この後も大事な場面で登場する。本公演は具象のセットであるが、舞台のマジックでトランクや箱が何役もこなすのだが、思いもよらない二役だ。ジルーシャは、小説を投稿するがかなりの酷評をもって突き返される。突き返された小説を焼却炉で燃やすのだが、その焼却炉役としてこのトランクが登場していた(わたしの見間違えでなければ)。そして燃やした翌朝、ジルーシャは素晴らしい物語を思いつくのだ。ジャービスが話してくれた「自分の知っていることが1番説得力があるのだ」という言葉とともに。そう、あのジャービスのトランクが今までの彼女の固定観念を翻させ、新しいアイデアへ導くきっかけになったとさえ思わせる演出である。さすが、ジョン・ケアード。憎い。

その後の夏休みで、ジュリアとジャービスにパリに誘われるジルーシャ。しかし彼女は家庭教師の仕事をすると断るのだが、そのやりとりでジャービスと喧嘩をしてしまう。ここで、子どものように拗ねたり怒ったりする井上芳雄の演技が絶妙である。大人が無いのに憎めない、さすがの役作りを見せてくれる。また上白石萌音の返しもピタリと息が合い、かつ、あのあどけなかった少女から自立した女性へと変わりつつある片鱗を表現する。

そして卒業式。ジルーシャは足ながおじさんを卒業式に招待する。彼女は首席での卒業となり、晴れ舞台だ。一方、ジャービスは姪のジュリアから招待を受けていた。もちろん足ながおじさんは卒業式には現れず、落胆するジルーシャ。が、彼女はすぐに上を向く。執筆を続けてついに出版まで成し遂げる。

そんなジルーシャにジャービスは求婚するも、彼女は断ってしまう。本当は愛しているのに、孤児院の出であることを明かさないと、足ながおじさんに書き綴る。この時、観客も思い出すのである。ジルーシャにとってジャービスは、自分を孤児院出であることを知る足ながおじさんではない。上流階級のおぼっちゃまで、自分と結ばれるのは難しいと思っていることを。

そして、ジルーシャはプロポーズを断ったことを涙ながらに足ながおじさんの手紙に書く。それを受け取った彼は、会いに来るよう返事を出す。

そして、ジルーシャは足ながおじさんの部屋であり、ジャービスの部屋でもある場所で彼に会う。足ながおじさんに宛てた手紙をジャービスが読んでいたと知って怒るジルーシャ。「あなた、私の手紙をよんでいたの!?全部?」書斎を埋め尽くすかのような手紙がここで生きてくる。そして、話は素晴らしいエンディングへ。

観劇後、わたしは純粋に足ながおじさんを読み返したい気持ちとなった。この感想を書いていてやはり読みたくなったので、読もうと思う。

そこはかとなく世界名作劇場の雰囲気を醸し出しつつ、味わい深い舞台であった。ジルーシャとして成長をしながら舞台で生きる上白石萌音と、良いとこの育ち感があり、感情的な面も見せながら憎めないジャービスを演じる井上芳雄。またとない良質な舞台であった。

ちなみにここからは本編とは関係ないが、カーテンコールでは、トークの井上芳雄も楽しめる。北千住の千秋楽、彼は「みなさま、元気に生きていかれてください」と挨拶。(わたしは、ガイズで気に入ったのだなと思ったw)「明日海りおさんの真似です」と正直に告白していた。

そして、クリエでの大千穐楽、配信で観たところまた言っていたので、本当に気に入ったのだろう笑。

大千穐楽の配信で、上白石萌音が「坂本真綾さんに、『幸せの秘密』に全て詰まっている、と教えてもらった」と話していた。これを聞いたとき、わたしはふとメリル・ストリープの話を思い出していた。アクターズスタジオインタビューで、「どの台本にもなんだかうまく言えないセリフがある。それを言えたら役がすっと理解できる」というようなことを言っていた。芝居を齧ったことのある身としては、大変ハッとさせられたので忘れられないことばである。名優は行き着くところは似ているのかもしれない。

話がとりとめもなくなったが、とにかく素晴らしい舞台であった。再演されたらまたぜひ観たい。

敬称略しています






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