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1年目で辞める未経験エンジニア/採用を後悔する企業の裏側

先立って未経験としてエンジニア入社し、4ヶ月でフリーランスになったというポストがTwitterを駆け巡っていました。私自身は未経験エンジニアが早期退職しフリーランスとして独立(そしてそのノウハウを売る)するムーブメントを問題視しており、下記のような投稿をしました。今は削除されていますがご本人も登場されました。

4ヶ月というのはまた極端な例ではありますが、1年で辞めるパターンは数多く耳にします。今回は私も失敗も含めて経験してきた未経験エンジニア採用界隈の企業側の事情も交えつつ、どうにかならないものかと期待を込めてお話をしていきます。

【注釈】未経験と新卒は(多くの企業では)違う

前提として、現在の未経験エンジニアと新卒採用は同じ0スタートでも日本においては全く異なるスタートラインであるということを理解しておかなければなりません。

00年代のIT業界はまだまだ未成熟でしたので未経験でも入りやすかったという背景があります。大手SIerでは新卒採用がありましたが、自社サービスや中小SIerなどでは高卒だろうが中卒だろうが参入できました。無茶苦茶な高稼働と引き換えではありますが、ある程度身を立てることはできました。

2010年代中盤よりIT業界が一般化し、労働時間も是正され、一般的な職種に近づいて来た中で未経験から新規参入するのにも、お作法が産まれつつあるという状況です。

一般的な就業方法で最もスタンダードなのが新卒採用による入社です。昨今の日本においては新卒カードという言葉がありますが、新卒というのは神聖な輝きをまとっており、別格に扱われます。全くのゼロスタート扱いができるということ、そこから自社のやり方にそって育てられるということにおいては新卒採用というのは多くの企業において型化されています。

加えて、そうした企業からスピンオフした起業家の起こしたベンチャーも同様の気持ちを持っている傾向にあります。私が観察した範囲では「いつかは新卒」という気持ちを持っている起業家が多いようです。新卒を受け入れられるようになると「自社も新卒を受け入れられるようになった」というステージアップを感じ、内定式の集合写真と共にFacebookに投稿しがちです。そして起業家仲間から讃えられがちです。

新卒採用は初めての社会人を経験してもらう一社目であり、幹部候補であり、初(うぶ)な新人の身柄を預かることであり企業としても中途採用とは違う責任が発生すると捉えているようです。

世間で「未経験」として扱われるのは第二新卒も含め、他職種を経験した後のエンジニアへの転身です。二回目なので最初の会社で何らかの思うところがあり、自身で意識して入社して来られた方なので新卒に比べると企業が抱える責任感の重さが軽い傾向にあります。言わば0スタートの中途。年齢的には新卒と呼べないものの、スキルや経験は新卒相当である状態です。

私が見聞した範囲では未経験採用は一定数やっているものの、明らかに新卒とは違う待遇で無意識に区別している企業がありました。新卒は18新卒、19新卒などと呼ぶのに対し、未経験採用者については例え同年齢であっても◯◯新卒の区分には混ぜず、研修も違うという状況が見られました。当初は差別なのか?と思って観察してみたのですが、新卒ありきの文化を元に採用設計・成長設計をしていくと、そこに0スタートの中途を組み込むという発想がそもそもなく、結果的に区別されているという状況です。

以下のコンテンツは未経験とはまた事情が異なりますが、博士以上の経験をした人たちが企業にシフトする際のギャップを図示したものです。受け入れられることはありますが、当該業界で0スタートの中途を新卒以外の待遇で受け入れるということには困難が伴います。

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新卒採用ありきの日本企業では専門職であるエンジニア職において未経験を採用というのは異質な行為であり、まだまだ馴染むには時間がかかりそうだと言えます。

1年未満退職/なれたらゴールで、なり方のHow Toを売る

2018年のプログラミングスクールブームあたりから様子が変わってきました。プログラミングスクールが乱立し、広告合戦が始まると「エンジニア転職で年収100万円アップ」「いつでもどこでも自由に働ける」「1年でフリーランス」というものが2018-2020年に席巻しました。この時点で正社員エンジニアになることがゴールな人たちが現れました。

一部の声の大きなプログラミングスクールにおける年収のくだりは大嘘だったわけですが、2020年後半くらいから年収軸の広告が消え、「いつでもどこでも働ける」「フリーランスになれる」というものにシフトしていきます。

フリーランスを目指そうという話の背景には、正社員エンジニアを目指すと内定が必要なので「転職保証」などにスクールや情報商材屋に責任が発生しますが、フリーランスであれば開業届けさえ出せば達成できるため無責任に煽りやすいという背景があります。

これによりフリーランスエンジニアになることがゴールの人たちの輩出に繋がりました。未経験・微経験での売り上げでは生活が苦しく、彼らが思い描く「年収イッセンマン」には遠いため、自分が如何にしてエンジニアになったか、フリーランスになったかのHow Toを売り始めます。

フリーライダー

同時に問題になるのがフリーライダーの問題です。フリーランスになることが目先のゴールになっている駆け出し層が一定数居ます。そのため企業での正社員実績を作ったり、その教育のフェーズだけを過ごしてフリーランスになることが「フリーライダー」として問題視されています。企業側からすると教育コストだけ持ち出しになるため、嫌がられます。

