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単純な悪人はいない〜『ダム・マネー ウォール街を狙え!』感想(ネタバレあり)〜

(以下、映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)


単純に善と悪に二分された勧善懲悪の側面だけではなく、様々な人間の面が描かれているのが今作の魅力の一つだと思いました。
例えば、ケイブ・プロトキンやブラッド・テネフといったこの映画で「悪役」にあたる人たちは、冷酷な悪人という描かれ方はしていません。むしろ人間味があり共感できる部分が描かれています。セス・ローゲンが演じるプロトキンは、緊張すると手で額の汗を拭うシーンが繰り返し描かれたり、セバスチャン・スタン演じるブラッド・テネフは、オンラインの公聴会で画面に映らないところでしきりに貧乏ゆすりをしています。彼らは冷血な悪人というよりは、追い詰められて平常心を失っている小心者という印象を受けます。
一方、キースの主張に同意してゲームストップ株を買う投資家たちも、理想に燃えて巨悪を倒すヒーローたちという描かれ方ではなく、それぞれ様々な理由で生活に困窮している小市民で、物語の最後にも株を売って損を免れた人、すべてをつぎ込んで大損した人などなど十人十色の顛末を迎えることになります。
このように、キャラクターや事象を多面的に描く手法は、同じく金融業界を舞台にした映画『マネー・ショート』を思い起こしました。難しい経済用語がわからなくても、胸を熱くする人間ドラマとして楽しむことができる点も両作は共通しています。

また、新型コロナウイルスによって、ステイホームを余儀なくされて人々の繋がりが分断されていた世界を舞台に、キースを信頼して結びついていく投資家たちの様子も感動的でした。

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