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エンジニアバブル後に揺らぎ始めた人材業界と、その生き残り対策

先立って下記のようなIT業界への転職が活況である旨のニュースが流れていました。

特にリモートで働きやすいIT業界への関心が高まっている。プログラミング講座を提供する人材会社ポテパン(東京)の宮崎大地社長は「飲食、営業、介護など様々な業種の人がITエンジニアへの転職を望んでいる」と話す。

ITエンジニアを志望する方が増えるのは結構なことだとは思いますが、専門職の一角なので数ヶ月の勉強でなんとかなるものではありません。

一方、転職希望者の約87%は1年後に転職していないという調査もあります。

総務省「労働力調査」によると、2021年の転職希望者数は889万人である(図表1)。時系列推移をみると、1968年から2000年初頭までおおむね年々増加している。その後約10年は横ばい推移であり、2011年の東日本大震災以降、約200万人増えた。2015年以降はわずかではあるが増加傾向にあることがわかる。一方で、転職者数は1980年代半ばの150万人から徐々に増加していたものの、2000年以降は約300万人前後で推移し、増えていない。この20年間、日本の転職希望者は増えているのに、転職者は増えていない状況がみてとれる。

ITに特化したデータではないものの、希望したから採用されるというものではありません。これは人が動けば動くほど儲かる人材業界からすると悲報ですが、現実的な状況であると捉えています。

2022年11月以降の不景気により、エンジニア採用シーンにも具体的な変化が現れています。6月の下記コンテンツではエンジニアバブルと人材業界の動きについてお話ししましたが、今回は具体的に起きている変化に言及しつつ、一番の煽りを食らうであろう人材紹介業界についての予測をお話します。

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確からしさが求められる正社員採用

2022年までは頭数を重視し、詳細を妥協して勢いで採用をしていた企業がそれなりに存在していました。欲しい人物像やスキルセットも曖昧なまま採用している企業すらありました。内定を出した際の並行のかかりかたも大きかったため、入社してもらってから考える企業もありました。採用フィーも潤沢だったため、人材紹介フィーの高騰も起きていました。こうした事象が人材業界を盛り立てていた側面があります。

続いてスキルレベル別の現状についてお話していきます。

受け入れ先がなくてダブつく未経験・微経験正社員

未経験歓迎の企業は大幅に数を減らしました。比較的良質な条件で入社が決まる場合、下記のような傾向があります。

  • 面接用ではなく、継続して個人で作ったアプリケーションの存在とGitHub提出

  • 自社サービスの場合は高い事業への興味や理解

  • 技術的な質問に対する伸びしろを感じる返答やコミュニケーション

  • 「リモートワーク必須」と言わない

ポートフォリオについては2022年頃にはあまりに似たような作品が溢れていたこともあり、不要説が流れていたことがあります。しかし今では未経験・微経験界隈のハードルが上がっていることから再度求められるようになっています。

自社サービスの採用ハードルは厳しく、2022年までは積極的に受け入れていたSESでも採用ハードルが上がっています。候補者がフルリモートワークを希望したりするとNGになる傾向が見られます。地方在住の未経験・微経験層でかつ地方拠点にも出社したくないとなると、かなり絶望的な状態です。

誰でも良い求人はあるものの、数は少なくなりました。エンジニアとしてのSES求人であっても家電量販店営業やコールセンター、入社後の適性検査を経てからの総務部配属などの事例も引き続き確認されています。

未経験・微経験フリーランスの受け入れ先としてのSES・派遣

前述した経験者以外の場合、案件獲得に難航するようになりました。確認されている事象としては下記の動きがあります。

フリーランスエージェントの関連会社への正社員化の上、SES、もしくは紹介予定も含めた派遣契約で入場する流れが見られます。

昨年までの好景気化であればフリーランスも決まりやすかったのですが、現在は企業側が慎重になっているため、上記のような流れが産まれています。元々のフリーランスブームは「いつでもどこでも働ける」「正社員より多い手取り」という言説から産まれてきました。しかし現在はフルリモート可の案件も少なくなっており、フルリモート案件を募集するとある程度年齢や経験年数、技術を強めに設定しても倍率60倍になったという話もあります。