未経験採用時の企業内の意思決定

全く実務経験がない状態でやってこられた場合、将来的に自社で成長し活躍してくれる人材と、フリーライダーを見極めることは非常に困難です。

ポートフォリオなどがしっかりしていれば良いのですが、大体同じものが出てきます。

iCARE VPoEの安田さんがちょうど下記のようなコンテンツを書かれていました。エンジニア採用における書類や面接対策も情報商材として多く存在しています。別コンテンツに譲りますが情報が数多く反乱し都合の良い情報を取捨選択できる環境の一方で、失敗したくないというマインドが強いZ世代と相まって大きなムーブメントとなり、違いがわからない書類と面接に繋がっています。

面接で人柄を見ようとするわけですが、なかなかうまく行きません。よくあるパターンは下記です。

・学歴が良いのでキャッチアップが早いだろう
・前職が営業職ということもあり、コミュニケーションが円滑にできそうだ
・前職が公安職(警察官・消防官)だから誠実な人だろう/タフだろう
・前職が接客業なのでホスピタリティが高そうだ

ハロー効果も含めた「良さそうだ」という感触と共に、「ここにエンジニア要素が加われば化けるのではないか」という期待を持ちながら面接という30-60分という一瞬のできごとで意思決定をするわけです。

最後に経営層などから言われるのは決まって

上層部「面倒は看られるんだね?」

という念押しであり

エンジニア部門長「はい!大丈夫です!」

と回答するのが未経験層採用です。それ以上の根拠を持つのは0スタートなので非常に難しいです。

多くの場合、未経験は人月ビジネスの方が受け入れやすい

エンジニア採用に苦労している話をすると、「エンジニアが居ないなら未経験を採用して教育すれば良いじゃない」というコメントが聞こえてきます。これは真ですが教育コストと、教育を担当できる中堅社員が必要です。多くの中小企業ではマリー・アントワネット的な「そんな余力無いんだけど」という贅沢な解として捉えられます。

私は自社サービス・自社メディアもSESもエンジニアリングマネージャーをやってきましたが、若手に人気な自社サービスでの未経験エンジニア受け入れの方が覚悟が必要です。

例えばSESであれば社内で基礎学習後、先輩エンジニアと一緒にチーム入場させることで若干であっても(結果的に赤字が発生したとしても)売り上げを立てることができます。

しかし自社サービスでは戦力化していない新人がどれほど売り上げに役立っているのか分からず、経営層への報告は非常に難しいです。

自社サービス経営層「未経験で採用した彼、どう?」
エンジニア部門長「はい。元気に育ってくれています。」

自社サービスでは明確に◯◯を主担当で実装した、△△でサポートをした、というようなエピソードができるまでは上記のような報告くらいしかできないです。その点、若手には不人気ですが人月ビジネスの方が経営層に存在意義を序盤から報告しやすいです。

未経験採用に失敗した企業では何が起きるか

私も何回か経験があります。問題行動があったとか、途中で来なくなったとかですね。そうすると決まって下記のようなやり取りがあります。経験者採用でもありますけども。

「誰が採用したの?」
「どの点で採用したの?」
「面接で分からなかったの?」

時には採用時の面談メモを見ながら大反省会(or 激詰め会)が行われます。

未経験を大量に採用し、1年後に半分しか残らなくてもペイできるビジネスモデルであれば問題有りませんが、自社サービス中小企業だと少数で採用したりするのでダメージは大きいです。その結果、「もう未経験はしばらく辞めよう」という意思決定がなされがちです。

あるいは適性検査やリファレンスチェックが厚くなるわけですが、これも100%ではありません。

人事採用は10年やりましたが面接で人柄を見抜くなんて無理ですし、失敗があっても不屈の精神がないと務まりません。まずもってキラキラとは縁遠い世界です。

未経験採用は企業側も「覚悟」する

個人尊重の時代では駆け出しエンジニア本人の意思がフィーチャリングされますが、受け入れ側にも個人の意思決定の積み重ねがあって受け入れをしています。断じて会社という概念が受け入れを決めているわけではありません。

未経験で入られた皆様につきましては、フリーランスがゴールの方も居られるでしょう。エンジニアになれた道筋を後進に売ることで投資回収を図りたいとも思うでしょう。あなたが見た情報にはそう書いてあったかも知れません。しかし自己本位になると情報を売る後進が通る道を塞いでおきながらもHow Toを売っていることを知っていただきたいところです。

元々専門職であるITエンジニアというのは企業に大きく価値提供できるまで成長するまでは「見習い」「丁稚」のようなフェーズがあります。特に自社サービスでは給与以上の還元ができない間は元気に育つことと、誠実さくらいしかウリにならない状態です。結果として何らかの事情で去ることになったとしても、採用してもらった人たちに後ろ足で砂をかけるようなことはしないであげてください。

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最後に

別に◯ヶ月居たら禊が済む/次のステージに行って良いという話はありません。納得が行くキャリアを歩んでください。



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