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ITエンジニア採用の最初の壁は社内にあり

 

 前回お話したITエンジニア採用シーンの解説記事では大変大きな反響を頂き、退職エントリに次ぐPV数に驚いております。ありがとうございます。一方で「これが足りない」というお話を1件頂きまして更新しました。概ね網羅できていたようで安心しています。書きすぎかなと思いましたが、それくらい大変な採用シーンが拡がっているということだと思います。

 今回はエンジニア採用に際して立ちはだかる社内の壁について、私が見聞してきたアンチパターンも含めてお話していきます。

ITエンジニア採用の最初の壁は社内にあり

 ネットマーケティングでメスライオン宇田川さんと出会い、エンジニアを巻き込んで採用しようと言い始めて4年ほどが経過したようです。少しずつではありますが人事・エンジニア有志(主にCTO, VPoE, 部長, EM)の連携が始まったり、ジンジニア(エンジニアから人事よりに転向してきた方)が登場しているように思います。ちょっと怪しいのがコロナの影響で経営判断により鈍化、もしくは後退している企業があるようですがその話はまた今度。

 人事とエンジニア有志が共同関係にあった場合であっても、どうにもうまく行かないケースがあるようです。それは何なのかを分解・図示していくのが今回のテーマです。早速。

20200920 ITエンジニア採用は総力戦

 色々とお話をお伺いしていると、採用を巡って社内がギスギスしている状態が多々見られます。下記の「不機嫌な職場」にもありますが採用プロセスの複雑化だけでなく、新卒一括採用・終身雇用の傾向が薄れ、業務が専業化していった結果相互フォローをする機会が減ってきたというのはあると考えています。10年ほど前の本ですがおすすめです。

 従来型の組織であれば、社員旅行などの社内イベントや(私は嫌いですが)喫煙所などで顔を合わせるうちに業務を越えた社内の知り合いが増え、困っていたら助けるようなこともありました。今だと難しいですね。この流れはリモートワークやジョブ型へのシフトで加速していくでしょう。

現場のエンジニアとの関係性

 人事と有志のエンジニアだけが協力していれば良かったのは2-3年前で限界を迎えたように思います。その理由は先のコンテンツでいうところの、採用における種まきと声掛けの多様化です。

 私が採用に関わり始めた2012年頃、まだまだ採用の中心は人材紹介業でした。求職者は基本的には紹介会社の先に居るので、紹介会社のエージェントに理解してもらうための資料を作成し、彼らにプレゼンし、定期的にアップデートするくらいで後はエージェントに任せれば面談や面接にいざなうことができました。

 ここ5年ほどでスカウトが一般的になってくると、求職者はデータベース上に居るものの、声掛けはセルフサービスです。ここで頭角を現したのが先のメスライオン宇田川さんです。以下に恋文たるスカウト文を打つかについて業界を牽引していかれました。

 その一方、スカウトを受ける側としても特に後押しをしてくれるエージェントは居ないので、知らない会社からのお誘いは「ドコダコレ?」となります。可能な限り「あの会社か」とエンジニア界隈で自社の名前を売っておくべきですし、「ドコダコレ?」を受け取るために種まきをしてGoogleやTwitter検索に引っかかるようにしなければ闇雲にスカウトを打っても響かない局面が産まれてきています。

 エンジニア採用が激化し始めた2015年前後、私がエンジニア新卒向け逆求人イベントに初めて参加し始めた頃のお話です。まだまだ対外的な露出は少ない所属企業だったのですが、面談後に回収されたアンケートに「面談については楽しくお話をさせて頂き有意義だったが、知名度が低い会社なので検討に値しない」と書かれたことがあります。これは悔しかったですね。もう参加辞めようかなと思いました。しかし今思い返してみると、この頃から既に仲介者がない状態では知名度が求められる、つまり種まきにコストをかけなければならない状況は始まっていたのです。