未経験・微経験フリーランスが何かしらの就業ができていれば当初思い描いたゴールと異なっていても生きていく上では良いかも分かりませんが、X上ではそのまま行方不明になっているケースも少なくないため良く分かりません。統計データをまとめているところもありません。

投資や情報商材やスクールに通った金額を少しでも回収するために「フリーランス」のなり方などを情報商材として売っている人たちも居ますが、長続きはしない傾向にあり、更新が滞った最近作られたアカウントを良く見ます。

お金に困ったフリーランス界隈ではお金配り詐欺アカウントのRTをしているケースも有り、闇バイトに走っていないと良いなと願うばかりです。下記のNHKスペシャルによると、家庭環境や金銭の状況と、闇バイトに手を出すことには関係が見られないそうです。興味本位で応募をしたところ、個人情報や家族の情報を盾に脅されて手を出してしまうものだそうです。犯罪に走るようなケースが増えなければ良いのですが。

経験者であっても誰でも良い訳では無い

経験者でかつカルチャーマッチする場合は正社員転職が可能です。経験者であるフリーランスについてもコミュニケーションに問題がなければ案件獲得は可能です。

2022年までは「短期の選考でさっさと内定を出す」という手法を取る企業が多くありましたが、今は候補者の確からしさを重視し、企業が選考期間が延びることに目を瞑ってもリファレンスチェック導入やスキルテスト導入を検討し、相談に来られる方が多く見られます。

今でも「選考期間を短縮しないと決まりませんよ」と煽る人材紹介会社があるのですが、もっと内情を知るべきでしょう。3ヶ月を超過したら返金規定を満了する人材紹介とは違い、正社員はそうそう首にはできないのです。

人材業界の試練はこれから

2015年から2022年11月まで続いたエンジニアバブルでは、その周辺で採用に関わる商売をしている人たちも非常に潤い、一大市場を形成するまでに至りました。それが人材紹介、スカウト媒体、フリーランスエージェントです。

中途人材紹介

人材紹介についての動きは下記のnoteで触れさせていただきました。

これまでのエンジニアバブル化では、採用人数の達成が第一であり、採用ハードルが低かったため、キーワードマッチ+年齢で決められることが多い傾向にありました。その結果、本人のキャリアについてのヒアリングを軽視した雑なマッチングが散見されるようになりました。

SES営業担当者やフリーランスエージェント担当者でよく見られる傾向ですが、受け入れ企業と候補者のそれぞれを下記の条件でのみジャッジする人たちが居られ、人材紹介会社の中でもこうした方がそれなりに見られるようになりました。

  • 利用している言語

  • 経験年数

  • 年齢

またここ数年はこの3点すら見ていない人材紹介会社担当者も多く見られます。企業人事からすると真面目に見ようとはするものの、全く要件と異なるので疲弊していきます。2021年頃から見られた傾向として、人材紹介会社内企業側担当者の採用ハードルを下げて積極採用し、ひたすら候補者の応募数を回すことで1-2%未満の内定を目指すタイプの人材紹介会社が登場しています。選考ハードルの高まりを踏まえると多くの人材紹介会社は大きく売り上げを減らしていくでしょう。

現在は採用を間違えたくない企業の思惑を汲み取らないと厳しいです。今でも積極採用をしている企業はエンジニアバブルの競争に乗っからなかった企業郡も見られ、私の支援先でも「何故この人材紹介会社は紹介クォリティが低いのか」「どうして選考辞退の理由がわからないのか」と怒られることが多々あります。しかし残念ながら多くの場合において「契約している人材紹介会社の担当がこのレベルです」と説明をした上で、交代を進言するか、交代しても何も起きない人材紹介会社なので優先順位を落とすしかできません。今後はこうした動きがあちこちで見られるため、雑な人材紹介会社担当者は淘汰されていくことが予想されます。

