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過去から抜け出すために〜『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』感想(ネタバレあり)〜

(以下、映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)


映画を見ていて、まず、「オールドスクールな作風」に目を引かれました。
冒頭から、映画の製作会社の古いロゴが映るという遊び心溢れる演出によって、映画の舞台となる1970年の世界に、シームレスに入っていくことができます。そして、本編が始まってからも、70年代当時のようなフィルムの質感を持つ映像や、キャット・スティーヴンスやバッドフィンガーのようなその時代のアーティストの楽曲の数々などによって、まるでタイムスリップしたかのような没入感を得ることができました。また、そのように過去の世界を再現するにあたって、デジタル撮影したものをポストプロダクションでフィルム撮影のように見せたり、70年代の曲に混じってダミアン・ジュラードの2014年の曲「Silver Joy」を用いたりと、現代の技術や素材を臨機応変に使用しているのは面白いと思いました。

映画全体の語り口の上手さも印象に残りました。
クリスマス休暇の間、学校に居残りしているハナム先生、料理長のメアリー、生徒のアンガス。三人それぞれ、ハナムは大学時代のとある出来事(とそれに付随する現在の自分)、メアリーは息子との死別、アンガスは父親との関係と、自分の過去から脱け出せずにいます。三人が過去にとらわれて右往左往する様を、休暇の間学校に閉じ込められてどこにも行けない様になぞらえる構成が見事です。
そして、自分を縛り付けているものの象徴である「学校」の外へ出ることによって、それぞれ目を背けてきた過去と対峙することになって(メアリーはパーティ会場で、ハナムとアンガスはボストンで)、自分を変えて未来へと進む足がかりを得ることになるわけで、この展開も巧く出来ていると思います。
ラストも、一見ほろ苦い展開に見えても、ある登場人物の自分を縛り付けていた「過去」からの旅立ちを描いているようで、キャラクターの新たな門出を祝福するかのような温かみが感じられました。

俳優陣の演技も素晴らしく、アンガスを演じたドミニク・セッサは、これが映画初出演というのが信じられないくらいの好演でした。

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