※逆求人イベントについて補足します。20-50名の学生が貸会議室などに集められ、20社程度の企業が集まり、各学生がやってきたことややりたいことをプレゼンするのを企業側が聞き、サマーイベントや本選考に進んでもらうべく口説く場です。

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 では年々バリエーションが広がる種まきや声掛けの手段をどうするべきでしょうか。先のコンテンツより切り出してきました。例えばテックブログ、イベント運用、リファラル。これらは非常に効果的ではありますが人事とエンジニア有志の若干名でやっていてもスケールしません。

 そのためにも通常のエンジニアであっても採用に対しての意識を持って協力してもらわねばなりません。いわゆる採用の自分ごと化です。「採用は人事の仕事じゃないんですか?」というエンジニアの心無い言葉に対してCTO/VPoEはエンジニア組織に対して根気よくプレゼンする必要があります。背景を説明し、皆の協力なしには成功できないことを演説しなければなりません。そしてそこに納得性を産むための評価やサンクスボーナスなどの仕組みを作って置くと効果的でしょう。ちなみに休日出勤手当てだけというのもその差額目当てになるケースがあり心身ともに疲弊に繫がります。同様に特定の人物をリクルーターに立て続けることも当人の退職リスクが上がる可能性もあり、オススメできません。広く協力者を募れる体制が必要です。「社員全員がリクルーター」と標榜される企業さんも居られますが、市場的には絶対王者のGoogleさん以外は全員が何らかの形でリクルーティングに関わらないと行けないのが今の日本市場だと捉えています。

経営層へのプレゼン

 経営層であれば透過した採用費用を回収したいのは当然ですが、残念ながらITエンジニア採用の場合はここを改めて頂く必要があります。

 特に種まきのところはリターンが即座に見込めるものではありません。確度も不明です。例えば勉強会登壇。ある勉強会運営を得意とする会社さんが仰っていたのは「採用に繋がるのは2-3年後、その時の聴衆が転職を考え始めた時に思い出すきっかけになるかもくらいと捉えてください」ということでした

 私も以前、会社の名前を背負ってとあるメディアに定期的な執筆をしていたのですが、当時の上長から「その執筆について評価をするにあたり、目標値を設けてはどうか。例えば久松さんの名前を見て面接に来た人がクォーターに3人居るとか」と言われたことがあります。発想が漁です。応募者は回遊魚ではないのです。漁ではなくスカウト。投網ではなく勧誘なのです。

 経営層に持って頂く必要があるのは採用「費用」ではなく投資という感覚です。すぐに回収できるかも知れないし、数年後に回収できるかも知れない。もしかしたらできないかも知れない。

 採用はしたい、内製化もしたいがそんな余裕がないという場合もあると思います。一人あたりの紹介料はそれなりに掛かりますが、種まき・声掛けのコストがほぼ不要で結果的に安く済む可能性の高い紹介会社あたりで手堅くPjMを採用しその方を起点にSIerに開発を依頼されたり、やや割高ですがフリーランスに依頼するというのは戦略としてはアリだと考えています。

思った以上にヒトが居ない

 無事?現職のLIGでもエンジニア採用に関わり始めました。新しい挑戦としてフィリピンはセブ島でのエンジニア採用というのも出てきていまして日本との違いを強く感じているところです。日本のウェットな採用にどっぷり使っていた身としては、ドライな空気に驚いていますが、このあたりもある程度知見が溜まりましたらまとめてみたいと思います。

 落合陽一氏の2030年の世界地図帳にもありましたが、国外に出てみると人口減少や高齢化に苦しんでいる国は日本以外になく、学会などで他国に労働資源の代替としてのAIを説明する際にはこうした背景を踏まえた上で説明をしなければ理解が進まないとのことです。

 私はこれはエンジニアの採用シーンでも恐らく同一のことが言えると考えています。私が相談を受けている日本支社でITエンジニア採用をされている企業さんでも、本国と日本とのエンジニア採用についての温度感の共有なども課題の一つになりそうです。もっというと少子高齢化を抱えているが故の異常さがあります。その上で投資や協力体制を作らねばならないのです。




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