企業・候補者双方に対する丁寧なヒアリングはもちろんのこと、それをする上で内容を理解するだけの業界理解、歴史理解、トレンド理解、顧客である企業課題の理解といった要素が必要です。このあたりは専門性の教育も行っておりますので、需要がありましたらお問い合わせください。

スカウト媒体

経験者層はしっかりとは選ばれるものの、求人を行っている企業は多く存在します。そのため人気のペルソナである有名企業でのミドルクラス(-1000万円未満目安)へのスカウトは活発化しています。中には一日に150通のスカウトを受けているケースもあり、「怖くなったのでスカウト媒体を退会したい」という声も聞いています。

ここ半年でスカウト返信率が低下し、文面に工数をかけてカスタマイズする人たちも大きく減り、コピペかRPAで送信されているためどんどん開封されなくなっています。

それでもこれまでは「1人を採用するために通過率、返信率、開封率と逆算してn通送りましょう」と媒体側も言ってきたわけですが、流石にそれを唱え続けるのも厳しい送信通数になってきました。多くのスカウト媒体においてはスカウト通数がチケット制となって売っているため、企業からすると「打っても反応のない何かに課金し続ける」状態となっています。確率の低い1つの当たり、それ以外はハズレというガチャを回し続けている状況のため、解約を検討する話も聞こえています。

下記は先日発表されたデジタル人材の採用に関するシステム・ツールカオスマップですが、実にスカウト媒体は多いです。適切な数まで淘汰されていくことが予想されます。

フリーランスエージェント・SES

未経験・微経験を中心にフリーランスが増えて来たことから、彼らの営業代行のようなポジションでフリーランスエージェントが増加しています。

スカウト代行が厳しくなってきたRPOからのフリーランスエージェントへの転身も確認されています。派遣業のように免許が不要であり、正社員という固定費も掛からないことから着手しやすいものと思われます。

撤退する新興SESも見られます。ここ数年は稼働している人たちへの還元率を高めた「高還元系SES」が見られていましたが、元々会社に残るキャッシュを削って人を集め、薄利多売で儲けようという思想のため少しでも人の流れが滞ると「思ったより儲からないな」となり、撤退するようです。

高還元SESにお勤めの方にお話をお聞きする機会がありましたが、売上のn%が取り分となる契約だそうで、案件未アサインの待機状態になると給与が0円になるそうです。社会保険の申請書類が適切に書類されているのか心配なだけでなく、どういう雇用契約書なのか是非見てみたいものです。

また、Xでは「待機しているSES人材(給与は出している)に対して案件を持ってきて『そろそろ給料分働いてもらおうかな』と言うと『毎日出社しているので働いていますけど?』とキレられた」という話もありました。こうした人材は景気が良かったからこそなんとなく存在できただけであり、これから金銭的にシビアになってくると淘汰される可能性が高いです。正しくお金の流れを理解し、企業側はそれについて説明をしていくことを強くお勧めします。

HR界隈に関わる人達への懸念

志の低い人材紹介にせよ、スカウト媒体にせよ、マーケティングのような母集団の発想で「数を打って数%決める」というやり方をしてきましたが、そのやり方に転機が起きています。

真摯に企業と候補者に向き合い、角度の高く少数で決めていくアプローチが必要でしょう。そのためにはこれまでのようなキーワードマッチでは足りません。しっかりと業界を理解する勉強をしていきましょう。

7年という長期に渡ったエンジニアバブル。人材の流動化が激しい現在では、不景気を経験したことがないプレイヤーも多いです。企業である以上、右肩上がりの成長が期待されるのは自然なことではありましたが、この7年が特別だったのです。これからが正念場です。

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